2章‐4
やがてイザナミがゲート管理施設すぐそばまで強引に接近すると、敵の攻撃は一段と苛烈になる。帝国にしてみれば、せっかく占拠したゲートをそう簡単に返せるわけがない。レーザーにビーム、金属弾頭とミサイルが、イザナミを蜂の巣にすべく殺到する。少しでも防御に失敗すれば貫通するだろう。
『うわぁぁ、艦長、すごい来てますよ!』
「分かっている! 防御シールドを艦体前面に集めろ。後方はフェンリルに迎撃させるんだ」
『まかせてください! やります!』
イザナミを筆頭とした艦隊は、円弧を描くように展開し、ゲート管理施設への突進態勢を整えていく。帝国艦隊も負けじと、巡洋艦に加え無数の無人機を繰り出し、管理施設の周囲を固めていた。
『正面に敵大型空母リヴァイアサンⅣ、その右側に巡洋艦バジリスクⅣが少なくとも三隻……あ、さらに増援確認。駆逐艦グレムリンⅦの集団が左右から回りこみつつあります!』
「集まってきたか。やはり帝国艦隊は分厚いな」
アレックスが低く呟く。
「前衛突入開始! 各艦、前方のバジリスクⅣ二隻に対してパルスレーザーとミサイル集中!」
「艦長! 帝国の駆逐艦グレムリンⅦ編隊が左翼を狙っています。ミサイル攻撃、来ます!」
『きゃー、ミサイルがわらわら……まるでスズメバチですね! フェンリルにより迎撃!』
パルスレーザー砲が瞬く間に赤い閃光を放ち、敵ミサイル群を相殺する。戦域のそこかしこで爆発が重なり破片が散る。ほどなくイザナミの左舷を護る巡洋艦フェンリルが白熱光に包まれた。躱しきれなかったミサイルが数発突き刺さったのだ。
『フェンリル一隻が大破。残りの二隻は損傷があるものの支援射撃を続けています……!』
「くっ……。まだゲートにも到達していないのに、被害が大きすぎる」
副長が歯を食いしばりつつ、状況を再構築する。先にはリヴァイアサンⅣの艦載機がひしめき合い、こちらを待ち構えているのが見える。
『ああもう、私、頑張るんだあぁあぁ!』
ブリッジにアリスの絶叫に近い声が響く。まだ敵弾はほとんど艦体に届いていないが、やがて自分の艦体が傷つけられる恐怖にアリスの感情が揺れているのだろう。
「アリス、気を張りすぎるな。痛みのフィードバックはほどほどに抑制しろ」
『わかってるけど、それ仕様なんですってば!』
艦長が軽く溜息をついた刹那、敵艦から再度ミサイルが数十発射出された。飽和攻撃だ。オレンジ色の焔を引いて飛来するミサイル群を、イザナミのCIWSが一斉に迎撃しようとするが、とても全弾は止めきれない。
「前面シールドを最大展開! パルスレーザー砲は優先的にミサイルを狙え!」
『ミサイルの軌道解析完了。自動迎撃プログラムと連携……あっ、こっち来る!』
激しい衝撃が船体を揺らす。左右のシールドが間に合わず、一部が艦体を掠めて艦内を震動させた。
『……い、い、今の、一部装甲剥がれたっぽい! ……ぐうっ、うう……右の脇腹あたり……くぅ!』
「損害軽微! 装甲が剥がれたが下部構造は無事だ」
グスタフの渋い声がインカムを通して直接届く。
「姫さんよ、痛いだろうが我慢だ。後で全部治してやるから耐えろ!」
『爺、うん……わかってる。まだ動けるよ……!』
明確なダメージはあれど、イザナミは致命的な損傷を免れ、前進を続行する。イザナミの主砲ソーラランス砲が力強く閃き、正面の敵巡洋艦バジリスクⅣを焼き払う。そこへさらに敵駆逐艦グレムリンⅦが斜めから射線を重ね、レーザーの斉射で牽制を図る。
「CIWS、後部中心に迎撃。アリス、CIWSの目標設定は任せる」
『了解! 向こうにリヴァイアサンⅣの艦載ドローン群……あれが厄介そうですね、どうしましょう?』
「囮艦にまかせるしかない。我々はゲート横の管理施設へ一直線だ」
敵のドローン群が小型戦闘艇と連動し、イザナミ隊を取り囲むような軌道を取る。多数の赤いマーカーが、ホログラム上でイザナミへ向け矢印を伸ばしていた。息つく間もなく砲撃とミサイルが雨のように降り注ぐ。
──〝ガガガガッ──!〟──
船体に激震が走る。複数の敵ビームが斉射されてシールドに穴を開けたらしい。短時間に高エネルギーを一点集中でぶつけられると、シールドではどうにもならない。
『ぎゃあ、また来た! 今度は肩口というか、上腕? ああもう、どこがどうつながってるんだか……でもあと少し!』
艦の加速が一気に跳ね上がり、ゲート管理施設めがけて急接近。回り込むように展開していた帝国艦隊が慌てて射撃を集中させるが、挟撃態勢が整う前に、イザナミはゲートと管理施設の隙間に潜り込む。ゲートを盾にするような位置だ。
「今だ、接岸する! 特殊部隊員を管理施設に送り込め。ゲートの制御を取り戻せばこちらの勝ちだ」
『私もシステムのハッキング手伝いますので、そっち側で端末を起動してくださいね!……って、うわ、なんか嫌な予感』
鋭い警告音──次の瞬間、後方の随伴艦フェンリルが大きく揺れる映像が映し出された。これまでイザナミを援護してくれていた無人巡洋艦である。しかし、その船体中央部が帝国巡洋艦の高出力レーザー斉射を受け、一瞬にして豪快な火球に包まれる。
「またフェンリルが落ちたか……」
アレックスの呟きは、ブリッジ全員に緊張を走らせる。残るはイザナミと、損傷だらけのフェンリル一隻のみ。少ない手勢で、この要所を維持せねばならない。




