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永遠の欠片  作者: 匹々
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回る功と皿

スーダ氏のは切れ目のわかりにくさの表現だけど、ミヤ氏のは気怠さの表現。地の文くらいは頑張ってもらう

休んでいると伝わって来た。

<今から始まるみたいですよ>

音ではない。聞こえるのは放課後の喧噪だけ。意志をもって返事をする。

<みえてるよ>

正確には見えてはいない。人間としての視界には入っていない。

でもおれには感じ取れている。競技場の一角のメオたちの存在が。

この感覚を説明する言葉はない。なにしろ本来人間にはないものだから。

<ここでいい>

返事はなかったが、伝わったらしい。

そっちは明るすぎて目が疲れる。


試合終了の合図の笛が鳴って、ゆっくり瞼を上げる。

おれは眩しいのが苦手だ。医者曰く、生きている人間に本来あるはずの機能が働いていないのだそう。こっちに来てからサングラスを着けるようになって多少はマシになったが。

メオたちが近づいてくる。これだけ長いこと一緒にいると、見なくても誰だかわかるようになった。

「おつかれ」

「ああ」

ルカとメオの2人はいつも通り。マホも笑ってはいたが常に見せているものとは種類が違った。


「なんでそこまで一番に拘るんでしょうね」

メオは俺のほうを向いていたが、前を歩いていたマホにも聞こえているだろう。

「…さあね」

おれに訊かないでほしい。わざわざ声に出したのは考えがあるのだろうか。

「何故だろうな」

マホが前を向いたまま言う。

「まだ人よりできて当たり前だと思っているのかもしれない」

「ごうまんだね」

「それに頭固いよね。負けたのにさ」

ルカの言葉選びは危うい。人を煽るようなやつじゃないし、悪気はないのだろうが、いつか失敗しそうだな。

「まったくだな。もし戦争中ならもう何度死んでいるかわからない」

そしてマホは本当のことを言われて怒るようなやつじゃない。自嘲を含ませて笑いながら、もう次の機会のことを考えているに違いない。

でも、この調子ならマホがルカに実技で勝つのは難しいだろう。

ただ勝敗に拘るだけならやりようはある。ルカの戦法は言ってしまえば力任せだ。割と何でもありな魔法戦、三位以下とは毎回大差をつけているマホなら、工夫次第で覆せない力量差でもない。

でもマホはそれをしない。ルカに対しては必ず正面から勝負を挑む。

「あるものは全部使うのも含めて勝負だと思うんですけどね」

「それでは勝っていない」

目標はルカを超えることだから。

「それに試験で小細工はしないだろう」

それと一緒にしていいのか。


歩いているうちに岐路に着いた。

「じゃあ、アタシはこれから映画見に行くから」

「ああいってたやつか」

「充実した一日ですね。後で感想聞かせてください」

「いずれまた再戦を申し込む」

「いつでも受けて立つよ。楽しみにしてる」

ルカが手を振って別れる。それに不敵な笑みを返したマホがこちらを向く。

「君はどう思う?」

「…こだわり?…はっきりいえばばかばかしい」

「ほう」

「やっぱりどうでもいい、かな。…おれにはりかいできないけど、マホにはマホなりの考えがあって、大じなんだろうなって」

「考え方は人それぞれですからね」

「そんなかんじでなっとくしてる。…いつまでつづけるのかとはおもうけど」

「勝つまでかな」

「かてるとおもってるの?」

「いつかは」

即答するマホの顔は、いつもと変わらず自信に溢れている。

「そうなったとしても、ルカは大して悔しがらないと思いますけど」

「悔しがってほしいわけじゃない」

「ほめてほしいの?」

「そうかもな。だが私自身より私を褒められる者はいない」

「ルカはたのしんでるらしいからいいけど」

「流石に私も人に迷惑をかけながら付き合わせたくはない」

「そうですか」

「ところで、ルカの言っていた映画とはなんのことだ?」

「『鬼目と妖溜は歯いらず』。特別に安く席確保できたらしいです」

「メオも見るのか?」

「いいえ」

「えいがみないからね。でもかんそうはきくんだ?」

「気になるので」

マホがよくわからないという顔をする。おれもわからない。

「メタネアでも少し話題になってたんですよ」

「そうなんだ」

「2人とも見ないんでしたっけ。わたしもたまにしか見ませんけど」

「おれはよくみる。でもそれははじめてしった。いつもおなじところしかみてないから」

「私はその類のインターネットは一切見ないようにしている。間違いがあまりにも多すぎるからな」

「わたしは帰ります」

「ああ。また明日」

メオが去る。ちなみにまっすぐ帰るならメオはルカの次の角で別れる。

「まちがいがおおいからみないの?」

「間違いを見つけると指摘せずにいられない」

「じかんのむだだね。ほうっておけばいいのに」

「それが出来ていれば世話はない。自分でも面倒だとは思うが、そういう性分でな」

「さがね。それでかな。まけたままできがすまないのも」

「話は変わるが、この後は暇か?」

「まあ」

「では図書館の前に来てくれ」

そう言って返事も待たずに先に帰ってしまった。

いつものことながら、せめて目的を言ってほしい。


結局来てしまうからいけないんだろうけど。

集合場所にはトィケもいた。本を広げている。

「何するの?」

「精霊のことについて教えてほしいことがあってな」

「じゅぎょうできになることでもあった?だから、なんでおれにきくの」

おれは魔学の授業もとっていない。魔法のことなど全くわからない。

「君にしかわからないことがあるだろう」

精霊とは何か。この世界の至る所にいる存在。

「ここにもそこにも」

おれと、メオの周りは少ない。あるいは小さい、薄い、弱い。おそらく人間どころか、生物の概念が通じない。人間が魔法を使うときに動く。

「おれがわかるのはこれくらい」

「私たちの試合を見てどう思った?」

「何をしてるのかすらよくわかってない」

「トィケ」

呼ばれたトィケが顔を上げて手を振る。マホの前で光が弾ける。

「ここしつない」

加減はしているだろうが。

「許可はとった」

「よくとれたな。なんていったらいいかな、マホのはながれかたがあんていしてるのはわかる」

「ほう?」

「まいかいおなじうごきをしてる」

「他は違うのか?」

「人によるけど。とくにルカなんかはよくブレてる」

マホとトィケが顔を見合わせる。

「どう?」

「我々の見解と一致する」

「は?」

「それくらいならわかる」

「おれにはそっちがどれだけのことをしってるのかわからないわけ」

「それはすまなかった。人間が魔法を使うとき、その想像に精霊は反応するらしい」

「そういうのはメオの方がくわしいんじゃない?きいたことないけど」

「メオも何かわかるんだっけ」

「そう。こっちにきてから、たまに何かきこえてくるようになったらしい。いみはよくわからないけど」

「そう」

「そういうとき、だいたい何かがおこるんだって。おれもにたようなことあるから、せいれいはながれにも反のうするのかもね」

「「…?」」

「わからないでしょ?おれたちにまほうのことがわからないのと同じ」

「はあ」

「もともとりかいできるものじゃないんだよ。考えるだけむだ」

ノートに書き込みながらトィケが難しい顔をする。

「…思ったより君たち2人って似てるのかも」

「そんなことないとおもうけど。それで、せいれいのことなんてしってどうするの?」

「参考になればと思ったんだけど」

「ああ、力になれなくてわるかったね」

「いや、協力に感謝する」

マホが考え込む。やはり現状に満足していないらしい。

「かちたいんだね」

「それはそうだ。今まで何のために努力してきたと思っている」

「…努力だって誰にでもできることじゃないと思うよ」

「だから偉いともならないだろう」

「ルカなんか、このまえがんばってろん文よもうとしてすぐやめてた。そのときなんていったとおもう?」

「さあ」

「ど力なんてなれないことするものじゃないね、って」

「…努力は慣れろよ」

「まったく同じこといった」

「彼女には少なくとも私と同じ努力は必要ないからな。努力自体は褒められることじゃない。どれだけ頑張ろうと、成果を残せなかったら全て無駄だ。大事なのは過程ではなく結果だよ」

「物語の結末だけ知ってもつまらないよ」

「おれよくさいごだけよむけど」

「それは書いた人に怒られろ」

「そういえば虎白の特集メファッコでやってるらしいよ。時間あったら行ってくれば?」

「おれが一人でまちのそとにでられないの忘れた?」

「今度予定が合ったら一緒に行こう」

「いつになるかな」


道路を横切って進みかけたマホが振り向いて、引き返す。トィケは渡り切ってから気づいた。

マホがおれと一緒に横断歩道へ向かいながら訊いてきた。

「いつも回っているのか?」

「そうだよ」

「それは悪かったな。だが、こんなところに車は来ないだろう」

「おきてっていうのは、まもるためにあるものなんだよ」

「勿論だ。私もそう育てられた。意味のある規律は守るよ」

横断歩道について二人で渡る。反対側で待っていたトィケの表情には呆れが含まれているように感じた。

「ちょっとあるけばいいだけなのに、そんなにいそいでるわけじゃないんだし」

「もっともだ」

「はしるなっていわれてるかいだんをかけおりたり、あかしんごうをはしったり、あるきながらタダをつかったり。みんなはぶくところをまちがえてるとおもう」

「君は面倒臭がりのわりにそういうところは真面目なんだな」

「まじめなのかな。でも、これでおれはやるべきことをやってる。やるべきことすらやってないやつらをバカにできる」

「バカにしたいのか?」

「そうかも。だから、べつにおまえらにもまってほしいわけじゃなかった」

「そうはいかない。それでは人に説教する資格がない。改めて考えるともっともだ」

マホはこれからそうするだろうな。おれにバカにされないために。未だにバカにする隙を見せないのは大したものだ。


トィケが別れる。

「そうだ。てんきもいいし、きねんに写しんとろうよ」

「駄目だ。それより訊きたいことがある」

「何?」

「あのときメオとは何を話していたんだ?」

「ばれてたか」

「間の開け方が不自然だった。君は基本的に答えるのが早いからな。前も同じことを言ったと思うが」

「そうだ。内しょばなしのときに不しぜんになってさとられないように、いつも反のうをおくらせようとおもったんだ。わすれてた」

普段から深く考えていないから。

「あやまるけど、でもあれ、みみふさぐこともできないんだよ?」

「気持ちはわかる。内容は?」

「大したことじゃない。いろのはなし。あ、しつもんのこたえはおれの正じきなかんそうだよ」

「会話と関係ないことを話していたわけか。普通に話せばいいだろうに」

「メオはたまにいみもなくああいうことするよ。たまにかげ口もいうよ。かげ口ってひどいよね。なんでほん人にちょくせついわないんだろうね。おれああいうのすきになれないや」

「色というのは?」

「『ツァメイレのクビキ』わかる?」

「いや」

「メオのよんでる小せつでね、人のたましいのいろのはなしがでてくるの。それにあてはめて、みんなは何いろなんだろうって」

「なるほど」

「わからなかった。とくにしってる人ほど。よくしらない人ならいんしょうできめちゃえるけど」

「そうだろうな」

「しらないそくめんをしるたびに、あたらしいいろがまざる。同じいろでまとめるなんてできない」

マホは頷く。

「傾向はあるだろうが、小説に出てくるような単色で括ってしまえる人間となると、現実にはいないからな」

「マホはかぎりなくだいだいにちかいね」

「橙は好きだよ。君はあまり私のことを見ていないんだな」

「まぶしいんだもん」

「面と向かってなら何を言っても許されるとでも?」

ミヤ氏がマホ氏にカメラを向けたときの会話。

「向けるのもやめてくれ」

「やめろっていうならやめるけど。べつにへるものでもなくない?」

「心がすり減る」

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