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もう昼休みはとっくに終わっていて、5時間目の授業が始まっている。



自分の教室に帰りたい。鬼ハゲ教師の授業なのに。サボったなんて思われたらただでさえ悪い英語の成績が、崖っぷちに……。




でも誰も「授業いってきまーす」なんて言わないし、言うはずもなかった。



まともに授業に出るような人達ではないんだろうし、どうも白鷹先輩が私を自分達の巣に残らせたことのほうが重大らしい。




「ジローちゃん、こいつは大丈夫なんだな……?フェロモン出てねえからか!?なぁそうなんだろ!?そこら辺に転がってる石ころみてえなもんなんだよな!!?」


「セクシーのセの字もないもんな~」




15年間生きてきて、人にここまで殺意を抱いたのは初めてでした。



そう……タヌキから始まり(これは自分でだけど)、タガメに格下げされ、最後は石ころへと私は目まぐるしく変化を遂げたのです。



なんという壮絶な転落人生。最終的には生物ですらないじゃないか。人類で初じゃないんでしょうか。進化ではなく、退化で終わった人間は。




『どうですか今のお気持ちは?』


『いや~石っていうのも案外悪くないものですね~、はっはっは』




って、違うでしょうよ!!!



うっかり、自分が石ころの姿でステージでインタビュー受けるとこまで想像しちゃったじゃんよ!!?しかも案外悪くないとか言っちゃったじゃんよ!!





「ハイジくんケイジくん、私も一応女の子なんですけど」




「ちょっとは黙れてめえら」を柔らかく崩して彼らに微笑むと、赤と緑のクリスマスコンビは「何言っちゃってんのこいつ」的な白けた視線を返してきた。



衝動的にテーブルの上にあった灰皿を手に取って振り上げたところで、『女子高生、灰皿で不良男子二人を撲殺』の新聞見出し記事が頭に浮かんだ。思いとどまって、大人しく灰皿を戻しておいた。



ハイジとケイジくんは、かなり青ざめていた。




「似てんだよ、お前」





ふと、白鷹先輩の唇がぼそっと動いた。



窓の外を眺めながら、何だか物憂げな先輩は本当に綺麗で。



私はその横顔に、魅入ってしまっていた。




似てる……?何に……?



含みを持った言い回しで、先輩は私に視線を向けて小さな笑みを浮かべた。




待って……その笑顔、ダメです先輩!ど、どうしよう、胸キュンだ……!!


やだ、ドキドキしちゃう!!



相手はヤンキーキングだっていうのに!



何!?私はあなたの、何に似てるって言うの!?




「俺の……」




や~ん早く言ってええ!!






私もハイジもケイジくんも、教室中にいる白鷹ファミリー全員が、先輩の口から出てくる次の言葉を待ち望んでいた。





 “ヤバイ”らしい、白鷹先輩


 銀髪で超絶美形な、白鷹先輩


 やたらと男女関係に敏感な、白鷹先輩


 出血大サービスな、白鷹先輩


 不良の頂点に君臨している、白鷹先輩





まだ私はこれぐらいしか、この人を把握していない。



というよりも、ハイジやケイジくんだってそう。彼らのことを、私は何も知らない。



なんだかノリで、こんな流れになっているけれど……ハイジはどうして私を白鷹先輩に会わせたんだろう。



フェロモンも枯れてるし、ムラムラしないし石ころだし……女としてどうなのよ。



そんな干からびた女に会ったって、美男子は喜びはしないだろうに。


でもムラムラしないから適役みたいなこと言ってたな。どういう意味なんだろう。



私……先輩の何に、似てるっていうんだろう。




「すげぇ大切だったやつ」




懐かしそうな目をしてほんの少し哀愁を乗せて、そんなセリフを先輩が口にするから。



本気で胸がドキンって、高鳴った。



先輩の大切な人に私が、似てる……?地味の代表格みたいな私が……?




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