表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の欠片  作者: 匹々
17/21

軌途望轍

ニヒツには鉄道が通っていない。俺は基本的に船を使う。

「…なんでついてきた」

何故か今回勝手についてきたやつがいる。

「だってほかにどこに行けっていうのさ」

「学校は?」

「やめちゃった」

「は?」

「言ったでしょ?アタシ狩人になりたいの」

頭に赤いバンダナを巻いたルカは朗らかに笑う。


最初に会ったのは一週間前。イルテラへ行くときに一緒になった。それだけ。

常に何かを喋っているようなやつで、今学校が休みだとか狩人になりたいとか言っていた気がする。そして話の流れで、俺はこれからニヒツに帰る予定だと言ってしまった。次から気をつけよう。ここまで足が軽いやつがそういるとは思えないが。


船は一応公式で金を払えば乗ることは出来る。使う者はほとんどいないが。今回も船員と俺のほかはルカだけだった。

乗船を断ることは出来なかった。


弁当を食べているとルカが走って来た。

「この船は定期的に荷物を運んできてるんだっけ?」

「そう。…あんまり走り回るなよ」

「アタシ海で船ってほとんど乗ったことないなあ。レタも船に乗れるの?」

「ああ。ニヒツは船に乗れないと生きていけないからな」

「ほとんど島なんだっけ?」

「そう」

ルカが俺の弁当を覗き込む。

「どうした?」

「おいしそうだなと思って」

「そうでもない。お前自分のは?」

「…そういえばこれいつつくんだっけ?」

「明後日の夜」

「…足りない」

もうちょっと下調べとかするものじゃないのか。

俺は荷物から箱を出してルカに差し出す。

「これやるよ」

「…携帯食料じゃん」

「非常食だよ」

「食べたことあるよこれ」

意外だった。何があって学生がこれを食べることになったんだろう。

簡単に言うと携帯性全振り。まさに非常食。

「ジャムとかない?」

「ない」


二日後の朝、弓の手入れを終えたとき、船が揺れた。

外を見るとバンヨネが顔を出していた。珍しい。

「レタ!」

上から船員が呼んだ。俺がいるのはこういう時のためだ。

弓を掴んで上る。

「アタシも行く!」

後ろからルカがついてきた。

「落ちるなよ」

甲板に上がってさっき見えた右舷側を見る。

見つけた。船体は頑丈にできていて傷はつかないが、放っておくわけにも行かない。

弓を構えて狙いをつける。

船が大きく揺れた。

「上!」

態勢を崩した俺の頭上からツェフェンゴが迫っていた。咄嗟に身を捻る。

空を切ったその足をルカが横から叩き落した。

「…もう一体いる」

手すりからバンヨネの鼻先が見えた。

「多分後ろ」

「わかった。そいつは任せた」

船尾側を見下ろすと、もう一体バンヨネがいた。

頭突きをしようと頭を下げた瞬間を狙って射ち落とした。

「お疲れ」

ルカが来た。甲板の手すりから海を見下ろす。

「さっきは助かった」

「いいよ。弓が使えるといいね。アタシだと向こうが上がってこないと届かないもん」

ルカは双剣を使う。組合でも双剣を使うものはいなかった。弓もだが。

「俺はこれくらいしか使えないんだ」

「アタシもだよ。他はからっきし」

前回もどうせなら邑師として稼ごうかとも思って、やめておいたのだ。結果的に正解だった。

ルカは学校の魔法科で特生をとったと話していた。詳しくはないが、もっと誇れることだと思う。

「お前、実戦経験もあるって言ってたな」

「そうだけど」

「…なんでだよ」

少なくともニヒツの学校でそこまですることはない。

「皆がそうじゃないだろうけど。アタシ、家が魔物多いところだったから」

船員たちが戻っていいと言ってくれた。

「戦闘員はいないの?」

「皆ある程度なら戦えるし、最悪この船が全速力を出せば大抵の魔物は振り切れる。今回は俺がいたから、任せてもらった」

「へえ」

突然ルカが座り込む。

「どうした?」

「…お腹すいちゃった」

「耐えろ。というかなんで予定に合わせて持ってこない」

「鬼畜ぅ」


夜、到着して初めに俺は近くの小屋に向かった。

「レタ、おかえり」

「久しぶりだな。すまないが飯を用意してくれないか。俺が食われる前に」

「…まあ後で聞くか。簡単なものでよければ」

ルカの死にかけの顔はセツの用意した飯を前にして輝いた。

いつの間にか仲良くなっていた船員たちにおかずを少しずつ分けてもらって到着まで凌いでいた。仕方がないから俺も少し分けてやった。やはり足りなかったらしい。

「生き返ったあ」

「うちの倉が空になる…」

「…普段そんなに食わないだろ。なんで今日に限ってそんな食うんだ」

俺より若干多い程度。ちなみに俺はよく小食と言われる。

「悪いね。お腹空いちゃって」

この時間にやっている食堂はここにはない。


布団を貸したらすぐに寝て、翌朝、嘘のように元気になったルカは当然のように朝食を食べた。

「よく食えるな」

「一日三食は欠かさない主義なんだよ」

「ならもっと計画性を持て」

「ニヒツは初めて来た!」

「一人で来ようと思うとなかなか大変だからな」

「今日は何するの?」

「特に予定はない。せっかくだから釣りにでも行こうか」

「釣り?アタシ釣り苦手なんだよ」

わかってて言った。船の上で走り回るやつは絶対に向いてない。

「やったことあるのか?」

「昔ね」

話しているとセツが台所から来て、持っていた袋を置いた。

「収穫、手伝って来たら?」

そう言ってまた台所に戻る。

「そうしようか」

ルカを連れて小屋を出た。

「ごちそうさまでした!」


緩やかな斜面を上りながらルカが訊いてきた。

「そういえば、ニヒツは変わった魔物がいるって聞いたことあるんだけど、本当?」

「そうかもな。まあこのあたりでは見かけない」

上りきる。

「着いたぞ」

「おお」

ニヒツにはあまり土地がない。農業ができる土地はほとんどない。

「これは?」

「イネじゃない。ムギでもない」

「バカにしてる?」

「お嬢様は違いなんてわからないか」

「やっぱりバカにしてるね」

途中にカクとヒョウがいた。

「こんにちは!」

ルカの挨拶は無駄に勢いがある。俺はいつの間にか慣れてしまったが、初対面であれはだいぶ驚く。

小屋に道具を取りに行く。

「そういえばレタ、きょうだいいるって言ってたっけ?」

言ったのか。言ったんだろうな。

「いるよ。さっきのヒョウと、あとうちのセツ」

「…」

何故黙る。

「いやあ、アタシは一人っ子だから、きょうだいいるのいいなあと思って」

「ああ」

「もしかして、年齢離れてる?」

「そうだな」

「へえ、珍しい」

そうかもしれない。きょうだいは同時に生まれたものが多い。

「今夜はヒョウも一緒かな」

振り返ってルカに袋を渡す。

「飯食った分は働いてもらうぞ」

「了解!」

無駄にいい返事だ。


休憩中。

「カツイ?」

「成長は早く病気にも虫にも悪天候にも強く栄養価も高く、このニヒツの環境でも十分な量が穫れる」

「すごいじゃん」

「もとはこの地域に自生してたらしい」

「ほかのところには広まらなかったの?あでも、ニヒツって貿易あまりしてこなかったんだっけ」

「それもある」

そこですでに取ってあったものを取り出した。

「食ってみるか?」

「いいの?」

「米と同じように炊いて握り飯にした」

「いただきます」

受け取るとかぶりつく。わかりやすく顔を顰める。

「…不味い」

「逆によく飲みこめたなそれ。唯一の欠点が不味いこと」

ルカは水筒の水を飲む。かなり渋くて苦味もある。なんでも美味しいというルカでも流石に駄目だったらしい。

「飢えてなければ誰も食べなかったかもしれない」

ニヒツに人間が来たのは戦争の後。きっとほかの食料は十分になかった。子どもに食べさせるのは大変だっただろうな。

「先に言ってよ。ていうかなんで食べさせるんだよ」

「なにごとも経験だろ」

「いやがらせだっ」

何を隠そう、握り飯はわざわざそのためだけに作った。

「で、品種改良で味をどうにかするのは難しかった」

「なんで諦めたんだよ大事でしょ。じゃあ食べ方?」

「そう。最初はどうしていたのか知らないけど、どうにか食べれるように時間をかけて研究した。乾かしたり水につけたり粉にしたり麺にしたり煮たり蒸したりいろいろ試した」

「めっちゃやってるな」

もうひとつ塊を取り出す。

「これは?」

「研究の末に辿り着いたやり方。ペタクノで包んで火を通すことでえぐみや渋みがとれる。今では様々な調理法があるが、基本はこれだ」

「手がかかるね」

「まあな。食うか?」

「…いいの?」

「もちろん」

受け取ったそれに気持ち控えめにかぶりつく。

「ん!」

あっという間に平らげやがった。

「うん。美味しい。本当にさっきのと同じやつ?」

「ああ、ここに辿り着くまでにどれだけの犠牲があったのかと思うと泣ける」

「…」


ヒョウと小屋に戻ると、先に帰っていたルカが台所でセツを手伝っていた。

「お、できたよ」

「上手いな」

「へへん。この魚は?」

「チュベナ。だいたいいつでも釣れるけど、この時期のは脂がのってて美味い」

「いてっ」

「あ」

指を見て、セツを見る。

「…あじゃない」

「なぜかはわからないけど顎に棘が出てるやつがいるんだよ」

ごくまれにいるのだ。雌雄というわけでもなく、何故かは未だに謎。

「先に言ってよ」

「ほとんど見ないしルカなら当たることはないかなって」

「嘘だね絶対忘れてたでしょ」

ルカが今更こちらに気づく。

「あ、おかえり」

「ただいま。ルカは器用に見えるかもしれないけど、見えるだけだぞ」

「失礼な」

俺が言うとルカが抗議した。その隣でセツは真顔で頷く。

「知ってる」

「…」

「私がさっき言ったのは、確率の話。ルカはさっき三連続で調味料の棚を当ててみせた。幸運が味方してる」

この短時間でセツと打ち解けてる…。

2人とヒョウに夕食の準備を任せて俺は書類を持って出かけた。


夕食の時間、おつかいに行っていたルカが帰って来た。

「お邪魔するよー」

一人じゃなかった。

「久しぶり、レタ」

「…ヒナ、悪いけど今日は無理だ」

「わかってるよ。あたしこれから予定あるし。でも明日から帰っちゃうんでしょ?少しだけいさせて?お菓子持ってきたから」

「明日から移動なの?」

食卓についたルカが訊くとヒョウが答える。

「もうすぐ竹狩が始まるから、それの手伝いに行かないとなんだ」

「聞いてないんだけど」

それを聞いたセツが俺に非難の目を向ける。

「お前は押し掛けた側」

俺が言うとヒナもルカを見る。持ってきた飲み物を飲んでいる。

「なんならそっち行ったところに宿があるよ。ほとんど使われてないけど、寝るだけならできると思う」

黙っておとなしく夕食を食べようとしたルカが顔を上げる。

「…ここって家じゃないんだっけ?」

「そうだよ。家は北。ここはこの島にいるときに使ってる仮屋」

「ヒョウが昨日いなかったのって?」

「船関係でちょっとね」

一度ルカが目を閉じる。

「アンタたちって、もしかして忙しかったりする?」

俺以外の3人が一斉に目を逸らしたせいでルカの目が俺に向く。

「今気づいたのか」

「今朝予定ないって言った!」

ヒナがなにやら頷いていた。なににだ。

そのとき、家の戸が叩かれた。

ヒナが笑みを引っ込めて戸を開ける。

「はーい」

「テンション低いな」

少しやり取りをしてこちらに向き直る。無表情のまま。

「帰る」

「国を出る前に寄るよ」

俺がそう言うと若干表情を取り戻す。

「ぜったいだよー?」

それからルカに向かって笑いかけて去って行った。

ルカはいつの間にか食べ終えていた。

「…アンタたちもなんだけどさ、ヒナって何者なの?」

「「…」」

「一緒に帰ってくるときもいろいろ声かけられてたっけ」

どう説明すれば混乱させずに済むだろうか。

「…。俺の幼馴染で」

「今の裕王」

ヒョウが口にしたのは俺が真っ先に捨てた説明。案の定ルカは何もわかっていない顔をしている。

「???」

「…正しくは仮だ」

「もとはね。本来の候補者が行方不明になって、見つかるまでのはずだったんだけど」

補足してもますます悪化している気がする。ニヒツの根本的な仕組みからだろうか。

「…よくわからないけど、ニヒツってこんな感じなの?」

こんな感じというのが何を指すのか何を指しているのかわからなかったが、俺たちは顔を見合わせて頷いた。この国がいろいろと変わっているのは事実だろう。ルカは何故か納得した様子だった。


国を出る日、約束通りヒナを訪ねた。

「改めて、おかえり。レタ」

「ただいま。もう出るけどな」

「次は葬香帰っておいでよ」

「土産すら買ってこれないな。新年は帰って来るよ」

「遠いなー。そうだ、竜でも出れば狩人さんは帰って来ざるを得ないかな」

「そのときは逃げる。死にたくないからな」

「祖国を見捨てるとは薄情だねー」

「不謹慎な国主さまに言われたくない。せめて国を出る方向で考えろ」


船の上でルカが後ろに向かって手を振り返す。

「また来てねー」

ヒナとも学校の話なんかで盛り上がっていた。思い返せば、ルカは人との距離を詰めるのが上手かった。俺には真似できない。

「ねえ」

しばらく手を振っていたルカがこちらを見る。

「レタはなんで狩人になったの?」

「俺はもともと国を出て旅をしたかった。旅をしながら、俺にもできる仕事というと、これくらいだった」

ルカが波跡を見る。それから口を開く。

「ヒナは?」

俺は陸地側を見る。

「…昔から旅が好きだった。今回行かなかったけど、ニヒツには島がある。二人でそれを巡ったり、あとは少しだけ、オズファにも行ってみたりな。いずれは世界を周ってみたいって言ってた」

今、仮にも王の地位を得たヒナはそう簡単に国を出るわけにいかない。

「この国は、新しい国なんだ。仕組みも不十分。王に――まとめ役になろうという者がいない。その中で、適当な理由で押し付けられた役目を、軽い気持ちで引き受けたヒナにも非がある」

「…元の候補が行方不明になったんだっけ」

「ヒナの従兄だ。もう随分経つ」

ネモに何があったのかは未だにわかっていない。ヒナ自身が諦めている。

「見つかるまで、でしょ?」

「ああ。見つかるまでの代理なら引き受けるって」

そのときは軽い気持ちだったとしても。ヒナはああ見えて真面目なのだ。

俺が迎えに来ると約束をしたのもそのときだったか。

「見つかるといいね」

「…それはそうだけど」

「アタシも旅は好き」

穏やかな声に、振り向いてルカを見る。

「いつかいっしょに行けたらいいな」


「それで、これからどうするの?」

「お前ずっとついてくる気なのか?」

ルカは神妙な面持ちになる。

「それもいいかも」

「?」

「狩人になりたい」

それはもう聞いた。

「だから連れて行って」

唐突だ。だが全く予想していなかったわけでもない。そしてどこかで期待してもいた。

「…そろそろ今の組合を抜けようと思ってたんだ」

「なんで?狩人辞めちゃうの?」

「いや」

組合は有利なこともあるがやりかたが俺には合わなかった。

「これからは個人で活動する」

「…フリーになるってこと?」

「そう。だけど一人だと不安だったんだ」

協会の保護は受けにくくなるし、もし失敗したときは痛手になる。

ルカの顔が驚きから喜びに変わる。それから目を細めた挑発顔になる。表情が忙しい。

「ふぅん。そんなにアタシの腕を買ってくれてるんだ?」

それもまあ間違ってはいないからそういうことでいいか。この短期間で魔物討伐におけるルカの頼もしさはよくわかった。俺弓だし。

「じゃあ、これからよろしく、相棒」

いつもの笑顔になる。

ただしルカがお腹空いたと言ったら要注意。これは覚えておこう。

だいたいオズファ側で活動していたのが、今回は出張でボーアまで。優秀だから

ちなみに二人の関係を「殺されても文句言えないようなことしてるしされてる」と最初に言ったのはルカ。出会った次の日だったかな

「その服装暑くないの」「そっちこそ寒くないの」のやり取りはわりと最初から

夕食はチュベナの蝶番

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ