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永遠の欠片  作者: 匹々
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綿の裏に針

いいひとだもの

そうだよね

うん

じゃあ信じたら?

今のところはね

生まれ変わったら何になるのだろう。

考えていると手応えがあって竿を引く。リールを巻くと銀の閃きが暴れて光が散る。

魚はいやだな。

そんなことを思いながら釣り上げるのもひどい気がするが。

再び勢いをつけて投げる。

釣りは好きだ。時間があるときに趣味としてここに来ている。

今日は一人ではない。

隣の糸が揺れる。上がってきたのは少し小さかった。

「もう一匹釣ったら終わりにするか」

ムクアを針から外してウァドが言う。

それに頷いたとき、またこちらの浮きが沈む。

「おっと。早いな」

リールを巻いていくと今度はやや大きなムクアがあがって来る。

海中から手に伝わってくる力は、追い詰められた獲物の最期の足掻き。

釣りは好きだ。この瞬間以外は。

「あんまり釣っても食べきれないし、もう片付けるよ」

「逆に4匹食べるのかよ」

振り返って笑う。あとは待つだけ。

「流石に一人では無理だけど。今日はネモいるから」

「あの人一匹も食べるか?」

「どうだろう」

そう言ったとき、背後で大きな音がした。

「「!?」」

振り返ると、茂みから魔物が出てくるのが見えた。大きな毛の塊のように見える。

隣を見るとウァドと目が合う。先ほどまでの笑みはなく、青ざめているのは多分ぼくも同じだ。

どうしてこんなところに。街の結界の外ではあるがここも壁の内側だ。

もうあまり距離がない。気づかれたら向かって来るだろう。

震える手で短剣をとったとき、どしゃっという音と耳障りな声が聞こえた。

見ると魔物が後ろで横倒しになってもがいていた。

矢が飛んできた方を見ると、ネモがいる。

「...早く!」

我に返って、慌てて倒れた魔物に駆け寄って頭に剣を振りおろす。

それを何度か繰り返して、ようやく魔物が色を失って、ネモは構えた弓を下ろして駆けてくる。

「二人とも怪我はない?」

ネモは弓を持つときいつも苦しげな顔をしている。

「...なんとか」

ぼくは冷や汗を拭いながら答える。

「釣り具を片付けよう」

ウァドは頷いて、そのまま放り出した釣り竿を拾う。

「それだけ使っちゃえば?」

ぼくはその針を指しながら言って、ネモを見る。

「もう大丈夫かな。向こうは衛師が集まってるはず」

ネモがそういうと頷いてウァドは囮を確かめて再び竿を振る。そしてぼくたちの後ろに座ったネモの方に目線をやる。

「...あの、どうしてここに?」

ネモは釣りをしない。

「釣り場のほうで魔物を見たと言う者がいてね。いやな予感がしたから、走ってきた」

すでにウァドは前に向き直っている。

「魔物はどこから?」

「それがわからないんだ」


浮きが下がってウァドは竿を引く。

「おおっ」

上がってきたムクアを見てネモが声をあげる。

「すごいな。大物だ」

ウァドは笑っただけで黙ったまま針を外してムクアをバケツに入れた。

道具を片付けて街に帰る。

「雨が降りそうだね」

「本当だ。さっきまで晴れてたのに」

「...」

ウァドは何も言わない。

「じゃあまた」

「ここか。またね」

「...また」

控え目に挨拶を返すウァドと別れる。


衛師が来て、ネモに報告をする。

「...どうやら他に魔物はいないらしい」

「でもなんで魔物が?」

「どこから入ったのかはわからなかった。壁にもやっぱり穴は開いてないみたいだし」

そう教えてくれた。

「まだ調べる必要があるかな。結局魔物についてはわからないことのほうが多いから」

そう言って、ネモはまた市場に戻って行った。

「気をつけて」

「うん」


ぼくは一人で城に帰る。厨房に挨拶をして、バケツを置いていく。

「4匹も釣ったの?」

「まあね」

「そういえば魔物が出たとか。大丈夫でした?」

「耳が早いね。ぼくはなんとも。ネモが来てくれたから」

そう言うとようやく皆が安心した顔をしてくれる。

「後は任せていい?」

「勿論。じゃあ新鮮なうちに処理しちゃおう」

「天ぷらにしましょうか」

「楽しみ」

おやつを頂戴してぼくは部屋に戻る。

読んでおけと言われた書類に目だけ通して座る。

ネモが何者なのかはよく知らない。父のヘムザはあまり詳しいことを教えてくれない。領主が養子として預かっているくらいだから、なにか理由はあるのだろうなとは思っている。

ただ、優秀で大抵のことをうまくできる。博識でいろんなことを教えてくれるし文章も書ける。弓の腕もいいが、あの普段は見せない表情が何を意味するのか、ぼくにはわからない。

皆に信頼されている。今は史子として領主であるヘムザを助けてよく働いている。ぼくも兄として頼りにしているしウァドも憧れている。

「...」

ウァドのことを考えて苦笑する。面と向かうとああなってしまうのは、本人曰く悪気はないがなんとなく居心地が悪くなるのだとか。なんだそれ。


帰ってくるとネモはすぐに上に行ってしまった。

なるほど、今日はラノマも来ていたのか。


仕方がないので午後は厩舎のほうに遊びに行った。手伝いともいう。この島には何重もの壁があって、城から畑は壁の上を通るのが楽しいが少し遠い。

牛にブラシをかけていると畑のほうから呼ばれた。返事をしようと顔を上げると、遠く城のほうに二人が歩いている影がちらっと見えた。何を話しているかは知らない。多分難しい話。

さらに顔を上げると、一羽の大きな鳥が城の上あたりを高く飛んでいた。

もう一度呼ばれて返事をした。


夕食の後もラノマが来てネモは一緒に行ってしまった。

ぼくもネモと話したいことがあったんだけど、明日にするか。

ラノマは城に来たときほとんどヘムザかネモのどちらかといる。ネモとはなにかしらぼくの知らないかかわりがあるのか、いつも遅くまで話し込んでいる。ヘムザは恩があるらしい。それ以外は教えてくれない。廊下ですれ違うといつも下を向いたままで目も合わないが、大抵歩きながらなにかを呟いている。あまり優しい人には見えない。

話したことはない。話したいと思わない。


その夜は水の中を泳いでいる夢を見た。


もし生まれ変わるものを選べるのだったら。

何がいいかは決まらないけどいやなものならいくつか思いついた。

そのほうがよくない?

いいひとだもの

うん

タイトル思いつかないなっていい言葉ないかなって調べるまでまた知らなかったな

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