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1章‐9

「ワープ、成功……か?」


 アレックス艦長が重い息を吐く。副長がセンサーを確認するが、座標は誤差があるようで正確な場所は特定できぬまま。それでもそこは爆心地からかなり離れた安全地帯だと判明し、ブリッジ内にほっとした空気が漂いかけた。


 しかし、それも束の間。スクリーン越しに見る遥か後方の星空には、凄絶な閃光が花火のように広がっていた。レーダーには大規模なエネルギー異常を示す波形が映る。


『艦長……あれ、見てください。イザナミの本体が……あれだけ大きなメイン炉が、一気に……!』

「……大爆発だな」


 副長やクルーたちの視線の先で、イザナミの艦体は根こそぎ崩壊し、動力炉が限界を超えた熱量を宇宙空間へ放出する。要塞のコアも連鎖的に誘爆して衝撃波が広範囲に拡がり、要塞はもちろん周辺にいた海賊艦たちもまとめて巻き込まれていく。あちらこちらで泡のような衝撃波が何重にも広がり、金属片の嵐が吹き荒れる凄惨な光景だ。そのまばゆい光の塊は、脱出艇でも明確に感じられるほどの爆風の名残を送りつけてきた。


『……うぎゃああ、痛いいたい痛いっ!……あれっ? でも私の艦体、今ないんですよね? ん? んん? 混乱してきた……』

「落ち着け、アリス。もう痛みはないはずだぞ。船体はとっくに分離しているんだ」

「周囲に爆風が近づいてきます。振動が来る……各員、衝撃に備えて!」


 副長の声とともに、脱出艇の外壁ががたがたと震えた。一瞬、まるで大気圏突入時のような揺れが走るが、非常用シールドを展開していたために直接の被害は免れたらしい。


 何秒か後、振動が収まった頃には、スクリーンに映るあの星々の一角は元の静寂を取り戻していた。武装勢力の商談会などという物騒な集まりは一網打尽にされ、要塞とともに粉々に破壊された。誰もが言葉を失ったままその破局を見つめている。空気を裂くような沈黙ののち、艦長が静かに口を開いた。


「結果的には、宙賊も武装勢力もほとんど壊滅したか……。任務としては大成功だろう。ただイザナミを代償にしてな」


 誰もが爆煙のような感情を抱えながら、狭い脱出艇の中で息を詰める。とはいえ生き延びた奇跡には感謝せざるを得ない。アリスがか細い声で呟く。


『ごめんなさい、私……怒りにまかせてしまって。皆をこんな目に遭わせて……それに艦を……』


 副長は肩を落とす(?)アリスに向かい、ゆっくり言葉を紡ぐ。


「あなたと私達が無事ならそれでいいわよ。確かに艦は失ったけど、命は繋がった。正直あそこまでの規模になるとは思わなかったけど……所詮は宙賊、悪事を働く前に片づいてくれたとも言える」


 整備班長グスタフは腕組みをしながら渋い顔でうなる。


「戦闘区画は再建すればよい。全自動工房の技術者連中が聞いたらひっくり返りそうだがな。だがまぁ姫さんのやることだ……次もこんなことになるかもしれんから、覚悟は決めておかないとな」

『うぅ……それでもやっぱり、私だって爆発は嫌ですよ……痛いのはもう懲り懲り……』


 ブリッジ兼脱出区画となった艇内では、乗組員がひしめき合っていた。艦長アレックスは苦笑しつつ、天井カメラに向かって告げる。


「とにかく我々はこの場を脱出した。クルーが全員生きていることが一番だ。それだけで十分だ、アリス」

『……ありがとうございます。艦長、本当に……すみませんでした』


 アリスの声はまだしおらしいが、そこにはどこか安堵の響きがある。そのとき、通信端末がピピッと鳴り、連邦軍哨戒艦からの連絡が入った。ノイズ混じりの声がこう告げる。


『こちら哨戒艦ヴァンガード。大爆発を観測。まさかイザナミがドカンとは……生存者はいるのか?』


 副長が応答態勢に入り、まっすぐ背筋を伸ばした。


「こちらイザナミ脱出艇、艦体は失いましたが我々クルーとAIコアは健在。位置を送りますので回収をお願いします」

『進水したばかりの最新鋭戦艦が、もう爆発? 一体何があったんだ……』


 むこうから苦笑気味の呟きが聞こえてくる。艦長は眉をひそめつつも半ば諦め顔になり、


「とにかく迎えが来るなら早めに頼む。レイダーズとその愉快な仲間たちの残骸がそこら中に散っているだろうが、そちらで処理を頼む」


 通信を切ったあと、脱出艇の小窓を覗くと、遠くでキラキラと光るなにかの破片が見える。新しい艦が作られるまで数ヶ月──そう思うと、アレックスはため息をつかざるを得なかった。


『ああ……痛みは消えたのに、なんだか身体を切り離された感じが変……体がないと落ち着かないです。私、自分が船だってあらためて思い知らされました……』

「お前はこのコアではなく、あの大きな船体を自分と認識しているんだろうな。まあ、再建造はされるだろうさ。お前のデータはしっかりある。艦体を失ったのは不本意だったが、宙賊殲滅という成果はあげられた」


 アレックス艦長はブリッジを見渡し、クルー全員の無事をあらためて確認する。どこか安堵の色が漂うのは、爆散寸前という最悪の事態からうまく逃れられたからに他ならない。ヘンリー技術士官は座席に沈むようにして、虚空を見上げる。


「収集した証拠データを持ち帰れば、一応上層部も納得するでしょうね。あそこにいた連中の悪行が全部書いてあるなら、これ以上ない成果になります」

「そのためにも無事帰還しないとな。……アリス、お疲れ」


 艦長が珍しくアリスを気遣うようにそう言葉をかけると、アリスは微かな笑いを含んだ声を返す。


『ありがとうございます、艦長。私、もっと冷静に戦えると思ってたけど、色々な意味で未熟でした……。痛みもそうだけど、怒りも制御できなくて──結果的に艦が大破して……すみません』

「そんなに自分を責めるな。結果を見れば任務達成どころか敵を一掃し、全員無事に帰還した。艦の爆破もそのために必要だったとさえ言える」


 その言葉に苦笑がこぼれる。ブリッジ内、整備班長グスタフが冗談っぽく肩をすくめ、「姫さんのおかげでたくさんの悪人を葬れたんだ。悪くない」と付け加える。


 戦場の炎は散り散りに消えて、淡い漂流物が闇を覆っている。残っていた機雷が炸裂したのか、小型の閃光がピカリと灯ってすぐ球形に消えた。


 今この刹那、脱出艇を包むのは、深い闇とわずかな閃光の残響だけ。誰もが息を潜めて回収の瞬間を待つ。程なくして哨戒艦からの誘導信号が入り、一筋の光が宇宙を切り裂くように脱出艇をエスコートしに向かってくるのが見えた。

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