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五、聖女と思われた何か


場所は変わって紅宝国ルビアータ。

城のすぐ近くにある教会で今日も一人の少女は微笑んでいた。


「ユイン様右足が痛くて!」

「すぐに魔法をかけますね。」

「魔物のせいで食物が……。」

「今度そちらにお伺いします。」

「ユインちゃん今日もかわいいネェ。今度お茶とか……」

「ありがとうございます。」



紅宝国ルビアータ現第一王女ユインロウハ・モルタリア。彼女は聖女だ。

紫の混じった桃色の長髪をおろし、聖女のローブを羽織っている。

笑顔を絶やさない慈愛の少女。いわばこの国のアイドル的存在の彼女。



今日も教会での仕事を終え王城に戻る。

ローブを侍女に預けベットにダイブし、

「〜〜〜、んふふふ!」

満面の笑みでクッションに抱きついた。

先程の微笑みとはかけ離れた、嬉しさを噛み締めたような笑顔。


「やっとよ!やっと!ヒカル様との婚約は私のもの!」


声を高らかにあげベットを転がる。

ユインロウハ、彼女こそこのリンカーラの聖女殺人未遂事件の黒幕だった。



ユインロウハは愛らしい。その上歴史上最高の聖女だ。

聖女とは神に定められるもの。

といってもぽんぽん聖女になるわけにもいかないので、一国に一人でも聖女が現れたら万々歳……、だというのにその上ユインロウハは聖女の中でも最高峰の治癒能力を持つ『光』の聖女。


故に幼少からめっちゃちやほやされていた。


世界はユインロウハを中心に回っているのではと本人も自覚しているくらいには愉悦感ましましの人生を送っていた。


ただそこに勇者が現れた。

それこそ最初は敵視していた。自分以上に目立つ存在に初めて出会ったからだ。

でも知っていくうちにこの男には勝てないと気づいてしまった。

聖女の持つ書籍、聖典にはこんな言葉がある。


『強者ヲ敬エ』


ユインロウハは考えを改めようと勇者を注視した。そして想いを恋に変えた。

(生まれて初めての恋よ!成就させなきゃ納得しないわ!)

そのために邪魔な存在が愛する勇者の婚約者だったリンカーラだ。

百歩譲って自分より優れた人間なら自分は側室くらいで妥協した。

でも相手は魔力なしだ。

かたや聖女、かたや無能王女。許せるわけがない。

だからなんとしても二人の婚約をなくす必要があった。


しかしユインロウハには聖女という立場がある。

神に選ばれた以上私情で『婚約を破棄しなさい』というと今までの評価に傷がつく。

『ユインロウハはわがままだった』なんて言われたくない。


からこそのこの事件。

時間をかけて姉の方を壊す。

最初は自分を好きにさせようか考えたりもしたが、姉を落とす方が確実性があった。

あとは簡単。表面上は仲良くして少しでも姉が怒ったら悲しんで、姉の評価を落とす。

その作戦が意味をなしたのか、リンカーラとユインロウハの評価は雲泥の差になった。

あとは公開されている通り。

リンカーラと日輝に恋愛感情はなかったがそれこそ表面上は良好な関係の二人なら『姉が嫉妬で殺しました。』なんて適当いってもごまかしが効く。

そして、合法的に姉を追い払い、勇者の婚約者という立場を得たのだ。



コンコンと自室の扉が叩かれる音がした。

「はい、どうぞ。」

ユインロウハはすぐに体制を整える。背筋を伸ばし優雅な聖女。

「ユイン様、お茶をお持ちしました。」

扉からひょこっと金髪の少女が顔を覗かせる。

彼女の名はヒマリ。ユインロウハとリンカーラに同時に仕えていた侍女だ。

ちなみにユインはユインロウハの愛称だ。

「本日もお勤めご苦労様です!変な輩はいませんでしたか?」

注いだ紅茶とお菓子をユインロウハが座っているベットのすぐ近くにあるサイドテーブルに置く。

「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫ですよ?」

口に手を当てふんわりと返す。

正直毎日ナンパに来る男を「うざっ」と感じているがそんなことも言えない。

「遠慮せずいっていいですからね!お望みなら嫌な人全員、国外追放でも大丈夫ですよ!」

「そんなこと言ってはいけません。」

どの口が。

と内心ツッコミをかます。

姉を国外追放したのは紛れもなく自分だってのに。



「ユイン様、実は欲しいものというかお願いがありまして……。」

言いづらそうに口を開く。申し訳なさそうに俯き、メイド服の裾を掴む。

「?どうしました?」

ユインロウハの笑顔に少し緊張が解けたか、二人の目が合う。

ヒマリは大きく息を吸った。

「これを。」

渡されたのは一通の封筒だ。ぼろっとしている。

中を開け手紙を読むと

「『ハハビョウニフス、シキュウカエッテコイ。』ですか。」

「実は母が体調を崩してしまって、なので本日をもって辞めさせて、」

「え、や。」

「へ?」

つい、素で返してしまい、慌ててユインロウハは口を塞ぐ。

「ん、ん、それくらいなら私が出向いて治します。辞めようだなんて言わないでください。」

とユインロウハはヒマリに微笑み返す。

つい自分の素が出てしまったのをもみ消すくらいの圧倒的聖女スマイルで。

「そんな!わざわざ御足労いただくほどではありません!それに母の体調が治ったとしても……、」

言いづらくなり口をつぐむ。

ヒマリもただの侍女が聖女に言い返すのは身の程知らずだとわかっている。

それでも『辞めなければならない』理由があった。

「でも……。」

そしてユインロウハもまた彼女を辞めさせるわけにはいかなかった。

唯一、姉と自分の両方に仕えていた侍女。

彼女がどこまで知っているかわからない。

裏切りはないとしても、自分の本性を知っている可能性。実は自分が姉を国外追放された張本人だとばれている可能性などは否めない。

故に自分の元から手放し情報漏洩するのがとても怖かった。




「お世話になりました。」

結果、二人の折衷案として、一時解雇に落ち着いた。

絶対に戻ってくると契約書にサインさせた以上、変に噂が流れることもないだろう。なんせ聖女かつ王女との契約なのだから。

(一時だから?絶対に戻ってくるのよ?)

と笑顔で圧を向ける。

リンカーラ国外追放から四日後、ユインロウハの侍女は一時解雇となった。



「あー頬痛い。」

ユインロウハは頬に触れながら廊下を歩く。

ずっと微笑みっぱなしで流石に疲れてしまった。

ふと廊下の真ん中で立ち止まる。

「あいつ、死んでないわよね?」

壁を見上げると自分含めた姉弟の肖像画が飾ってある。

無愛想なリンカーラと微笑んだユインロウハ。


ユインロウハは姉のことが大っ嫌い。

でも人殺しになるなんて絶対に嫌。

魔物の森の前にリンカーラを追放してから四日。

彼女の消息がつかめないらしい。

魔力なしの王女だ。魔物に喰われたという可能性もある。


大丈夫、『聖女』である限り自分は世界の中心でいられる。

ならば黒幕だという事実もこの捻くれた本性も隠してしまおう。

「絶対に生き残ってやるわよ。愛する人のために。」


「誰を愛してるって?」

ふとユインの背後から声がした。

振り向くと肖像画に描かれた顔を持つ少年たち。

そして

「ヒカル様……!」

異世界から召喚された勇者、神楽坂日輝。

ユインロウハはすぐ彼に駆け寄る。

「言わなくてもわかっておられるでしょう?」

聖女の微笑みで彼女は勇者の手を掴んだ。

これから幸せな婚約生活が待っていると信じて。


ユインロウハ・モルタリア。聖女と思われた悪役姫


ユインロウハ・モルタリア

現紅宝国の第一王女兼勇者の婚約者

また聖女でもある

性格は基本的に尖っているが基本的に猫をかぶっている。


16歳/153cm

紫の混じった桃色の長髪(お尻あたりまで)

桃眼

やや吊り目だが基本笑ってるのであんまわかんない。

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