35
だから、ジローさんが私の制服のボタンに手をかけても、暴れなかった。
一つ。また、一つ。
外されていくたびに──
抑えきれない興奮が、体中を駆け巡る。
恐怖なのか、期待なのか。
私にはそれさえも、もう判断できなかった。
下着が覗きそうになるくらいに、はだける胸元。
「なぁ……叫べよ」
低く唸るような、声。
私は唇を噛み締めた。
彼がそれを促しているのも、気づいてる。
でも
できない。そんなこと、できるわけがない。
もうちょっとなのに。
もうちょっとで、近づけそうなのに。
声も出さず、自分を押し退けようともしない私に、痺れを切らしたのか……
ジローさんの手が、私の下半身へと伸びる。
冷たい指先が、膝の裏に触れた。
そのまま、ゆっくりと太ももをなぞっていく……彼の不器用な指。
私はひたすら耐えた。
目をぎゅっと閉じて。口を横に堅く、結んで。
気を抜いたら、悲鳴をあげてしまう。
拳を力をこめて握っておかないと、彼の体を突き放してしまう。
それじゃ、ダメなの。
それじゃ、本当のジローさんを知ることができなくなってしまう。
だって、わかってる。
ジローさんの指……
微かに、震えてる。
「なんで、……抵抗しねえんだよ!!」
聞いたこともない大声に、思わず肩が跳ねた。
私の足から、彼の指が離れる。
顔の横に手をついて、私を見下ろすジローさんの表情は──
見ているこっちが泣きそうになるくらいに……苦しそうだった。
信じてたから。
物凄く怖くて、叫んで突き飛ばして、逃げ出しそうになったけど
私は、ジローさんを信じてた。
この人は、女の子を襲ったりしない。
しないし……“できない”んだろうと、思った。
ジローさんは私を試していたんだろうけれど
試していたのは、私の方だった。
力無く頭をもたげた彼の銀色の髪がはらりと流れて、顔に影を落とした。
そしてゆっくり私に覆い被さったジローさんは、私の頭のすぐ横にそっと、顔を埋めた。
さらに密着する、体。
重なり合う体温が、熱い。
人の温もりって、こんなにも……熱いの?
ほっぺたにジローさんの髪が触れて、少しだけくすぐったい。
「なんでお前……響さんの妹なんだよ」
僅かにくぐもった声が、耳元で溢れ落ちる。
「なんで俺……こんな体になっちまったんだよ……!!」
一筋、涙が頬を伝った。
どうして、私が泣いてるんだろう。
ジローさんじゃなく、私が。
これが、ジローさんの“悲鳴”なんだ。
彼の“傷”のすべてが、ここに詰まっている。
枕に顔を埋める彼の表情は、見えない。
私の視線の先には、天井しかない。
それでも“見える”。
バラバラに壊れそうな、表情。
がんじがらめになった、傷だらけの身体。
“女嫌い”じゃない。
女の人が、嫌いなわけなんじゃない。
彼は恐れてる。
傷を抉られるのが怖くて、もっと傷つくのが怖くて……
だから、近寄らないように、近寄らせないように
遠ざけるんでしょう?ジローさん……。
それでも必死で、克服しようとしてる。
前に進めない自分から、過去に囚われてる自分から抜け出したくて、もがいてる。
私を襲うフリしたのも、そのためなんでしょう……?
私にはそんな風に、彼が見えた。




