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1章‐7

 イザナミの内部では急いで対処策が練られた。当初の作戦は「要塞を砲撃して終わり」だったが、周囲に散らばる船が予想の何倍も多い。不用意に砲火を開けば、あちらもこぞって反撃してくるだろう。


 副長エリザベスが地図を示しつつ、艦長やブリッジクルーに加え技術士官ヘンリー、さらにアリスも交えて作戦会議を行う。ホログラムディスプレイには、要塞と多数の艦船シグナルがぐるっと配置された図が浮かび上がる。


「見ての通り、要塞はコア部分が一つ、周辺に小規模ハンガー区画が複数。そこにいろんな勢力の小型船が係留されているようです。いちいち片づけている暇はありませんね」

「つまり要塞そのものの破壊が目的なら、コアを落とせばいい。だが相手船群がまとめて襲いかかってきたら厄介ですね」


 ヘンリー技術士官が手元の端末を見ながら補足する。


「船体のスペックで言えば、イザナミが真正面から砲撃すれば、かなりの数を相手できると思います。しかし一斉に横合いからミサイルを浴びせられた場合、シールド維持が難しくなる恐れも……痛いと思いますよ、アリス」

『やーめーてー……もう痛いのはごめんです。かといって逃げるわけにもいかないし』


 アリスの素直すぎる嘆きが響く中、艦長は腕を組み黙考していた。しばし沈黙、そして低い声。


「……動力炉を狙って一撃離脱も考えたが、今回の相手は数が多い。接近すれば、連中は一気に包囲してくるだろう。うちは無人巡洋艦を含め4隻体制だが、油断はできん。逆に外部から各個撃破しようにも、時間がかかりすぎる」


 副長も同意し、「ならば要塞本体を一瞬で無力化し、威圧してしまうのが最善でしょうか」と応じる。しかし艦長は眉をひそめてテーブルを指先でトントンと叩く。


「連邦軍がここに大規模艦隊を送るには時間がかかる。増援を呼んでこいつらを包囲しようとしても、すぐ逃げられる可能性が高い。……要塞破壊は急務だが、多数の相手と正面戦闘になる恐れがあり、そうなればこちらも無事では済まない」

『むむむ、なかなか厄介な状況ですね……』


 そこでエリザベス副長が何か思いついたように顔を上げる。


「作戦を二段階に分けるのはどうでしょう? まずは威嚇して、周りの船がバラけたところを見計らい、要塞コアに砲撃を集中。もし周囲が寄ってくるなら、随伴の無人巡洋艦で分散して迎撃。アリスの管制力をフルに使えば、同時に複数方向への対処が可能かと」


 この提案にヘンリーが目を輝かせる。


「いいですね。無人艦の統制をアリスが一括でやれば、人間では追いつかぬ速度で指示を出せます。敵が散発的に動くほど、こちらの攻撃は通りやすくなるし……」

『なるほど。痛い思いをすることなく安全に……と言いたいけど、それなりにリスクもありますよね』


 アリスがうーんと悩む。艦長はそんな彼女をちらりと見ながら、静かに偏光ガラス越しの宙を見据えた。


「リスクはあるが、一番手堅い手法だろう。こちらが初撃を決めれば、連中は混乱して各自バラバラに逃げるかもしれない。統率なんてとれていない輩だ、まとまって反撃するには時間がかかるはずだ」


 こうして方針は定まった。「要塞のど真ん中を短時間で撃ち抜き、恐怖心を与えて対抗意欲を挫く。その後各個撃破」。そのためにも、アリスの情報処理による正確な火力投射と、無人巡洋艦の段取りが要になるだろう。


 それでも副長は念押しするように艦長を見やる。


「一度砲撃準備に入れば、私たちは動力炉を高出力で稼働させます。周辺勢力が警戒して先制攻撃を仕掛ける可能性も大きい。……ほんの少し判断を誤れば、大混戦に陥りかねません」

「承知している。状況の見極めが肝心だ」


 そして艦長は、ひとときアリスへ視線を送った。艦が損傷を負い、彼女が痛み訴えるリスクは大きいが、この艦の力を最大限発揮するにはAIの勇気ある判断が不可欠だ。


「アリス、お前にも無理をさせる。ただし致命的な被弾は避けたい。慎重に動け。分かったか?」

『……はい! がんばります、艦長』


 アリスの声には微かな震えがあったが、同時に燃えるような決意も感じられる。会議はそこで解散となり、ブリッジは一気に作戦準備モードへ切り替わった。


 ◇ ◇ ◇


 イザナミが姿勢を調整し始めたころ、周囲の武装集団はすでにこちらの動きを感知しており、一部の船は牽制するような航路を形成していた。真っ先に挑発的メッセージを送ってきたのは、宙賊の象徴とも言われるコルセアの小型高速船。


『おいおい、連邦の戦艦が何でこんな辺境まで来てんだ? 俺たちのビジネスを邪魔するなら撃ってやるぜ』


 そんな通信に対し、艦長は冷ややかに『連邦軍の権限で不審施設を排除する。立ち退け』と返信するのみ。


 すると他にもカレドヴールフ商会と自称する団体の船から『ここで行われる〝健全なる商取引〟を阻むなら、連邦であろうと容赦しない』と威嚇が入り、デス・バザールに至っては『武器の実験台として歓迎してやる』と不気味な通信を寄越してくる。


 が、これらはあくまで個別のグループ。宙賊同士がまともに協力し合うケースは多くないため、艦長アレックスは「威勢のよいことだ。それでも数が多いのは事実だが……」と眉を寄せる。


 やがてイザナミは最終位置を確保し、砲撃を開始できる態勢を整える。クルーが集うブリッジには、人工重力の下、ひんやりと張りつめた空気が漂っている。大型ホログラム映像が宙に浮かび、要塞の輪郭やその周囲に散開する小型船たちを視覚化していた。


 副長が固い声で宣言する。


「シールド展開レベル3、主砲チャージをスタンバイ、艦内へ警戒態勢レベルを引き上げます。無人巡洋艦3隻にも攻撃許可を伝達。……アリス、やれるわね?」

『……そ、そうですね。やります!』


 アリスの緊張が伝わる沈黙があったが、やがて声が決意に染まる気配。艦長はそれを聞き届けて短く頷く。


「よし。ならば最初の一撃を叩き込む。要塞コアにソーラランス砲を集中射撃。周辺からのカウンターに備えろ」

「無人巡洋艦は外周を固めろ。イザナミは正面で一撃!」

『了解。ソーラランス砲、出力最大でエネルギー充填に入ります』


 副長が畳みかけるように指示し、アリスの声がブリッジに響く。ブリッジは砲撃開始のカウントダウンに入った。


 果たして、これだけで済むのか、それとも周囲の武装船連中が一斉反撃に出るのか。エリザベスは胸に一抹の不安を抱えながら、静かに息を呑む。アリスも「なるべく当たりたくない……」と小声でつぶやく。やがて艦長の声が轟いた。


「全砲、照準固定! 撃て!」

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