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整いすぎている顔を三年生の教室へと、白鷹先輩はゆっくり上げた。
一層膨れ上がる、生徒達の声。
けれど先輩がその目に映すのは、「人殺し」という暴言を吐いた張本人だけのようだった。
じっとして、先輩は動かない。
ゾクゾクするような、鋭い眼差し。
やっぱり、綺麗な人だった。
不意に横にいた黒羽先輩が腰を屈めて、グランドから“何か”を拾って手にした。
その“何か”を握り締めると黒羽先輩は白鷹先輩の視線の先を見つめ、口元を歪めた。
悪だくみをしていそうな、そんな不吉なことを予感させる笑み。
「お、おい……まさか……やめろ黒羽!!!」
三年の先輩が声を上ずらせながら、黒羽先輩に叫んだ。でも黒羽先輩の顔から笑みが消えることは、ない。
そして──
次には黒羽先輩は野球のピッチャーのように振りかぶると、三年生の教室に向けて手にしていた“何か”を投げた。
この時初めてわかった。
“何か”は、石だったんだ。
「ウソでしょ……!?」
危ないと思った時にはもう遅く、物凄い速さで石は教室目掛け飛んでいく。
歓声が途端に悲鳴に変わり、誰もが目を見張った。
頭に思い浮かべるのは、窓が粉々に砕け散り怪我人が出るんじゃないかという良くない想像。
だけどその予想は外れ、辺りにはキイィンという、石と金属がぶつかり合った音が響いただけだった。
どうやら石は窓枠に当たったらしく、跳ね返って地面へと落ちていった。
さっきまでのやかましさが嘘みたいに静まって、空気がぴんと張っているのが肌でわかる。
「スンマセ~ン、手元狂っちゃったみたいで~」
そんな中、一人呑気な口調の黒羽先輩。
たぶん……外れたんじゃない。
“外した”んだ、わざと。
「センパイ、そのよく喋るお口……縫っといた方がいいんじゃないっスか?俺が縫ってあげてもいいんスけどねぇ」
ニコニコしながら、それでいて目はあんまり笑っていない。
普通にこの人アブナイ、と思った。
白鷹先輩はずっと黙ってる。
だけどその目はもう、興味をなくしたようだった。
怖じ気づいてしまった三年生からはもうヤジが飛ぶことはなく、みんな固唾を飲んでいる。
二人に圧倒されて言葉は何も、出てこない。全員そうなんだろう。
白鷹次郎と黒羽大駕。
何となくだけど、彼らが“ヤバい”と噂されるのがわかった気がした。
ふと……白鷹先輩が、視線を上に向けた。
ちょうど真上にいた私。
目が……合ってしまった。白鷹先輩と。




