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私はこういう“不良”と呼ばれるような男が、苦手だった。  


平気で人の領域に入り込んで踏み荒らし、平然と去っていく。どうしてそんなにズカズカ侵入できるのか、心底理解に苦しむ。  


行動も言動も予測不可能。

不良という生き物は私にとって、未知の生命体だった。  



緑頭は屋上のフェンスにもたれるとポケットからタバコの箱を取り出し、そこから一本抜くとライターで火をつけた。



「ちょっとそれ、あなた未成年なのに……!」


「もう成人してる」


「え?」  



ど、どういうこと?

もう成人って18歳?でも確かタバコは20歳からだったはず。


ってことは20歳過ぎてるのこの人!?  


見え……なくもないけど、でもやっぱり高校生っぽい……。  


つまりそれって、



「ダブってんだよ、俺」


「あ、そうなんだ。ごめんなさい」


「ぶはっ!」


「……は?」  



素直に謝ったのに、緑は急に吹き出してゲラゲラ笑い出した。


白い煙が、空に散ってゆく。



「な、何?」


「冗談だっつーの、んなダブってたまるか。まだ俺、ピチピチの16歳よ?おねーさん、もっと人を疑うってこと覚えな〜?」



……殴り倒したい!しかもピチピチって古っ!なんなのこの緑!!



「そう怒んなって、可愛くねえ顔がもっとひどくなんぞ~。ぎゃははは!」



マ、マジでこの男どうしてくれようか。

悔しい。私が何したっていうの?



『ブスに告られても嬉しくねーし』  



田川の言葉が思い出される。


そうだよ、ブスだよ。ダメなの?

顔が可愛くないと、誰も好きになっちゃいけないの?  


なんで私……初めて会った人にまで、バカにされないといけないの?



「……おねーさん?おーい、腹でも痛くなったか?うんこしてえのか?」  



……うんことか言わないでよ、バカ。  


泣きそうだった。


いくら田川がサイテーな男だったとしても、三年間も好きだったんだ。優しく笑いかけられた時、ドキッとしたんだ。  


悲しくないわけ、ないじゃん。

あの時の想いは、本物だったんだから。  



緑の前で泣きたくなんかなかったけど、堪えきれずに私は俯いてポロポロ涙を流していた。  


頬を伝って落ちた雫が、灰色のコンクリートに染みを作っていく。



「ふ、っく……」


「っ、おい!泣いてんのか……?」



一度泣き出したら、止まらない。

決壊した涙腺から、ダムのごとく涙が溢れてきた。



「ま、待て!悪かった、泣くな!俺は女は泣かせねえ主義だ!!」



ぐちゃぐちゃに泣く私を見ながら、緑はあたふたしていた。


あんたの主義なんかどうだっていいよ……。

それに、別にあんたのせいじゃない。


そう言いたくても喉の奥から出てくるのは嗚咽ばかりで、言葉にならない。



「ほら、これで拭けよ」



緑がポケットを探って、私に何かを差し出してきた。


ティッシュかなと思った。

意外と律儀にそんなもの持ってるんだ……って思ってたのに。





キティちゃんのハンカチだった。






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