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不良の世界にも派閥というものがあって、太郎さんとお兄ちゃんのチームは、かなり大規模だったらしい。


そのせいで、敵対する……というより、周囲の不良チームから一方的に目をつけられることも多かったそうだ。



そんなある日、ケンカを売ってきたチームに乗り込もうという場面で、肝心のお兄ちゃんが姿を見せなかったらしい。


太郎さんは言った。


響兄ちゃんが太郎さん達のチームの“頭”だったから、その頭がいなくちゃ話にならないのだと。



響兄ちゃんが太郎さんとかその他大勢のヤンキーさん達を従えていたっていう時点で、私は驚きまくりなんだけど。



で、結局。


お兄ちゃん抜きで相手とやり合い、一仕事終えて戻ってきた頃。


ちょうどそのタイミングで、響兄ちゃんもどこかから帰ってきたらしい。




『あー!!響さん、どこ行ってたんだよ!!こんな大事な時に!!』


『ん?釣り。ほら、すげえぞ。大漁だ』


『いやいや、釣りって!!何してんだあんた!“お前らのアタマは逃げたのか、腰抜けが”って散々煽られたってのによ!!』


『ははっ。そりゃいーや、おもしれー。……にしてもお前ら、ひっでえツラしてんなぁ』




殴られて腫れ上がった顔の太郎さんや他のおにーさん達を見て、響兄ちゃんは無邪気にけらけら笑っていたらしく。


太郎さんは一瞬殺意を覚えたと、遠い目をした。



そのあと、響兄ちゃんは大量に釣ってきた魚を、


『元気出せよ』


なんて言いながら、みんなに配って回ったそうだけど。


それが食べられない種類の魚だったせいで、余計にムカついたらしい。



……お兄ちゃん、実はちょっと天然だったのね。


いや、ちょっとどころじゃないな。



そういうことは一度や二度じゃなかったと、太郎さんは笑いながら話してくれた。


太郎さん自身、本当に楽しそうだった。



お兄ちゃんは喧嘩も強くて、地面に這いつくばる姿を見たことがない、とも教えてくれた。



圧倒的な強さというよりも──


どんなに殴られても決して倒れない。


どんなに不利な状況でも、屈しない。


強靭な精神力が、響さんの強さなのだと。



そして、たとえ敵同士であっても、勝負がついた後お兄ちゃんは相手を讃える言葉をかけていたと。




「あの人平気で言うんだよ。『お前つえーなぁ!すげー楽しかったよ、またやろーぜ。あ、これからメシでも行くか』ってさ。さっきまでガンガンどつきあってた野郎にだぜ?拍子抜けして、結局(ほだ)されちまうんだ。根っからの人たらしなんだよなぁ。だから……みんなついていきたくなるんだ」




そう語る太郎さんの目は、とても優しかった。




「雲みたいな人だった。自由で、どこに流れていくかもわからない。大らかで人情に厚くて、誰にも縛られない。けど、自分の信念に反したことが大嫌ェで、シめるときゃシめる。キレさせたら、一番ヤベえ人だった。まぁ、滅多にキレることはなかったけどな」




そう言ってから、



「誰よりも、仲間思いだった」



太郎さんはぽつりと付け加えた。



私はお兄ちゃんが、太郎さん達の前でどんな顔を見せていたのか知らない。


でも、太郎さんの言葉はどれも不思議と腑に落ちて、胸に響いた。


きっと、お兄ちゃんは本当にそういう人だったんだ。



のんびりマイペースに、自分の思うままに生きていたんだと思う。



私には大人でカッコいい印象を与えてくれていたお兄ちゃんだったけど、同年代の人達の前ではやっぱりお兄ちゃんだって子供っぽい一面があったんだ。



それが、私にはなんだか嬉しかった。



きっと、お兄ちゃんと太郎さんの間には深い信頼があったんだと思う。


だから、こんなバカみたいな話だって無茶苦茶な話だって笑ってできるんじゃないのかな。



──“仲間”だから。




「ももちゃん、響さんのひと声で、どれくらいの人間が集まるかわかるか?」


「え……」




どれくらいって……。



私は両手をパーにして、太郎さんに向けた。



「十人くらい……ですか?」



うん、十人も集まってくれたらいいほうだよね?



だって私が急に集まってって声かけたって、五人も集まってくれるかどうか。

いや、もしかしたら……誰も来てくれないかも。



……なんか虚しくなった。




「それにゼロを二つ付けてみな?」


「二つ?」




二つ……。



十にゼロを二つって──




千人?





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