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「黒羽、駅前で降りるんだろ?」
「いんや。予定変更だ。俺もジローんち行くわ」
「デートするんじゃなかったのか?」
飛野さんが笑いながら、タイガに話しかける。
「キャンセルした。だってよ~、タマちゃんとタローちゃんが初対面すんだろ?ワクワクすんじゃねーか!立ち会わねえほうが、もったいねえ」
「フられるぞ、女子大生の彼女に」
「ひーちゃ~ん、俺があんなセクシーなカワイコちゃんを逃がすわけねえだろ?後で埋め合わせするって」
「ひーちゃんはやめろっつってんだろ、若ダンナ」
「若ダンナをやめろよ、若大将」
とっても仲良さげな二人だった。
ジローさんはただ無言で、窓の外の夜の景色を眺めていた。
ジローさんのお兄さんに、会いたいとか会いたくないとか、そんなんじゃなく。
私は“会わなきゃいけない”。
諦めたから、ジローさんは何も言わないんだろう。
そうするしか、ないんだと。
「お前、ぶったまげるぞ」
「なにが」
「後でわかる」
車内には“ひーちゃんで若大将”な飛野さんと、“若ダンナ”なタイガの会話だけが延々と流れていた。
それからちょっとして、車が止まった。
着いたらしい。ジローさんの家に。
私が降りる前に飛野さんがドアを開けてくれて、お金持ちのお嬢様ってこんな感じなのかな~なんて一人で照れてたりして。
そして、ジローさんの家の前に立って顔を上げた。
ぶったまげた。
タイガじゃなく、私の方がぶったまげた。
家?これ、家っていうの?
普通に一般的な、一戸建てを想像していたのに。
ご、豪邸じゃんか……!!!
ずっしり立ち構える、三階建ての家……いや、なんかもう、ある種のマンションみたいだった。
私の家が10件分くらいは、軽く入りそう。
横幅も、奥行きもある。玄関にたどり着くまでのお庭が広すぎて、しかも物凄く丁寧に手入れされてて『庭園』って感じ。
それも、西洋の映画に出てきそうな。
セキュリティとかも超しっかりしてそうなんですけど……!!
いいの?私、こんなところにお邪魔しちゃって。
っていうかジローさん……坊ちゃんだったの!?お金持ちなの!?
そんな素振り全く見せなかったくせに!!不良なのに!!
ちょっと待って……私、めちゃくちゃ大切なこと忘れてた……。
ジローさんのご両親も、ここに暮らしてらっしゃるのよね……?
私、何も持ってきてない。手ぶらなんだけど。
人様の、それもこんな豪邸で晩ご飯にお呼ばれしてもらったっていうのに……さすがに何もナシは、非常識すぎる。
ジローさんはキング。
じゃあお兄さんは!?キングオブキング!?
ご両親は!!?ゴッド!?もう神の領域!!?
「私が神だ」とか言って出てこられたら……平民の私はどうしたらいいの!?
「お、お供え物は何にしましょう!?」
豪華で頑丈そうな門をくぐって中に入ろうとする三人が、私の叫びにビタリと足を止めた。
「……なぁタマちゃんよ。そのワケのわかんねえ妄想世界に浸んのはいいけどよ、それを突然ふってこられる俺らの身にもなってくれよ。何が起こってんだオメーの頭ん中はよ」
タイガに哀れみの眼差しを向けられたのがショックで、本気で頭がイカれる前に何とかしようと誓った。
「花鳥、ここにジローの親はいねえよ。ここは太郎さんの家だから。俺らみてえな、どうしようもねえヤツらが集まるとこだ」
「え……?」
私の心配事なんか全部お見通しなんだよと言いたげに、飛野さんが口元に小さな笑みを作る。
そういえば……南遥高校で見たような、大きなバイクが何台か停まってたような……。
「ついてくりゃわかる」
そう言って、彼らはどんどん玄関に足を進めていく。
置き去りにされるのは困るから、とりあえず私も飛野さんの言葉を信じてついていくことにした。
よく磨かれた石畳の長い通路を歩いて、やっと豪邸の中へ繋がるドアの前にたどり着いた。




