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げっ!っていう顔をした私に、白鷹先輩はほんのちょっとだけ目を見開いた。それは私しか気づかないくらいの、些細な変化だった。
いかん。かなりマズイ。
もしも今、白鷹先輩が「タマ」なんて私に向かって声をかけたら……全校生徒からボッコボコの袋叩き……!!
めちゃくちゃ動転してた私は、何を思ったか両手をほっぺたにあてて顔を横にびよーんと伸ばしてみた。
周囲では女子の興奮が頂点に達したのか、鼓膜が破れそうなほどに甲高い悲鳴じみた声が渦巻いている。
「なぁジロー……カワイコちゃん達に混じって、ヒキガエルが一匹見えんのは俺の気のせいか?」
下から私の教室を見上げていた黒羽先輩が、白鷹先輩に話しかける。
ふっ……ヒキガエルときたか。またまた新たな角度から攻めてくるじゃないの。
毎回違う生き物に例えられる私って、ある意味ギネス記録ものじゃないか。
「どこ、ヒキガエル」
「あっこだよ、見てみろアレ」
ニヤニヤしながら私を指差す、黒羽先輩。
超恥ずかしいんですけど……!!
何が悲しくてこんなイケメンズに、変顔を晒さないといけないんだろう私……。
「アレ、タマだろ」
うわぁ~言っちゃった~言っちゃったよジローさ~ん。しかもバレちゃってるよ~。
少しも表情を変えずに、白鷹先輩は私から視線を逸らさない。
「タマ!!」
あーあー呼んじゃったよ!!大声で!!
なんだそりゃ!何のためにヒキガエルになったんだ私は!!かかなくてもいい恥かいちゃったじゃないか!!
自分でもビックリするくらいの速さで、私は窓から身を引っ込めた。
「も、ももちゃん?」
さっきから挙動不審な私に、小春が怪しむような視線を送ってくる。
だけどそれに答えられるほど、私には余裕がなかった。
「タマ?何言ってんのお前、ユーレイでも見えたか」
「違えよ、俺の犬がいた」
なおも外から聞こえてくる二人の会話に、ひたすら早く行ってくれと私は願うしかなく、しゃがんで隠れていた。
「今の、あたし見てたよね!?」
「はぁ?あたしに決まってんじゃん!!」
「犬だって!いや~ん、白鷹先輩の犬になりた~い」
女子の周りには、ピンクなハートが飛び交っている。
人間にも見てもらえない私がここにいるっていうのに、自らペット宣言しちゃうとは……ジローフェロモン恐るべし!!
「あ~ん行っちゃったぁ……」
「ねぇ、先輩めっちゃ顔赤かったね~」
「カワイ~」
「ああもう押し倒したい!!」
お、押し……!?
なんて大胆なこと言い出すの、おじょーさん達!
それとも私が時代遅れ!?もしかして、今は女が男を押し倒す時代なの!?
最近女性が強いってSNSとかでよく目にするけど、そういう意味だったのか!!
なんてこったい……そんな時代を生き抜く自信がありません……。
動物変化記録を更新したと同時に、私は新たな時代の波に乗り遅れた。
それから数日間、何事もなく平和だった。
いつハイジからお呼び出しがくるかとビクビクしていたけど、ヤツが私のスマホを鳴らすことはなかった。
校内で彼らを見かけることも、なかった。
だからあの不良キングダムで起こったことは夢だったんじゃないかとさえ、私は思い始めていた。
私とハイジの関係性を疑う目も次第に消えつつあって、平凡な日々を取り戻した……と浮かれていた私に、悪夢は突然襲いかかる。




