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飛野さんがドアを開けた。
人の家だっていうのに、まるで自分の家のように。いつもそうしているかのように。
太郎さんの家って……ジローさんのお兄さん、何歳なんだろう。けっこう離れてるのかな。
ジローさんもお兄さんも、両親と一緒に暮らしてないの?
ご両親は、どこにいるの?
やっぱり、“なんで”“なぜ”ばかりが私の頭を占める。
謎が多いのは、彼らが何も話さないから。
私が何も、聞かないから。聞けないから。
人には、踏み込んでいい“ライン”がある。みんな、それぞれその“ライン”を引いている。
それを知らずに、“ライン”を越えてしまえば……相手との関係が壊れるから。
もしかしたら、相手の人生をも壊してしまうことになるかもしれないから。
安易に土足で踏み荒らすことなんて、できない。
だって、わからない。
踏み込んでいい“ライン”がどこまでかなんて、他人にはわからないんだから。
私達を出迎えてくれたのは、洋風の立派な玄関。
一気に広がる視界。
高い天井には、シャンデリアみたいなキラキラの電灯が吊り下げられている。
上がり口には、男物の靴がめいっぱい並べられていた……というよりは、散乱していた。
二十足はありそう。
ということは、この家に二十人は人がいるということ。
それも、全部男。
私の家だったら、男が二十人も侵入してきたら足の踏み場もなくなる。おしくらまんじゅう状態だ。
私なんてあっという間にぺらんぺらんになるだろう。
でもこの豪邸は二十人くらい余裕で入れちゃうらしく、狭苦しい感じなんか全然しなかった。
「お、お邪魔します」
大きな靴ばっかりの中に私の靴が仲間入りすると、小さいのに逆に目立っている。
尋常じゃないくらいに緊張してきちゃって、手が汗ばんできた。
そんな私の気持ちが他の三人に届くはずもなく、彼らの後ろを私も歩いていくしかなかった。
部屋はビックリするくらい、いっぱいある。
廊下の両脇に等間隔で並んでいる部屋の前を通り過ぎる時、たまに人の話し声が聞こえた。
いったい何人、この家の中にいるんだろう。
どういう人達が、いるんだろう。
……白鷹ファミリーみたいな、ヤンキーの方々なのかしら。
ここで……何してるんだろう。
角を幾つか曲がり随分と進んで、一つの部屋の前で彼らが立ち止まったから私も止まった。
もしや、この部屋に太郎さんが……!?
どうしよう、緊張がピークに達してきた。
息苦しくて心臓がバクバクいってるのが、自分でもよくわかる。
ほんとに手ぶらでよかったんだろうか。私なんかがご面会していいんだろうか。
どんな人なんだろう、ジローさんに似てるのかな。
兄弟揃って美形なんだろうか。
そんなどうでもいいことまで、考えてしまう。
私が決心する前に、タイガが勝手にその部屋のドアを開けて入っていった。ジローさんも、それに続く。
ちょっとおおぉ!!私心の準備できてないんですけどぉ!!?
と、部屋の前であたふたしてたら。
「太郎さんなら、まだ帰ってきてねえよ。仕事中だ。もう少ししたら帰ってくると思うんだけどな」
隣に立つ飛野さんが、有り難い情報をくれた。
「ここでジロー達と待っててくれるか?」
「え、飛野さんは?」
「俺は晩メシ当番」
爽やかに笑って、飛野さんは踵を返して元来た道を戻っていった。
晩メシ当番……前に、ジローさんの口から出た言葉。
飛野さんが今から、晩ご飯を作る?
……どういうこと?
ジローさんのお兄さんは、この家にはいないようで。
私はタイガとジローさんと、この部屋で待ってないといけないようで。
そろりと、私も部屋に足を踏み入れた。
──なんて、広いお部屋なんだろう。
私の部屋の三倍はある。
L字型の白い、柔らかそうなソファー。
大画面の液晶テレビにオーディオに、本棚に冷蔵庫に……
とりあえず何でも揃ってる。
ゲーム機とかも、最新のが置いてある。
ベッドはキングサイズ。
この部屋、誰かの部屋なんだろうか。
私からしたら、贅沢の詰め合わせみたいな、理想の部屋。
DVDとかも大量にあるし、ここにずっといたって飽きることがなさそう。
配色もほぼ黒で統一されていて、ちょっぴり大人の雰囲気の部屋だった。




