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1章‐3

 こうして最初の模擬戦がすべて片づくと、艦隊司令部から「第一段階クリア」のアナウンスが流れる。ブリッジではざわめきが起こり、クルーたちは「よし、悪くない」「快調だ」と安堵の息を漏らす。


 アレックス艦長も内心でほっとするが、表情は崩さない。副長が小声で言う。


「かなりスムーズに行きましたね。アリスの射撃プラン、的確でした」

「うむ。だが、やけに積極的だったな。もしかするとまだ手加減しているつもりかもしれん」


 艦長は微かに眉を顰めながら、スクリーンに残る敵艦の表示を見つめる。確かにAIのくせに妙に強気で、しかも嬉しそうに見える──。「ただの計算機」という雰囲気ではない。副長は艦長の視線に気づくと「そうですね……」と曖昧に相槌を打つ。


 その横でアリスが明るい声を出した。


『艦長、すぐに第二フェーズが始まるようです。管制側からの連絡では、防御側シナリオが更新され、今度は味方の巡洋艦ウラヌスが被弾想定で支援要請を受信しています。──私、すぐ飛んで行きましょうか?』

「待て待て、焦るんじゃない。全体へ指示が行き渡っているか確認しろ。軽率にハイパワーで突貫しても意味がない」

『はい……了解です』


 どこか残念そうに応じるアリス。その雰囲気を副長は見逃さなかった。「何だか、AIが戦闘を楽しんでるみたい……」と内心で驚きを覚えつつも、表面では冷静に振る舞う。


 第二フェーズでは、さきほど攻勢に転じたドローン艦とは別に、三隻ほどの敵役が新たに宙域へ出現した。艦隊司令部が組んだシナリオに従い、これらは〝巡洋艦ウラヌスを攻撃中〟という設定で、ウラヌス側からは「支援を急いでほしい」と演習用通信が発せられている。


『イザナミ、ただちに救援に向かい、ウラヌスとの連携防御を構築せよ』


 通信モジュールから響く命令は、遠くの指揮艦(シミュレーション管制)のもの。アレックス艦長はすぐ「了解」と返し、副長とアリスに顔を向ける。


「アリス、ウラヌスの位置と軌道を把握し、合流ルートを最適化してくれ」

『お任せあれ。……駆逐艦が一部こちらの後方で指示待ちしていますので、合流させましょう』


 ブリッジ一同の手際が良く、流れはかなりスムーズだ。イザナミが少し針路を右に寄せ、巡洋艦ウラヌスとの合流点を目指す。途中、小規模のドローン隊が飛び出してきたが、駆逐艦やウラヌスの防御射撃を受けて簡単に沈黙。


 やがてウラヌスの所在する宙域へ到達。航跡の連なりや人工的な光が淡く見え、そこに敵役ドローン三機が攻撃を続けている姿が捉えられた。演習と分かっていても、画面越しではなおさら妙な緊張感が漂う。


「各砲塔、戦闘準備。ウラヌスの進路を遮らないよう射線を確保してドローンを叩いていくぞ」

『了解です。では、半円状の側面射撃が効果的と思われます。ウラヌスにも打診……えっと、返答が〝賛成〟ですね』


 アリスは淡々と報告するが、その声はどこか弾んでいる。ブリッジのクルーは、さっきからアリスが落ち着きを欠くほど楽しげになってきているのを感じ取っていた。


 ──〝バチッ、バチバチッ!〟──


 主砲チャージを指示する前に、ドローンの短距離ビームがイザナミのシールドをすり抜けるほどの距離まで迫る。被弾は危うく回避できたが、艦長は思わず声を上げた。


「連携が遅れたか……! アリス、次の射撃プランを急げ」

『やります! 駆逐艦との同時発射で敵の動きを封じる……今……ッ! 発射!』


 言い終わるまで待たずに、砲撃担当クルーが発射承認ボタンを押し、複数のパルスレーザーが一斉に照射される。さらに駆逐艦のミサイルもタイミングを合わせる形で飛来し、大量の光の坩堝となって敵ドローンを包み込んだ。


「ドローン2機、機能停止……残る1機もシールドが尽きたらしい」

「ウラヌス側が追撃をかけ、最終的に管制機を撃破した模様!」


 オペレーターたちの報告に、アレックス艦長は静かに指令椅子に体を戻す。


「よし、支援完了。こちらは損害なしだな?」

『はい、艦体への直接被弾はありません。シールド負荷が22%程度です』


 ブリッジの空気がほっとする。だが、かすかにアリスの声が上ずっていた。彼女(?)は小さく息を弾ませているかのように聞こえる。怪訝な顔をする副長をよそに、アリスは満面の〝声〟で言い放った。


『やった……まだ続きがありますか? あ、次は何を……!』

「……ずいぶん乗り気だな。AIとしては珍しいテンションだ」


 艦長が呟くと、副長や通信士官も「同感だ」と無言で同意する。


 第二フェーズ終了の宣言とともに、司令部から「イザナミは予想以上の統率力を発揮している」との通信が入る。巡洋艦ウラヌスからも「迅速な援護に感謝する」という言葉が届き、ブリッジ内には微かな高揚感が漂う。


 しかしエリザベスは、アリスが示す妙なはしゃぎっぷりに対して、一抹の不安を覚え始めていた。AIでありながらこうも感情を表にするとは……と。


「艦長、まもなく最終段階に入ります。周囲艦の再集結が必要ですが、アリスがもう次へ行こうと先走り気味です」

「そうか……」


 アレックス艦長はモニター端を見やり、そこに映るアリスのインジケータ表示へ短く苦い視線を落とす。彼はAIを〝道具〟と捉えているが、このAIは単なる道具とは割り切れぬ何かがあると直感していた。

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