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ある日の昼休み。
「でねでねぇ、2組の横山くんがね~」
小春、私……そして朝美の三人で、お弁当を食べていた時のこと。
なぜ朝美がいるのかっていうと、簡単だ。
彼女はハイジ以上に空気が読めない、アレだからだ。
私をストレス地獄に追い込むことに関しては、その才能をいかんなく発揮していた。
小春はうんうん頷きながら、純粋に朝美のうんざりするような話に耳を傾けていた。
時々小春が心配になる。絶対ストレスたまってるはずなのに。
……たまってるんだろうか。たまってなかったら、それはそれで尊敬する。
いつか小春が発狂して朝美の頭を机にガンガン打ちつけるんじゃないかなんて妄想する私は、相当アサミアレルギーにやられているらしい。
そんなアブナイ妄想をしていた時、私のポケットの中でスマホが震えた。
……待て待て、落ち着こう。
学校にいるのに私に電話をしてくるヤツって……アイツしかいなくないか。メロンソーダなアイツしか。
小春と朝美には気づかれないようにそっとスマホを取り出し、私はディスプレイを確認した。
『私のご主人様☆超イケメン王子ハイジ様 (はあと)』
しまったあああ!!変更すんの忘れてたあああ!!!
そんでもって、やっぱりヤツだったじゃないか!!
「ちょっとぉ、『私のご主人様☆超イケメン王子ハイジ様 (はあと)』!?やだぁ、もも!!それハイジくんからの電話なのぉ!?」
空気なんざハナっから読む気ねぇという最上級なアレっぷりを披露してくれた、朝美。
横から私のスマホを覗き込み、ご丁寧にキンキン声でクラス中に暴露してくれやがった。
ばっきゃろおおおお!!てめえこのヤロウ!!そうか、そんなに死にたいか!!ああ、だったら殺してやる!!今すぐこの場でな!!!
「キルユウウウゥ!!!」
頭の線がプッツンしちゃった私はなぜか言語が英語に変換され、朝美の首を絞めてガクガク揺さぶっていた。
「ももちゃん!!ア、アサミちゃんが……!!」
私が平常心を取り戻したのは、小春の緊急事態を知らせる声で、だった。
我に返って朝美の首から手の力を緩めれば、彼女はぜーぜーと肩で息をしながら、モンスターでも見るかのような目つきで私を瞳に映していた。
「あ……ご、ごめ~んやりすぎちゃったぁ」
朝美風に謝ってみたけど彼女から送られる痛々しい眼差しに、冷静に「ごめんなさい」と謝罪しておいた。
とりあえず私のとった半狂乱な行動のほうがインパクトがあったのか、クラスメイトからはイケメン王子ハイジ様の件には触れられなかった。
だけど私は重大なことを、すっかり頭から追いやっていた。
ハイジの電話に出なかった。
……ハイジがここに来ちゃったらどうしよう……それこそ一貫の終わり……。
もう一回私からかけ直すべき!?
でも絶対怒られるし、アイツ意外と執念深そうだし、私もアルプスに連れて行かれておじいさんとヤギとおっきい犬と暮らすことになったら……ああ、けど私も犬だからいいか……いや、違う。
タヌキ……タガメ……石ころ……ヒキガエル……どれだっけ……。
っていうかもう私ってどんな生物なの!?
「あー……あのさぁ、花鳥、だっけ」
ぼんやり自分という存在について考え込んでいると、私の横に一人の男子が立っていた。
「はい?」
「えーっと……一緒に来てくんねえ?」
そこにいたのは金っぽい茶髪の男の子。
ピアス開けてて、制服の着こなしもゆるい感じ。
そしてすっごく可愛い顔立ちの、男の子だった。
なんでこんな男子が私なんかに声をかけてくれるの!?まさか学校でナンパ!?
人生初のナンパをここで経験しちゃうなんて……それも相手は爽やかイケメンだし……ついに私にも春がキター!!
氷河期を乗り越えた!!よくやった、よく耐えた花鳥もも!!




