非骰の巣
暗い広場に光が差す。
帰ってきた4人にルノが声をかける。
「おつかれ。大変だったみたいだね」
「笑い事じゃないよ」
ローチェが返してため息をつく。
「リアは?」
「向こう。今は話しかけないほうがいいよ」
ラズが訊き、ルノが答える。
「エル。もう少し説明して」
後ろにいたエルが広場の真ん中に来るのを待ってローチェが言う。
「なにがしたいの?どういうつもりであいつらに喧嘩を売るような真似をしたの?」
「...そのほうが面白いからですよ」
芝居がかった動きで考える仕草を見せてからエルが答える。
「...敵を増やすのがか?」
黙ってしまったローチェに変わってラズが訊く。
「喧嘩を売るつもりはなかったんですよ」
「それでも」
「ああ。心配をかけたのは申し訳ないです」
イースは入り口側に立ったまま黙っている。
「...」
話は終わったと判断したのかエルが入口へ向かう。その前にローチェが回り込む。
「どこ行くの」
「一人で行きます」
ローチェが気づいたときにはエルは後ろにいた。追おうとして歯噛みする。
「っ」
その背はすぐに見えなくなる。
「他人は思い通りにはできないよねえ」
ローチェが卓についてルノが言った。
「...限度ってものがあるでしょ。少し目を離しただけでこれだよ。何かあってからじゃ遅い」
「何かあると思う?」
意図を汲みかねてローチェは顔を上げる。ラズもルノに顔を向ける。
「何を考えてるのかは知らねえけどさ。きっとおれたちには想像もつかないような」
「それはわかる」
「エルがいなかったら、おれたちは今ここにいない」
「わかる」
「エルなりの考えがあっておれたちは助けられたんだ」
「...」
「エルはしくじらないと思う」
「...どういう流れでその結論になるのかわからない」
「うん。おれも言ってから思った」
「時間返して」
ルノが顔を上げる。視線を追うとイースがいた。
「エルにはエルの目的があって、エルなりにそれに向かってるんだと思う。だから、その目的がおれたちにとってもいいものであることを願うしかねえんじゃない?」
「...少なくとも今はイースを傷つけるようなことはしてないな」
ラズが言うとローチェが机を叩く。
「あんな得体の知れない化け物と戦わせるように仕向けてっ」
「...。でも不要ならいつでも消せるだろ」
「...誰かの手にかけさせるのが必要なのかもしれないじゃん」
ラズとルノが顔を見合わせる。イースは黙ったまま立っている。
「...なに?」
「いや...過保護だなと思って」
「...悪い?」
「いや」
ラズが若干身を引きながら答える。
「それはともかく、その目的が悪いものだったら?」
「どうしようもない」
あっさりとルノが言ってのける。
「...ひどい」「逆に」
ローチェのため息まじりの感想にルノの言葉が被る。一呼吸おいてルノが言いなおす。
「逆に止められると思う?全人類が束になったところで」
「それはわからないけど...。けど、そんなふうに割り切れないんだよ、ボクらは」
「それはそうかもな」
ラズが頷き、ローチェが続ける。
「できる範囲のことはしたいと思う。...無駄な足掻きかもしれないけど」
「そうだろね。できないことはいいとして。そういうものだ」
言ってルノが考える仕草を見せて首を傾げる。
「?」
そのまま顔を真上に向けた。
「...あ!」
「...どうした」
「今思い出したんだけど、フュバウで見つかったって」
「...それを早く言ってよ」
ローチェがぼやいて立ち上がる。入り口へ向かうその後ろにイースが黙って続いた。
「あ、チックがなくなったから持って来て」
「ラズに頼んで」
「俺も暇じゃないんだが」
2人がいなくなってからルノが背もたれによりかかって呟いた。
「イースも十分化け物だと思うんだけどねえ」
ただの天才だよ