19
視界がハイジでいっぱいになる。
ハイジは私の両手を片手だけでまとめ上げ、私の頭上で押さえつけた。
両足の間には、ヤツの体が割り込んできて閉じることもできない。
全身で感じる、ハイジの……男の体の重み。
「ちょ、っと……やだ、何の冗談よ……!」
なんでこんな体勢になっているのか。
なんでハイジがこんなことを、するのか。
理解できなくて、これもヤツのオフザケなんだと思い込みたくて、眼前のハイジに尋ねる。
本当は……ハイジの穏やかではない瞳がそうじゃないと、突きつけているのに。
「お前が悪ィんだよ。隙みせるからだろ」
冷たい目で、冷たい声色で。
ちっとも笑わずにハイジは答えた。
とにかくこの状況から逃げ出したくて、もがいてみる。
だけど男の力の前ではそんなの無意味に等しくて、びくともしなかった。
「放してよ、バカ!」
わめいたって、何言ったって、ハイジはどいてくれない。
それどころか
「黙れって」
首筋に、唇を押しつけてきた。
瞬間的に体が強張る。動悸が、速くなる。
生温かくて柔らかな感触が、じわりじわりと下へ這っていく。その箇所だけが、熱い。
背筋にゾクリとしたものが走る。
「や、だ……」
見たくない。
ハイジの“男”の一面なんか、見たくない。
いつもくだらなくって、しょーもないことばかりしてるくせに。
私のことなんて、女だと思ってないくせに。
やめてよ
あんたとこんなこと、したくなんかないのに。
どれだけ力を入れたって、がっちり掴まれた手首はどうにもならない。
暴れれば暴れるほど、スカートはめくれ上がっていく一方で。
「大人しくしろよ」
私の首元に顔を埋めたまま、ハイジが呟く。
本気で、怖くて。
豹変したハイジが、私の知ってるハイジじゃなくて。
こみ上げる恐怖に……体が震えそうになった。
それなのに、ハイジは動きを止めてくれない。
ビクッと体が跳ねる。
ハイジが私の太股の内側を、つぅっと指で撫でてきた。
言い知れない感覚。
初めて知った。
人間、本当に恐怖に飲まれた時って、声なんか出せない。
ただヒュッと喉の奥が鳴って、微かな空気が口から漏れるだけ。
ハイジに触れられたとこは、他の誰にも触れられたことのない箇所。
他人に触れさせるようなとこじゃない。
ましてや、男なんかに。
ダメだ、と思った。
足掻く力はある。
だけど“諦め”が私の自由を奪った。
勝てない。男の力に抗えない……。
もう……
どうすることも……
「バーカ、俺が本気でお前を襲うとでも思ってんのか」
………………
…………
……は?
ふっと、体に乗っかかっていた重みが退いた。
手首も締めつけがなくなって軽くなり、解放された。
何がどうなったのかわけわかんなくて畳にごろんと寝転がったままの私を、立ち上がったハイジが見下ろしている。
それも、ヤツの顔には意地悪な笑みが貼り付いていた。




