ジローさんとペットな私
あれから自分のクラスに戻ったのは、5時間目が終わった後だった。
最後の授業が始まる前の、ちょっとした休み時間。
気配を消して今だけは石ころになれたらいいのにと願いながら、教室の戸を慎重に開けた。
ハイジと大規模な鬼ごっこを繰り広げた後、おそらく私について色んな噂が飛び交っているんじゃないかと思った。
一歩教室に入れば、がやがやとみんなお喋りをしていて、私には誰も気づいていない。
もともと存在感なんてないんだから、当然といえば当然。このまま何もなかったように席について、授業受けて帰ろう。
大丈夫、私は石ころ石ころ石ころ
石ころ石ころ石ころ石ころ………
「あ、ももぉ!やっと帰ってきたぁ!!ねぇあんた一体ハイジくんに何したのよ!?」
石こ……ろ………
…………。
いきなり誰かの大きめのはしゃぐ声が、教室中に行き渡った。
縮こまりながら自分の席を目指していた私の努力も虚しく、一斉にクラスメイトの視線がこっちに集まった。
背を丸めて歩いていた私は変な体勢で静止し、石ころの術は見破られてしまった。
「ほんとビックリしたんだからぁ!!あのハイジくん自ら出てくるなんて、よっぽどすごいことやらかしたんでしょう!?」
私の胸中などつゆ知らず、よく通る声をまき散らしながら近寄ってくる、一人の女子。
畝野 朝美。
彼女は私と出身中学が一緒で、今は同じクラスにいる。別に特別仲が良いわけじゃない。だからって悪いわけでもなく、普通に話したりはする程度だった。
「いや、なんか人違いだったみたい!だって私みたいな地味なのが、あんな人と接点あるわけないしね!!もうすごい迷惑だよ~あはははは」
ここはどうにかごまかさなければ!!
私がハイジと関わりあるなんて……いやいや、それよりも白鷹先輩とのことがバレたら……マイ高校ライフはジ・エンド!!
「うっそだぁ~、だってさぁハイジくん思いっきり『花鳥もも』って言ってたじゃん!!」
ぐあっ!そうだった!!ウカツだった!!!
私の名前をヤツは、叫んでたんだった!!
「もうねぇ一年の間じゃ、もものことで話題持ちきりだよぉ?なんたって、あのハイジくんが追いかけるほどなんだからぁ。愛の逃避行?」
「はっ!?」
あ、愛の逃避行!?何それ!?あの、メロンソーダみたいな色の髪の男と!?んなわけあるか!!
何を言い出すんだこの女は!!
いちいち語尾を伸ばすのも、なにげに上目遣いでアヒル口なのも腹が立つ!!そのテッカテカの唇もくるんくるんの髪も、何もかも!!
そしてクラス全員の興味津々な目に晒されて、追いつめられた私。
畝野朝美VS花鳥もも
きっとみんな、朝美を応援しているに違いない。
真相が知りたいんだ。もっと花鳥ももを尋問しろと、心の中で朝美にエールを送っているに違いない。
こういう時の変な結束力って、何となくわかってしまう。嫌なほどに。
「ねぇねぇどこに連れてかれちゃったのぉ?っていうかさぁ、ケイジくんもいたよね!?まさかもも……白鷹先輩のとこ連れていかれたんじゃないのぉ!?」
ぎゃああああ!!
何なの、なんでこの人こんなに勘が鋭いの!?
「い、行ってない!白鷹先輩なんかと会ってない!私、あいつらと何の関係もないし!!」
「え~ほんとぉ?でもさぁ、白鷹先輩とかがいつも、たまってるって噂されてるとこ……近寄っちゃいけないって言われてる場所にハイジくんとかとももが歩いて行くの、見てた子もいるしさぁ」
……逃れられない。ヘビのようなこのしつこい女の、追求から。
だけど言えるわけない。




