傾煙に揚骨
森の向こうの丘の上に城壁が見えてきた。
「結構遅くなっちゃいましたね」
後ろでエルが声をあげた。日は既に傾きつつある。
馬を連れているが積まれた荷物は少ない。
「そうだな」
森を避けて大きく回って、エーペの街に入った。
街に入ってから金を渡された。
「これは?」
「報酬です」
「護衛のならいらないが」
「受け取ってもらいますよ」
受け取ることになった。まあ働きはしたし、邑師なら正当な報酬だ。
宿を探すというエルと別れて署へ急いだ。
「あれ?なんか疲れてる?」
集会室で打ち合わせを済ませて皆を見送ってから食堂へ向かうとシャグがいた。
「そう見えるか」
「まあね。飯今から?」
「ああ。遅れたからな」
「腹減ってんじゃない?」
「まあな」
「他の人たちは?」
「今頃イルテラに向かっているはずだ」
「マホだけ来たんだ」
その後の雑談の話題は最近の物価やら後輩のやらかしやら特に意味のないものだった。
私が食べ終わるころシャグは呼ばれて出て行った。食堂にはほかに人がいなかった。
その後はシャワーを済ませて部屋に戻った。
疲れた。
ベッドに寝そべって天井を見上げる。
気が済んだら机に戻って書類に書き込む。枕元のメモを見つけてしまったから仕方ない。
終わらせてドアの前まで持っていってから電気を消す。
布団の中で目を閉じて今日一日を振り返る。
エルにはメファッコの門の前で声をかけられた。エーペまでの道を訊かれて、目的地が同じならと一緒に来た。邑師を探す手間が省けたと笑っていた。
旅人らしかった。白い外套のフードを被り顔全部を覆う仮面を着けていて顔はわからない。今は特にこれといった目的もなく旅をしていて、ディウフからフットゥ湖を回って南へ向かう途中だと語った。やけに博識なように見えたが、いろいろと質問もされたのでよくわからない。
メファッコを一緒に出発した他の二人と別れてすぐ、タガフがいたので回り道をしたらその先の道が倒木で塞がれていた。しかたなくさらに大きく道を外れて、そこを越えた後でウィウェントの群れに出くわしてしまった。普段なら苦戦する相手ではないが、簡単な武器しか持っていなかったのと、エルと馬を守りながらだったので思いのほか手こずってしまった。昼過ぎくらいにはこちらに着く予定だったのに、集会に遅れかけた。今夜の作戦に加わる皆は夕食を早めに済ませてしまっていたからシャグがいなければ食事も一人だった。
今日は疲れた。
翌朝、10時数分前に目が覚めた。まだ起きるには早かったが数分だけ二度寝するわけにもいかないので、着替えて顔を洗った。
カーテンを開けたとき、大きな音がして足もとが少し揺れた。
慌てて靴を履いて部屋を出て玄関へ向かう。
途中でスィムに会った。歩きながら話す。
「何があった。まさか」
「いえ。フフロンの件なら日の出前には移動を終えました」
外に出ると人が集まっている通りがあった。
「隊長!」
近づくと人だかりの中から衛師のモモが駆け寄ってきた。
「なにがあった」
「わからないんです。急に家が崩れたらしくて...」
見ると、確かに人ごみの真ん中で瓦礫の山ができている。壁も柱も原形をとどめていない。
「被害は?」
「歩行者に軽傷者が一人。幸い、中には誰もいなかったようです」
「そうか」
数度事務的なやり取りをしたあと、モモは調査のために戻っていった。
わからない。こんな例が今までにあっただろうか。
「フフロンは?」
今度はスィムに訊いた。
「向こうです。奥の通りをまっすぐ行った先の門の隣」
「見て来る」
「わかりました。私はいったん戻ります」
門を出た隣には大きな檻があった。隠されていて中は窺えない。
「マホ」
呼ばれて、見るとシャグがいた。
「早いじゃん」
「目が覚めた」
「珍しい。そういえばさっきの音は?」
「家が突然崩れた」
「大変だね」
「こっちはなにかあったか?」
「全然。ずっと静か。夜明けごろから交代したけど、昨日見たときから変わらない」
「さっきも?」
「ああ。念のためちらっとは確認したけど、まったく動かないんだ」
檻に目をやるが全くなんの音も聞こえない。
「...偶然なのか」
「...関係があると思う?」
「...わからないんだ。家が急に崩れるなんて話は聞いたことがない。...それにだが、さっきの家の様子は不自然な気がしたんだ」
「不自然」
「砕かれたような。残骸が全て小さな欠片になっていた」
「...」
「まだ調べる必要がある。...君はしばらくここにいるのか」
「うん。マホは?」
「とりあえずは戻る。向こうで何かわかったかもしれない。なければそれから考える」
こういう時のためにわざわざ来たわけだしな。
ふらついて壁に手をついた私に後ろから声がかけられる。
「大丈夫?...やっぱり疲れてるんじゃ」
「...ちがう」
「?」
「...いや、なんでもない」
もう止まった。気のせいだ。
「...そう?無理はしないでね」
「気をつける」
シャグと別れて門をくぐる。歩きだそうとして、人影を見つける。
厩舎はここにあったのか。
人影に近づいて声をかける。
「おはよう。エル」
振り向いた仮面は昨日見たものと違った。
「...」
「...エル、だよな?」
答えがないのでまさかその特徴的な服装で人違いをしたかと思った。
「...ああ、また会いましたね」
「なぜここに?」
「ポウェに会いに来たんです」
向き直ったエルの正面には昨日見た馬がいた。エルはポウェと呼ぶ。
「...遠くないか」
「君はどうしたんですか?」
黙っていると再び振り向かれて、今の質問が私へ向けられたものだったとわかる。
「...仕事で。外の魔物の様子を見に来たんだ」
「聞きましたけど昨夜この街に運ばれてきたらしいですね」
手に持っていた道具を近くの机に置いて駆け寄ってきた。
「ああ」
「時間あれば話してくれますか」
言いながら仮面を外して回す。
「...仕事だって言わなかったか」
仮面を着け直す。やはり一度も目は合わなかった。
ついてきたエルに今回の話をする。
「突然ですか」
「私は森で任務を終えたばかりだったんだ」
「任務って何ですか?」
「...軍のだよ。...それで突然連絡があった。魔物の生け捕りに成功したと」
「それで急遽駆け付けたというわけですか」
「本当は来なくてもいいといわれたんだがな」
近くにいた衛師から、状況からみて、何かが降ってきた可能性があるものの、誰も見たというものがいないと説明を受ける。
「結構古そうな建物でしたよね」
「見たのか」
「崩れる前と後でそれぞれ見ました。しかし魔物の生け捕りですか。過去の例は全て失敗していますよね」
「詳しいな」
作戦続行の結論に至ったと聞いた。
「...今回も予定にはなかった。討伐予定だった対象が突然動かなくなったんだ。この作戦自体が急ごしらえになるな」
しかし生け捕りにして研究できれば今までにない発見があるかもしれない。魔物については未だにわからないことだらけだ。
「何があるかわからないし、できる限りのことはしたくて私も予備の人員として駆け付けた」
「どうしてこの街なんですか?」
「ここには魔物の研究所がある」
「そういえばありますね」
角を曲がって振り返ると、エルは立ち止まっていた。
「...もういいのか?」
「ありがとうございます」
したい話は終わったらしく、背を向けて歩き出す。
「そういえば悪魔の話ってきいたことありますか?」
「...あるが。どうした急に」
「いえ、頭に浮かんだので」
「...は?」
作戦の続きの準備のために走る隊員がいた。
「では」
もう見えなかった。
「フフロンがなくなってる」
あーあ。
「...何がいけなかったんでしょう」
「日光に当てすぎたか」
次に同じことがあったときのために残せるものは残しておこう。
「檻は使えそうにないですね」
日暮れ前のエーペの街に轟音が響いた。
しっくりきたかも。下書きにあったのそのままだけど何がしっくりきたのか心当たりがない
羨ましいけどあちらにはあちらの問題があるんだろうな
没ネタとか要素が他と被ることはあるけどまさかモンスターハンターであのストーリーは予想外。匹々は個人的にゲームと被りかけることが多いかな。幸い本命はまだだけど。あれ被ったらさすがにまずい