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1章‐4

 第三フェーズは最終段階。高速機動しながらドローン艦隊を要撃する訓練だと知らされている。模擬戦を想定し、味方艦数隻が隊列を再編。イザナミは中心に位置しながら、先制攻撃と指揮を担当する。


 だが管制から流れた追加シナリオでは、敵ドローン群の動きが予想以上に〝機敏〟かつ〝数が多い〟と定められていた。いきなり艦内通信が鳴り、アリスが急ぎ声を張る。


『艦長、偵察ドローンから報告! 敵ドローンが先ほどの倍近い数で現れています。速度もかなり速い……近づいてきます!』

「なに? 想定外だな。……ただの演習なのに、ずいぶん派手に仕掛けてくる」


 艦長の眼差しは険しい。副長エリザベスが真剣なトーンで続ける。


「各艦には動揺が走っているようです。イザナミが旗艦として統制に当たり、混乱を抑える必要がありますね」

『艦長、私から各艦へ一斉送信しましょうか? こちらの指示で一網打尽にするプランがあります! ……今ならまだ間に合います』

「落ち着け、アリス。相手の機動パターンを完全に把握できたわけじゃないだろう」

『でも、チャンスなんです。下手に回り込まれる前に……!』


 アリスはなおも提案を繰り返すが、艦長は短く「待て」と制止し、副長も「一部艦が追いついていない」と補足する。アリスは小さく不満げに唸りながらも沈黙した。その人間臭いやり取りを見守るブリッジ要員の中には、失笑をこらえる者もいる。


「通信士官、全艦に今のまま隊形を維持しろと告げてくれ」

「了解しました、艦長!」


 そして数十秒後。スキャナーに映る敵ドローン編隊が一気に接近速度を上げ、空間一帯に警告信号が散らばる。ドローンがミサイルに相当する弾薬を携行しているのか、演習用とはいえ相当に危険な挙動を示す。


「右舷側に巡洋艦レギオン、左舷側に駆逐艦が布陣完了。イザナミは……警戒シールドを展開」


 副長がコンソールを操作し、艦のシールドを強化する。アリスが射撃カメラを拡大し、ドローン群の位置を大写しにする。


 ──〝ダダダッ〟──


 向こうが先に飛び道具を放った。演習用にセーフティーが入っているとはいえ、シールドを突破されれば艦が大きく揺れる可能性はある。イザナミはすぐに防御砲火を放ち、小型レーザー迎撃砲が数十発の輝線を描いた。


『ミサイルらしき飛翔体、百を超えています! 迎撃は成功しそうですが、一部はコースを変えてきました!』

「味方駆逐艦がフォローに入る。急ぎ軌道を合わせろ、アリス!」

『はい! ……駆逐艦ファントムがミサイル群を捕捉、十秒後にCIWSが稼働するとのこと。ここで我々も……』


 AIによる報告さえ、全て話し終える前に状況が進展していく。ブリッジの空気は息詰まるほど緊張が高まり、艦長はコンマ数秒ごとにディスプレイを確認する。副長も指示を飛ばし、オペレーターたちの声が重層的に響く。


 ──〝ボシュッ、ボシュボシュッ!〟──


 味方駆逐艦のCIWSビームが連続発射され、ミサイルの大半が宇宙の微塵となる。ただし一部が軌道をわずかに逸れながらイザナミに接近し、ブリッジ備え付けの計器がアラームを発して点滅する。


「ミサイル残り3……衝突まであと十秒!」

『艦長、回避を! シールドを強化しても一発なら耐えられるかもしれませんが……』

「回避する。舵を緩やかに取って余波を最小限にしろ!」


 艦体がぐんと旋回し、遠心力でブリッジが左へ圧を感じる。噛むような振動も一瞬走ったが、すぐ展開されたシールドが閃光を放って残りのミサイルを一発弾き飛ばす。あとの二発は駆逐艦が破壊に成功し、直撃は避けられた。


『危なかった……艦体への被弾はなし、シールド減衰が5%程度です』


 アリスの声が安堵に震える。艦長は息をつきながらも、すぐ指揮に戻る。


「敵ドローンを叩くぞ! ミサイル攻撃をかわした今、逆にチャンスだ」

『了解! すでに主砲は再チャージに入っています!』


 艦長が「撃て!」と指示を下し、ブリッジ中のLEDが赤々と点灯するや、ソーラランス砲が唸るような振動を艦内に広げる。輝白色のビームが一条、二条、奔るように迸り、防御に回る暇も与えずにドローンの一群を貫いた。複数のドローンが姿勢を乱し、爆発代わりの演習演出を煌めかせながら次々に沈黙する。


 この瞬間、ブリッジには小さなどよめきが起こった。まさに狙い済ました一撃で、イザナミがまとめて九隻を葬り去ったのだ。周囲の味方艦も感嘆の通信を飛ばし、通信士官がわずかに明るい口調で「巡洋艦ウラヌスより〝見事な一撃〟との連絡です」と報告する。


『ふふん、どうですか艦長、完璧ですよね! あと残りは小型ドローンがわらわら……すぐ片づけちゃいましょうか?』


 アリスが上機嫌で言うが、そこに艦長は「油断するな。まだ隠れている機がいる」とピシャリ。


 残存しているドローン艦は思ったより数も少なく弱っているが、隊列を乱しながら逃げ回る。味方艦隊は〝最終フェーズの仕上げ〟とばかり一斉に追跡をかけるが、速度差や弾薬のリロードタイミングもあり、取りこぼしが続いている。


 そんな中、アリスはあからさまに〝行かせて〟と訴える調子で艦長や副長へ発話するようになった。


『艦長、あと一撃で完全殲滅できます! ここは私が艦出力を最大まで上げて、ドローンの背後を──』

「却下だ。周囲艦の配置が崩れる。これ以上要らぬ混乱を招きたくない」

『でも、今追い打ちをかければ間違いなく勝てます! 艦長、ね、いいでしょう?』


 ソフトな声を装いつつも、焦りや高揚感を隠しきれておらず、オペレーターたちが内心でヒヤヒヤしている。副長エリザベスは思わず肩をすくめ、「まるで子供ね」と小声で呟く。


 だが艦長が徹底して自重を指示するのは、演習シナリオに沿って味方艦隊が連携行動を行う必要があるためだ。イザナミ1隻が突っ込んで殲滅しても意味がない。AIの性格が徐々に表に出始めているようで、アレックス艦長は苦々しい表情を浮かべる。


「アリス、お前に主導権を預けすぎると、他艦がついて来られん。自重しろ」

『……はい……』


 明らかに納得いっていないトーン。それでも命令は絶対だ。アリスはおとなしく黙ったまま、淡々と周囲へ指示を投げ始める。しかし、続いて演習管制から〝ドローン群の機能停止確認〟が入り、最終的には艦隊全体が順調に仕上げる形で決着がついた。


 演習空域に漂う無力化したドローンの残骸が、完勝を物語る。ついに管制ブイが「総合フェーズ完了」の宣言を行い、演習は終了した。

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