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2章‐1

 再建造を開始して二ヶ月が経過する頃、イザナミの艦体は完成形が見えてきた。大工廠にはセンサーブロックや主砲塔が運び込まれ、動力炉も設置が始まった。ブリッジ・居住区画、すなわち脱出艇モジュールは整備を受けたうえで既に艦体に接続されている。ブリッジに設置されたAIコアが艦体と接続されたことで、アリスが関わる場面が少し増える。システムの接続テストが始まったからだ。


 ホログラム姿で艦内を歩いてみても、〝実体〟とは違う──けれど、その光景だけでも「自分が戻りつつあるんだな」とアリスは不思議な感覚を得る。神経が広がっていくような、自分が溶けていくような、直接の感覚としては微かにチクチクするようなものだけれども、少しずつ自分の身体を取り戻していく実感がある。


『お腹に血が通っていくのを、静かに感じるみたい……もちろん比喩なんですけど。巨大な艦体が少しずつ繋がって、ああ、これが今度の私の身体かって』

「アリス、痛みは大丈夫?」


 副長が念押しすると、アリスは「今のところは平気かな」と答え、「むしろくすぐったい感じ。くしゃみ出そうかも」と半笑いする。


 艦長は「くしゃみ?」と首をひねるが、戦艦にとって何がどう〝くしゃみ〟なのかきっと理解不能なので、深追いはしない。


 ◇ ◇ ◇


 そして迎えた再建造の最終工程。動力炉の本格起動とAIを含めた各区画の接続チェックが終わり、残りは調整のみ。以前のイザナミが持っていた兵装やデータも引き継ぎながら、新装備が追加されている箇所もあり、艦長はエリザベスやヘンリーと相談しつつ「暴走を起こしにくい形での強化」について検討している。


「今回はトールハンマーMk.Ⅱの配置が変わるじゃないか。アリス、お前が勝手に未承認の兵装組み合わせを使えないよう、承認フローを厳しくする案が出てる」

『むむむ、勝手には使いませんけど、緊急なら艦長のオーソリティが無くても撃てる方がいい場合も』

「そこのさじ加減が難しいのよね」


 副長が苦笑いする。以前の暴走事件は記憶に新しいが、一方で緊急時にアリスによる瞬時の判断が必要になることも事実。軍の装備管理としては「AIの完全自律制御はリスキーだが、有用性も極めて高い」という矛盾をどうにかしなくてはならない。


『私も学習しました。艦長の命令なしにはやらないようにしますよ。たぶんその方が、痛い思いをしなくてすみますし』

「まあ、そうだね……痛いからって焦ったら艦そのものが爆散だからな……」


 穏やかな空気のなか物騒な内容を話していると、工廠スタッフから「本日一七〇〇に完了式典を執り行います」という連絡がやってくる。艦長らは会議を中断し、夕方に行われるその最終組み付けの立ち合い会場へ向かっていった。


 ◇ ◇ ◇


 大工廠中央ホールにて厳粛な雰囲気が漂う。慣例に従う形で、戦艦の建造や修理完了時には、一種のセレモニーが行われるのだ。関係者や上官も一部集まり、技術的な報告と簡単な挨拶が交わされる。


 アリスのコアも専用コンソールに接続され、この最終工程を見守る立場。ホログラム姿ではなく、伝統的なAIインジケータとして控えめに設置されているだけの彼女の横では、副長や艦長が厳粛な顔つきで進行を見届ける。


 巨大なフレームが上下から合わさり、閃光を放つ溶接ビームが縦横に走る。格納されていた反物質融合炉や補助核融合炉が胴体ブロックに完全ロックされ、新生イザナミが完成した。


 工房長が「これにてイザナミ級戦艦・イザナミ、再建造の全工程を完了しました!」と宣言。拍手が広がり、要人たちが握手を交わす。艦隊司令の代理人も「またドカンとやらないよう頼むぞ」と冗談混じりに声をかけてくる。艦長は苦笑いで「肝に銘じます」と応じ、副長は安堵の微笑みを浮かべる。


 ──こうして再建された戦艦イザナミの姿は、大工廠を出立した次の日にはもう、辺境に近い宙域のステーション軌道上にあった。


 ここでの任務はイザナミ各部の最終調整と慣熟訓練、そして次のミッションに向けた準備作業である。主に副長エリザベスが指示を出しながら、各ブリッジクルーが忙しなく動き回る。ブリッジからは直接見えないが、技術チームや整備チームはここよりもさらに多忙を極めているに違いなかった。


 戦艦AIであるアリスは、コア改造やアップデートこそなかったものの、痛覚関連の不具合が生じないよう各種センサーの調整を受けている。とはいえ「痛み」が完全に消せるわけではない。彼女は人間でいう〝全身に神経が張り巡らされている〟ような状態になっているらしく、そのような状態であるからこそ完璧以上に艦体を掌握できている。それゆえに、神経を麻痺させるような形で痛覚を完全にカットすることはできなかったのだ。


「アリス、どう? 艦体の感触は」


 副長がブリッジで声をかけると、ホログラムシステムを使用したアリスの美少女アバターがブリッジにちょこんと現れる。


「うん、バッチリ! でもちょっと肌がピリピリする感じ……やっぱり、まだ慣れない部分もあるかな。前の船体とはいろいろ違ってて……」

「そう。痛みを最小限にできるならまだいいけれど、無理しないでよ。いざというとき暴走しちゃ困るわ」

「はいっ、リズお姉ちゃん! もう爆散するのは懲り懲りですし!」


 その微笑ましいやり取りに、隣で操艦データを確認していた艦長アレックスが短く相槌を打つ。


「今後の作戦では単艦突撃ではなく、大規模艦隊の一員として動くことが増える。アリス、お前も周囲との連携を優先してくれ」

「はーい、かしこまり! ……でも艦長、私たちがあまりに後ろに回っても、活躍できませんよね? 痛いのは嫌だけど……」

「いざ戦闘となれば前線に出る場面もある。状況を見極めるんだ。焦りは禁物だぞ」


 そう命じられると、アリスは「はーい」と素直に返事するが、リズお姉ちゃんこと副長エリザベスは、私の役目はこの子を止めることね……と決意を新たにする。このへんてこなAIはその時が来れば、きっと間違いなく暴走するのだ。

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