17
ジローさんは早速ベッドに寝そべってるし、タイガはソファーに座ってテレビのサブスクを適当に流し、くつろいでる。
入り口付近で突っ立っている私なんか、お構いなしだ。
「ねぇ、トイレどこ?」
そわそわしすぎて行きたくなってきたから、尋ねてみた。
「出て、もっと奥に突き進んだとこにある」
テレビから目を離さず、無愛想にタイガが教えてくれた。
それでも十分だったから、私は言われた通りトイレを目指した。
「ここかな」
さっきの廊下をもっと奥に歩いていったところに、トイレはあった。
トイレの中も広い。ピッカピカ。
とりあえず用を済ませて、スッキリすると幾分か緊張がほぐれてきた。
うん、トイレはやっぱりリラックス空間だな。
なんか緊張が変に気分をハイにしちゃって、私はつい鼻歌なんか歌ったりしていた。
ちょっとでも、気を紛らわしたかったのかもしれない。
トイレから出てもまだ歌っていた。
鼻歌なんかじゃおさまりきらず、ついには普通に口で歌っていた。
それもなぜか小学生の頃に習った、ある童謡だった。
「ぐりーんぐりーんフフフフフーンフフフフフフーンフ~ン」
静かなフローリングの廊下。いるのは私一人。
誰も来ないだろうと、油断したのがいけなかった。
何だかノってきちゃって、その歌を無意識にバージョンアップさせてしまっていた。
「ヘイYO!グリングリンYO!YO!チェケラッチョ!!」
ラップバージョンだYO!!
最終的には私はラッパーになっちゃってた。
脇を締め両手の指をピストルにして、キレ良くくるりと振り向く。
決まったYO!ヒャッフー!!
なんて、ニヤッとしたら。
「一度病院行こうか、ももちゃん」
振り向いた先には、まさにグリーンなアイツが立っていた。
グリーンボーイの、ハイジが。
それもなぜか上半身裸で。
私の人生終わった、と思った。
げ、幻覚……?
だってハイジがいるわけない。ここ、ジローさんのおうちだし。
余りにもグリーンを意識しすぎて、緑なアイツが幻で見えてるだけだ。
きっとそうだ。そうに違いない。
そうだよね。そうだと言って。
そう、なんでしょ……?
「前々からアブナイとは思ってたんだよなぁ……。けど、ここまでとはな。重症じゃねえか。手の施しようがねえ」
タイガよりももっと哀れみの眼差しを送られ、本気で諦めたようなハイジの口調に、急激な恥の大波が私を襲った。
これは本物の、ハイジだ。
見られてた。
ラッパー『MOMO』になりきってたとこを、コイツに見られてた……!!
「ち、違う!!私、自分を勇気づけようとしてただけで……」
「どんな励まし方だ」
「うわああ~んお願い!!神様仏様ハイジ様!!今のは誰にも言わないで!!」
「安心しろ。言ったところで、お前なら誰もが納得してくれる」
泣きついてみても、ハイジは冷静だった。冷静に私を切り捨てた。
私はもう涙目だった。
っていうか……そんなことよりも。
「なんであんたここにいるの」
「なんでお前ここにいんだよ」
重なった声。
私達は同じ疑問を、持っていた。
怪訝そうに眉をしかめるハイジ。
「私は……ジローさんのお兄さんに、会いにきたんだよ」
「……太郎さんに?なんで」
「な、なんだっていいじゃん。あんたこそ、何なのよ」
いや、いてもそこまでおかしくないけどね。
ハイジは白鷹ファミリーの一員なんだから、ジローさんの家にいたって変じゃない。
タイガや飛野さんが自分の家みたいに過ごしているように、ハイジにもその権利があるんだろう。
でも、今ここにいるなんて思わなかったから。
ラッパーを目撃されるなんて、思いもしなかったから。
それに
ハイジの今の格好が、余計にプチパニックに拍車をかける。
上半身には何も着てなくて、下はゆる~いスウェット。
下着見えそう。っていうか、ちょっと見えてる。
ボクサーパンツ派なんだとか、どうでもいい情報を手に入れ嫌悪した。
首にはタオル。濡れた緑の髪の毛。
こっちに押し寄せてくる、熱気。
完璧お風呂上がりな、ヤツの格好に。




