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「太郎さん、お疲れさまッス」


「ああ。面倒かけたな、冬也」


「いや、なんてことないッスよ。これくらい」



飛野さん……そうだ、冬也って名前だった。


誰も飛野さんを下の名前で呼ばないから、「冬也」って呼ばれると誰だっけって思っちゃう。


私からすれば大人な飛野さんのさらに上をいく太郎さんは、私なんかじゃ受けきれないほどにアダルトな魅力を秘めていた。



「うぃーっす」


「お。なんだ、お前も来てたのか」


「タローちゃんがジローのペットとご対面するって聞いたからよ」


「ジローのペット?」



昔からの馴染みみたいに、タイガと太郎さんは言葉を交わしていた。


飛野さんは太郎さんに対して敬語使ってるのに、タイガはタメ口。


どういう力関係なんだろう。



っていうか……そんなことよりも。



私の隣からひしひしと忍び寄る、殺気。


一人だけ、太郎さんに敵意剥きだしの彼。



そうだった。


ジローさんの“タブー”かもしれない、お兄さん。



今ジローさんがどんな表情かなんて、確認する余裕はない。彼に目も、合わせられない。


それくらいにジローさんを取り巻く空気は、刺々しかった。


彼が太郎さんに向ける感情が、“憎しみ”なのか“怒り”なのか何なのか。



私には、読めない。



「ももちゃん……?もしかして、ももちゃんか!?君が!!」



タイガと飛野さんと話していた太郎さんが、不意に私へと視線を流した。



その瞳に、ぽかんとした私が映っている。



「そうだよな、ももちゃんだよな!?大きくなったな……!!」



信じられないというように、私の両肩をがっしり掴む太郎さん。



大きくなったって……私と、会ったことあるの……?



太郎さんの口ぶりが、どこかで彼と私が顔を合わせていると示していた。




でも……どこで……?




「タロー、俺の犬に触んなよ」




深く考え込んでいる私を、太郎さんから引き剥がしたかったんだろうか。

ジローさんが後ろから抱き締めてきて、自分の方に私をぐいっと引き寄せた。



「あ?」



一気に太郎さんの顔つきが険しくなって、二人して睨み合っている。



やめてよ!!

キング同士の争いなんかに巻き込まれたら、私なんてミンチになっちゃう……!!



ってヒヤヒヤしてたら、太郎さんがジローさんを拳で思いっきり殴った。




もう私は、空気と化すしかなかった。




「何回言やぁわかんだボケナス。お兄様って言えっつってんだろ。てめえの脳みそはサル以下か」




さらにもう一発太郎さんは、ジローさんにげんこつをくらわしていた。



その後も、「お兄様が帰宅したらまずは“おかえりなさいませ”だろうが!!」と、めちゃくちゃにジローさんをどつきまわしていた。




さすがキングの上を突っ走る、キングオブキング。



兄上様はジローさん以上に、暴君だった。




きっと、ジローさんにとって触れちゃいけないことだと、


ジローさんにとっての“ライン”なんだと……思ってた。


お兄さんのこと。




「たまにしか会わねえんだ、もうちょっと可愛く振舞えねーのかクソガキが!アァ!?ちったぁ愛想の一つでも振り撒いてみろ!!」




何なんだろう、これは。



少々過激ではあるけれど、なんていうか……フツーの兄弟ゲンカに見えなくもない。




「うるせえよ、一生帰ってくんじゃねーよ暴力ザル」




一方的に叩きのめされながらも、ジローさんは反抗的だった。


そして再び返り討ちをくらっていた。



誰も頭の上がらないジローさんが、ここまでコテンパンにやられる場面なんてそう見られるもんじゃない。




お兄様……最強なんですね……。




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