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3



「……けど、なんでこの子なん?」


「ケイジ、お前よー……そいつ見て感じるか?」


「何を」


「ムラムラするかって聞いてんだよ」



 ム、ムラムラ……!?急になんてことを言い出すのこの人……!!


 ケイジくんはこっちを向いてちょっと背を屈め、私を頭のてっぺんからつま先まで眺めて、またハイジの正面に立った。



「あかん」



 何が!?



「こんなん初めてや……俺が女見てもソノ気が起きひんなんて……。ハイジ、どないしよ……俺16にしてすでに男として終わってしもたんかな!?」




 泣きそうな顔でハイジの両肩を掴むケイジくんの表情は、本気だった。



 ……いや、うん。もうその先の展開は何となくわかってるけどね。



「だろ~?安心しろ、お前ビョーキじゃねえからよ。俺もこんな女は初めてだ、だから選んだんだよももちゃんを。適役だろ?」



 えーえーわかってますとも。私がいかに色気がないかなんて、自分で百も承知ですとも!!



 それと白鷹先輩と会うことに、何の関係があるっていうのよ!!




「……あの、帰っていいですか?」


「行くぞ」




 あえなく却下された私の願い。




 躊躇なくハイジは戸を開けた。





 さようなら……お父さんお母さん……。





 大教室の中に入った途端、むわっと広がるタバコの匂い。



 机は一切なくて、椅子だけがそこらへんに散乱してる。普通の教室の1.5倍はありそうな広さに、なぜかマットが何個か敷かれていて、そこに寝転がりながら漫画を読む人達。



 かと思えば、マージャンしている人達もいる。



 みんな本当に高校生なんだろうかと思うような、渋い方々だった。ひげとか生えてる人もいるし。



 髪の毛も色とりどり。



 制服がこんなにも似合わないのも、すごいなと思った。



 そんな人達に比べれば、ハイジやケイジくん、はたまた私の周りにいる人達が可愛らしく思えた。



 きっと私を囲ってるこの人達は一年生なんだろう。そして、今ここでゴロゴロしてる方々は上級生な気がした。




 あ、悪の大帝国……!!




 それしか思いつかない。




「おう、ハイジ。お前どこに行って──」




 そのうちの一人が、ハイジに声をかける。けどもその横にいた私を目にして、見事なくらいピキッと停止した。



 他の人達も異変に気づいたのか私を見ると動きを止め、みんな一様にその場に固まっていた。



 え、何……新手のギャグ!?それとも珍獣扱い!!?



 タガメでごめんね!?




「ハイジ……てめえ、死にてえか」




 そんな中、静寂を切り裂いて響いてきたのは……背筋が凍りそうなくらいに低く、重たい声だった。



 ゾッとした。



 場がピリピリしてるのがわかる。みんな緊張しているのが、手に取るようにわかる。もちろん、私も。



 誰も発言することを許されないような、張り詰めた空間。



 そしてこの声の主が“白鷹次郎”なんだと、教えられなくても直感した。



 教室の端っこに置いてある、黒い革張りの長いソファー。そこに一人、陣取って座っている男。



 彼だけ、その周りの空気が違う。離れているのに、彼がそこにいると嫌でもわかってしまう……特別なオーラ。


 人の目を、惹きつける。



 あの人が……白鷹、次郎……ハイジが言っていた「ジローちゃん」……?



 銀髪だった。



 正確に言えば、銀髪にところどころ黒が混じってる。銀髪に黒メッシュ?黒髪に銀メッシュ?



 どっちとも言えないけれど、なんだか上手い具合にコントラストになっている。



 俯いていた彼は少しの間を置いて、ゆっくりとその顔を上げた。




 思わず、息を呑んだ。そうするしかなかった。




 瞬きするのさえ惜しいほど綺麗な顔をした、その人の射抜くような眼差しに──。




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