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おさまっていたはずの鼓動が、再び息を吹き返したみたいに速く打ち始める。
太郎さんの口から語られる、お兄ちゃんの話。
みんなが、お兄ちゃんを知っている。
私だけのものだと思っていた“花鳥響”の名を、当たり前のように口にする。
その意味は?
彼らとお兄ちゃんの間には、何があったの?
不安、期待……様々な感情が入り混じる。
お兄ちゃんの死の真相も……太郎さんは把握しているんじゃ……?
通されたのは、十二畳ほどの和室だった。
ハイジに連れ込まれたような簡素な和室じゃなくて、もっと格式高い和室。
障子があって掛軸まで飾ってあって、床の間には品のいい焼き物が並んでいる。
どれも安物には見えない。
部屋の中央には、少し歪んだ形をした木製のテーブルが置かれていた。
畳の香りが、柔らかく鼻先をくすぐる。
ここは客間なんだろう。
外観は洋風なのに、こんな部屋もあるんだって感心してしまった。
「どうぞ、座って」
ドラマで見るような、偉い人を接待するための料亭の一室みたいな部屋。
呆気にとられ立ち尽くしている私に、太郎さんが座布団を敷いて招いてくれた。
「……失礼します」
テーブルを挟んで向かい合わせに座る、太郎さんと私。
ああ……ダメ。
ごめんね心臓くん。フル稼働させちゃってごめん。
抑えられないの。
響兄ちゃんへの、想い。
太郎さんに抱いてしまっている、期待。
「そういや、まだ自己紹介もしてなかったな。名前は白鷹太郎。歳は、ももちゃんのお兄さんの一つ下。好きな食べ物はプリンパフェでーす」
にこり、と太郎さんは満面の笑みを浮かべた。
まるで、幼い子に話しかけるみたいに。
お兄ちゃんの一つ下ってことは、私の四つ上。
ジローさんの三つ上。
今、二十歳ってことかな。
二十歳のおにーさんからしたら、確かに私なんてガキンチョだろうな。
それにしても……お兄様。
プリンパフェって……プリンなの?パフェなの?パフェにプリンが乗っかっちゃってたりするの?
甘党なんだろうか。
私も、自己紹介しなきゃ。
「わ、私は花鳥ももです。好きな食べ物は……ば、馬刺しです!!」
……馬刺し?
なんでだ!!なんで私、馬刺しなんて言っちゃったんだ!!馬刺しなんて昔九州に旅行行った時に、一回食べただけじゃないか!!
おいしかったけどね!?
緊張しすぎじゃん私……よりによって、十五の乙女が馬刺しって……!!
可愛くねええぇ!!
「ぶはっ、し、渋いなぁももちゃん!!」と、太郎さんは大笑いしていた。
「違うんです!本当はケーキが好きで……!」と必死に弁解しようとしたのに、太郎さんの笑い声にかき消されてしまった。
聞き入れてもらえる様子はない。
もう諦めるしかなかった。
っていうか……太郎さんの好物のプリンパフェのほうが、よっぽど女の子らしいってどうなの!?
ひとしきり笑った後、太郎さんは目尻に溜まった涙を人差し指で拭い、姿勢を正した。
私は恥ずかしすぎて、ただ小さくなるしかなかった。
「ももちゃん、急に呼び出したりしてごめんな。なんせ今日を逃したら、次はいつ帰ってこられるかわからないんだ」
さっきまでジローさんを叩きのめしていた人とは別人みたいに、太郎さんは穏やかな口調で話し始めた。




