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飛野さんは話を切り上げると、取り皿に片手で卵を割って入れた。器用だなぁって、つい見とれてしまっていると。


鍋に視線を移した時には、もうお肉が半分くらい減っていた。



は、はやっ!!



それからも私の目の前で、次々と鍋の中身が消えていく。


豆腐やら白菜やら椎茸やら、お別れの挨拶をする間もなく腹を空かした男達の胃袋へと吸い込まれていった。



『も、ももちゃん!私、本当はももちゃんに食べてもら──きゃー!!』


『ああ!チヨコさん!!』


『オイラだってどうせなら野蛮な男よりももちゃんの方が──ぎょえー!!』


『あああ!ゴンタくーん!!』


『おいどんも、ももちゃ──ごふっ』


『ああああ!サイゴーどーーん!!!』



涙を流しながら、お箸でつままれさらわれていく野菜達。



待って……行かないでえええ!!



「私のチヨコさんとゴンタくんとサイゴーどんを返しやがれ!!」



と、タイガの首にチョップをくらわすと、「ぶほっ!」とむせていた。



「いい加減にしねーかてめえ!!マジで病院送りにすんぞコラ!!」



堪忍袋の緒が切れたのか、タイガが鬼になった。

金髪の鬼に凄まれて、青ざめた私は一応謝っておいた。



そして自分の脳みそはもう手遅れだと、ようやく悟った。



ジローさんは「ちょっとくらいヤンチャなほうがいいじゃねーか、可愛げがあって」と和んでいた。タイガにしばかれていた。


たぶんジローさんは何があっても、味方でいてくれるような気がする。



「タマ、俺が食わせてやる」


「え……いや、自分で食べられるから大丈夫です」


「いいから、食わせてやるっつってんだ」



ジローさんはお箸で摘んだお肉を、ズイっと私の顔の前に突き出してくる。


二人きりならまだしも、タイガも飛野さんも見てるっていうのに……食べさせてもらうという行為が、なんだか気恥しい。



「ほら、口開けろよ」



こういう時のジローさんの圧には、逆らえない。


ジローさんが決めたことは、彼の中で絶対なのだ。

私の意見などお構いなしなんだから。


うぅ、他の二人からの視線が、すごい刺さってくる……。


タイガには何回か見られてるけど、飛野さんはジローさんが私をペット扱いしてるとこを見るのは、初めてなんじゃないだろうか。



飛野さんをちらっと窺うとめちゃくちゃ凝視されてたけど、目が合うとすぐさま逸らされた。


無言なのが嫌だ。何か言って欲しい。

余計に恥ずかしい。



だからここはもう早く終わらせようと、『あ〜ん』の口をした。


……のに、視界の端から目に見えぬ速さで割って入ってきた金髪によってお肉が消えた。

横取りされてしまったらしい。


もぐもぐしながら「この世は弱肉強食なんだよ、ぼけっとしてたら食いっぱぐれんぞ〜」と、ご満悦そうなタイガ。


ジローさんは無言で、鍋から取ったアツアツの豆腐をヤツのほっぺに押しつけていた。


反撃を受けたタイガは、お玉で汁をジローさんに飛ばしていた。


二人は飛野さんにげんこつをくらっていた。



それにしても、男の食欲ってすごい。


私の家は三人だし、男はお父さんだけだし、こんな争奪戦になったりしない。


男ばっかで鍋を囲うと、まさに戦争だ。

タイガの言う通りぼやぼやしてたら、食いっぱぐれる。



「お前ら、ちょっとは遠慮しろよ」



飛野さんが、私の分を取り分けてくれた。



それから目の前でびゅんびゅん飛び交うお箸を、飛野さんはことごとく叩き落としていた。





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