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「あの、帰ってこれないって……ここ、太郎さんの家なんですよね……?」
「名義上そういうことになってるんだけどな。実際忙しくてさ。余裕がある時でも月に一回、立て込むと二、三ヶ月に一回顔見せる程度なんだよ」
そんなにお仕事大変なのかな。
太郎さん、何のお仕事してるんだろう。
スーツを着ているから、一般企業のサラリーマンかなと思ったけれど。
でも……どことなくだけど、うちのお父さんみたいな感じじゃない。
ネクタイしてないし、胸元ちょっと開いてるし……。
それに何より、太郎さん自身が、サラリーマンという枠に収まる人には思えなかった。
「お兄さんのこと、知りたい?」
太郎さんの職業を勝手に想像していると、低く落ち着いた声がかけられた。
顔を上げると、そこには真っ直ぐな瞳。
覚悟をさせられるような、そんな瞳だった。
生半可な気持ちじゃ、前には進めない。
そう語りかけてくる、眼差し。
この人は……きっと、全て知っている。
お兄ちゃんに、何があったのか。
もしかしたら、知りたくないことまで聞くことになるかもしれない。
綺麗な思い出ばかりじゃ、ないかもしれない。
それがわかってるから、太郎さんは問いかけたんだと思った。
だけど、私だって軽い気持ちで来たわけじゃない。
中途半端な覚悟で、この場所に座っているわけじゃない。
教えてほしい。
お兄ちゃんの笑顔の理由を。
涙の理由を。
命が散った、その理由を──。
もしも、ただの事故じゃないというのなら、その真実を。
「はい」
だから、しっかりと頷いた。
強い瞳に応えるために。
「わかった。ももちゃん……いい目してるな。やっぱり響さんの妹なんだな」
太郎さんは懐かしそうに目を細めた。
そして一度視線を落とし、彼は静かに口を開いた。
「響さんには、よく面倒みてもらってた。あの人はももちゃんと同じ北遥高校。俺は魁帝だった」
──私が進学に北遥高校を選んだ理由は、二つあった。
そのとき片想いしていた田川が受験すると聞いたから、というのもあったけれど。
もう一つは……お兄ちゃんが通っていた高校だったから。
同じ景色を見て、同じ空気を肌で感じて。
お兄ちゃんが生きた軌跡を、辿りたかった。
少しでも、兄のことを知りたかった。
それにしても魁帝って……。
太郎さん、魁帝高校出身だったんだ。
意外だった。
ジローさんは北遥だし、魁帝との間に“ルール”を作っているから。
その“ルール”が何かわからないけど、タイガが前に話していたのを聞くと、互いに接触を避けてるみたいだった。
でも、お兄ちゃんは北遥の生徒で、太郎さんは魁帝の生徒で。
仲が良かったのかな。
もしや太郎さん、あの超凶悪な魁帝高校の、トップだったの!?
ありえなくもない。
だって、この人から滲み出る空気が、それを物語っている。
ジローさんだって、他校にまで名が知れ渡る存在なんだから。
その人のお兄さんなら、絶対そうだ。
「今じゃ北遥と魁帝は、一切関わらないようになってるけどな。昔はそんなことなかった。つるんでバカやったりしてた。変わっちまったのは……あの時からだ」
ふと、太郎さんの瞳に影が差した。
「響さんが命を落とした……あの事件から」
……事件?
事故、じゃなくて……?
お兄ちゃんの死に、誰かが関わっている?
「自由な人だったな……あの人は」
胸の中がざわつき、不穏な予感に手を握りしめていると、太郎さんは語り始めた。
「ちょっと目離すと、すぐどっかに消えちまう。んで、また何事もなかったみたいにふらりと現れんだよなぁ」
可笑しそうに、太郎さんは響兄ちゃんとの思い出を話してくれた。




