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ハイジの前で足を止め私には一切目もくれず、白鷹先輩はハイジの胸ぐらを乱暴に掴んだ。
もしかしたら余りにもちんちくりんで、見えてないだけかもしれない。いっそこのまま、私はここに存在していないことにしてもらいたい。
空気に徹しよう。
そう、決めた……のに。
「……!」
ハイジが突然、私の手を握ってきた。
……え、なんで?
ねぇなんで!?なんで今この場でそんなことする必要があるの!?読んじゃったの私の頭の中!?ハイジを盾にして逃げようとしてたこと、バレちゃった!?
限界まで目を見開いた何ともブサイクな顔でハイジを見たけど、彼は白鷹先輩に見せつけるように、繋いだ手を上げた。
どよめく教室。
あの……ついて、いけないんですけど……
そうっと白鷹先輩の方に、私は顔をぎこちなく動かした。
こんなフザけたことして、もうキレる寸前のは……ず……
………………
…………
先輩……ものすごく、顔……真っ赤です……。
「ハイジ!!おま……なんつういかがわしいことを……!!て、手なんかつないでんじゃねえ!!」
白鷹先輩はハイジから離れ、何歩か後ろに下がった。
この時の白鷹先輩の焦りようったら、尋常じゃなかった。
手つなぐのっていかがわしい、の……?
私はこれまでの人生を振り返ってみた。
私の常識が間違っていたんだろうか。もしかして、手をつなぐことってめちゃくちゃ恥ずかしくていやらしいことだったんだろうか。
でも……そんなこと言ったら、街中いかがわしい光景で溢れかえっちゃうじゃないの。
「ったくよ~ジローちゃん……まだダメなのかよ……。これぐらいしとかねーと足りねえか?」
ハイジは情けないとでも言いたそうに溜め息をつきながら、今度は……
私を後ろから抱き締めてきた。
「ぎゃっ」
うおぉい!?何すんだこのハレンチボーイがっ!!
という心の声も虚しく、私の口から出たのは変な悲鳴だった。
そして白鷹先輩は、鼻血を噴いた。