これで最後だから
首に手が触れた。
振り返らなくてもわかる。わたしに気づかれずにそんなことができる人はほとんどいない。
目を瞑る。
「…まだ?」
「…」
その姿勢のまま背中越しに問いを投げるが、返事はない。
こっそり窺っても、背後のスーダはいつも通り感情の読み取れない表情をしていた。
「何をしに来たの?」
正面を向いたまま再び問う。
「脅しなら時間の無駄よ」
「…どうして」
彼の話し方は苦手だ。抑揚がない上、途中で切るせいで重要な部分が欠けることも多く、こちらが察するしかない。
「お話しに来たの?」
「りゆうを」
わたしが裏切ったと知って、その理由を知るためにここまで一人で来たのだろうか。
「聞いてどうするの。まさかとは思うけど、説得する気じゃないでしょうね」
「セリの」
「ところで、なんであなたは力を使えるのかしら」
スーダは僅かに眉を寄せた。意味が分かっていないらしい。最初から影響を受けなかったのか。それが何を意味するのかわたしは知らない。
「ねがいは」
考えて、わたしは息を吐く。
既に勝負はついている。向こうにその意思があれば、今わたしの体は形を保っていない。
「消えてほしいやつがいるの」
これを誰かに話すのは初めてだ。
「…」
「それが理由」
「それだけの」
「そう。たったそれだけ。世界を巻き込んででも叶えたい願いなの」
「ころせば」
「いくらわたしでも無理ね。あなたにもできないことはあるでしょ」
「…」
「…本音を言えば今すぐにでも死んでほしいくらいなんだけどね。ただ死なれるだけだと、迷惑だから」
「だれに」
一瞬だけ、スーダが目を逸らした。
わたしは、その質問とは関係のない、この考えのきっかけを思い出した。
「誰だと思う?」
言いながら、昔わたしに語ってくれたある人の声を思い出す。わたしに世界を教えてくれたあの人の。名前も思い出せないあの人の。
決着は一瞬でついた。
顔の真ん中を貫かれながら、スーダは生きていた。鮮血を散らしながら、その真っ赤な手はわたしに触れたままだった。
要するにわたしは賭けに負けた。
何も感じなかった。体中の痛覚は何も訴えてこなかった。スーダの力は苦痛のない死をもたらすことを初めて知った。
スーダが今際の際に味わった苦痛をわたしは想像できない。わたしはそれを知ることなく終わる。これがわたしに相応しい最期かどうかもわからない。
わたしは久しぶりに、本来人間にある二つの目を開ける。
何も見えなかった。
脳裏を埋めたのは貫いた瞬間の血の赤。その色と感触を思い出して、嫌悪を覚えて、そのことに安心して、意識を失った。
書き始める。途中で思い直して没。この繰り返し




