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3章‐1

 帝国の大規模攻勢は国境ゲートの封鎖によって頓挫し、くじら座タウ星方面での衝突は連邦が優位を取り戻した。帝国艦隊もそれなりの規模を残しているとはいえ、ゲートが封鎖され、封鎖の解除がまず不可能という状況では、もはや袋の鼠も同然だった。


 大型艦であればワープ・システムを搭載しているので、ここからワープで逃げ出すという選択肢がとれなくもない。しかし星系をまたぐようなワープには莫大なエネルギーが必要であり、ゲートが封鎖され補給もままならない状況では現実的でない。それに、艦載できない小型艦には逃げ出す手段がそもそもないのだ。


 やがて両国の首脳部にて話し合いがもたれ、此度の〝不幸な行き違いによる〟軍事衝突の終結に向けた合意がなされた。いわく、くじら座タウ星系内における帝国側の残存艦隊は投降、艦は一定の条件のもとで連邦に譲渡。乗員には捕虜として相応の待遇を与えるとともに、別の国境ゲートを通じ順次送還。TCEEゲート(くじら座タウ星:地球連邦⇔エリダヌス座イプシロン星:帝国)については連邦が一方的に封鎖を続ける権利を留保。


 大規模攻勢といいつつも、他の国境ゲートにおいて帝国の侵攻はみられず、帝国側領域における艦隊集結、つまり威嚇のみ。そのことから、帝国がもともとTCEEゲート、さらにその先にある、くじら座タウ星系内の居住惑星を唯一の目標として軍事行動を開始したことは明らかであった。そのTCEEゲートを帝国は奇襲まがいの方法で占拠したにもかかわらず、連邦に奪還され封鎖まで許したのだから、連邦優位な条件で〝停戦〟合意がなされるのも当然だった。


 ともあれ、連邦と帝国との衝突はひとときのなぎをむかえ、星々の海には束の間の静けさが訪れた。


 ◇ ◇ ◇


 苛烈な国境ゲート争奪戦を経て、またしても派手に爆散したイザナミ。その残骸が冷たいそらをまだ漂っている中、イザナミの脱出艇、すなわちブリッジと居住区画、そしてブリッジに設置された戦艦AIのコアであるアリスは、無事救助され地球に帰還していた。


 艦隊司令部はイザナミの活躍を大いに評価し、その再建造を「即時許可」した。大破のたびに湯水のごとく資源を投下することに軍上層部が渋い顔を見せたのも事実だが、イザナミが挙げる目覚ましい戦果を無視できる者はいなかったのだ。


 こうしてイザナミにとって二度目となる再建造がスタートし、コア状態のアリスとクルーたちはおなじみの全自動工房へ赴く。


「はあ……やっぱり金食い虫ですよね、俺ら」


 技術士官ヘンリー・小嶋が深いため息をつく。


「例の〝特攻戦艦〟だとか〝カミカゼ〟みたいな渾名が、さらに広まってしまいそうですよね。いやまあ……事実ですけど」


 副長エリザベス・カーターは冷静な表情で肯定する。


「ええ、でも記録にはイザナミの突出した戦果も残っています。十分な成果がなければ、こんな再建造を認めるわけがありません。軍が頭を抱えるのは間違いないけれど、結果オーライということね」

「痛い思いをしてるのは私なんですけどね~……」


 艦内──ではなく、暫定的に接続された外部接続ホログラム端末から、アリスの声がやや不満げに響く。ホログラム投影はまだ最小限ながら、一応クルーとはコミュニケーションが取れる状態だ。


「とにかく、再建造が始まっちゃうなら、私も頑張りますよ。新しい体を得たら、また出撃ってことですよね……おしっ、やるかあ!」


 副長は「やれやれ、本当に懲りないわね」と呆れ声を上げ、苦笑を浮かべる。どこか視線は穏やかで、日常が戻ったことに安堵しているのかもしれない。


「ところでアリス。あなた、だんだん幼児退行していない?」

「ぎくっ」


 ◇ ◇ ◇


 ちょうどその頃、艦隊司令がわざわざ大工廠へ訪れるという報が入った。彼は議会や本部の偉い軍人たちにも大きな発言力をもつベテランで、厳粛な雰囲気を漂わせる人物……と思いきや、実際はどうやら違うらしい。


 再建造の現場を視察に降り立った司令は、ぎょろりとした眼光を持ち、年配らしく白髪まじりだが、品格ある仕草に柔和な笑みを浮かべ、あちこちに声をかけて回っている。艦長であるアレックスが出迎えて敬礼をかわすと、司令は「久しいな、山本大佐」と穏やかに頷く。


「しかし……これが噂のAI、アリスじゃな? どこかの孫娘に似ていてな。いやあ、会えるのを楽しみにしておったんだよ」


 そう言いながら、司令はホログラムの少女、アリスを見て優しく微笑む。アリスは思わぬ温かい歓迎に笑顔になり、「司令閣下! お久しぶりです! この名前をつけてくださりありがとうございます。アリスです!」と明るく声を張り上げる。


 司令がまるで、本当に孫娘を可愛がる祖父のように見えて、ほぼ初対面に近いエリザベスやヘンリーたちは唖然とする。


「進水式以来じゃな。いやはや、昔の懐かしい顔を思い出すよ。聞けば痛覚まで持ってるそうじゃないか。痛い思いは嫌いじゃろ?」

「嫌いですよぅ、もう毎度大破で困っちゃいます!」

「ははは、それは……おぬしも大変じゃの。まあまあ、頑張れ、じぃじが応援しておるぞ」


 いきなり〝じぃじ〟呼ばわりのやり取りに、大将の周囲に控える幕僚たちは「司令……あまりにフランクに過ぎませんか」「軍人として……」と慌てるが、本人はまったく意に介さない。むしろ、アリスのはしゃぎぶりに顔をほころばせているのだった。


 司令はしばらくアリスと雑談した後、本題に入った。


「さて、今回の戦闘報告を見たが、その働きはまさに目を見張るの一言に尽きる。一方で毎回自爆を伴うという危険な綱渡りも気になる。そこでな、軍としてはイザナミのAIを複製し、改良できぬかと考えておる」

「……アリスのコピーを、ですか?」


 副長エリザベスが声を落とし、アリスも「ふぇ? 私を増やすってこと?」と首を傾げる。


「うむ。他艦にも同等の性能を持たせられれば、もっと安定した戦力を確保できるかもしれん。そうなれば、毎回イザナミばかりに負担をかけることも減るはずじゃ」


 艦長アレックスは司令に進言する。


「司令、アリスの人格はただのコードではないようなのです。以前にもバックアップを試みて失敗しています。どうやらコピー不可能な要素があるようで……」

「ふむ、聞いておる。だが試さぬままでは分からん。そなたらとイザナミの実績はあまりにも突出しておるからの。痛覚や感情は二の次としても、戦闘能力の核を複製できれば大きい。軍内ではその部分を期待する声が強いのじゃ」


 司令の言葉には、連邦がもつ危機感が強くにじむ。帝国との関係が悪化し、ついには武力衝突にまで発展した中、一隻でも多くイザナミ級の強力艦を欲するのは当然の流れだろう。


 アリス自身は少し不安そうに呟く。


「うーん、私の人格までコピーできるかは……でも、記憶や知識をまるっと写すだけなら普通のAIが誕生するのかな。感情とか痛覚は、どうなんでしょう」


 ヘンリー技術士官が補足する。


「そこが肝ですよね。アリスのオリジナル部分はコピー不可という可能性がありますが……」


 司令は肯定しながら「まあ、できる範囲でよい。研究施設に情報を提供してくれれば、あとは専門家が何か見いだすだろうよ」と落ち着いた口調でまとめた。こうして〝アリスの複製・改良計画〟なるものが正式に始動することとなった。

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