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永遠の欠片  作者: 匹々
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矜持の薄街灯

この寒気には覚えがある。私は死ぬのだなと思ったことを覚えている。これでは寝られない。毎度のことながらこちらの身にもなってほしい。

野宿の寝床を出る。火は既に残っていなかった。今夜は月のおかげで歩ける程度の明るさはある。

風が懐かしい音を運んでくる。夜の平原を微かな笛の音を目指して歩く。昼間に通った道を戻って橋を渡る。

丘の上の石の集まりは古い遺跡だ。そのまだ原形をとどめている箇所の中央に、石畳の広場のようになっている場所がある。その隅に白い外套を身にまとった人影がある。笛を奏でていた。

曲が終わり、笛を離す。瞼が控えめに上がり、開ききる前に止まった。

横から声が聞こえる。

「笛だと印象変わりますね」

私は笛の曲だと思っていた。笛以外で聴いたことがない。

隣の倒れた柱の上に声の主を見つけた。高い位置に腰かけた真っ白な外套、仮面を着けた顔はやはりこちらには向いていない。

「どこでそれを?」

尋ねても答えはない。聞こえなかったはずはない。

彼女は答えたくない質問には答えない。

「眠れないんですか?」

「…まあな」

「少し話しますか?」

「さっきの曲はどこで知ったんだ?」

「今日は一人なんですか?」

再び無視。わかってはいたが同じ質問は無駄だ。

私がその質問を無視しても気にした様子はなかった。


「君のことだよ。いつも見透かされている感覚がする」

そういうと首を傾ける。

「そうですか?」

「自覚がないのか?今だってなぜ私たちがここにいることを知っている?他の人間の動きを常に把握しているのなんて君くらいだろう」

今度は顎に手を当てる。沈黙も黙考とは限らない。私には、返事があるかないかは返ってくるまでわからない。どれだけ数撃とうが当たらないときは当たらない。

「ああ」

しばらくの沈黙の後で芝居がかった動作で手を打つ。仮面を外す。

「勘です」

「…勘でなんでも解決しようとするやつは嫌いだよ」

「自分は結構外しますよ。調子の悪い時なんかは全然当たりません」

見上げると、エルはほとんど目を閉じていた。顔は遠くに向けたまま、口元には薄い笑みが浮かんでいるように見えた。普段のイメージからそう見えただけで、気のせいかもしれない。

「…外してこれなのか」

またしばらく黙る。その間に月が雲で隠れて暗くなる。

「手数の問題じゃないですか?」

黙っていると声が降ってくる。

「…?」

「自分はほかに方法を知らないので、わからないとき、確証を持てないときは思いついたことをとにかく試しています」

「…」

「例えば君達の居場所を探して、試したそのうちに正解があったとき、君達にとっては居場所を当てられたことになります」

私とエルの間には圧倒的な手数の差がある。そう考えれば納得はできる。

「…君が外したことを知らなければ、行動を読まれていると思うだろうな」

「裏側は知りようがないですから」

月明かりが射す。エルはまた目を細めていた。

「…なるほどな」

確かに、全てを知ることなどできない。知らないところであったことは知らないまま、知ることのできる限りから想像するしかない。

「ああ、あと、勘でなんでも解決しようとするっていうの、本人には言わないほうが良いですよ」

こちらを見てすらいない彼女に、私の動揺は伝わっただろうか。

あらゆるものごとには理由があるという言葉を思い出した。

エルも、私が知っている面とは違う側面もあるかもしれない。今回のように相手が見せてくれるか、知っている誰かに教えてもらうかしない限り、その面を私は知らないままだ。信じるかどうかは別問題になるが。

エルが仮面を着けなおす。

黙っていたイースが笛を構える。聞こえてきたのはさっきとは違う曲だ。


「いい曲ですね」

曲が終わってからエルは呟く。さらに古い、たしか祭の曲だ。誰がいつ作ったのかも知らない。同意する代わりに、さっきは言い忘れた言葉を伝える。

「なかなか上手いな」

イースがそんな言葉を受けて何を思うのかは知らない。何とも思わないと思うし、教えてくれないと思うのは私が知っている印象から想像したものだ。

単純に伝えたい言葉を伝えた私に、エルは一瞥もくれないままどこへ向けてでもなく呟く。

「真実なんて簡単なものじゃないですから」


寝床に戻った私は静かに眠りにつく。

きっと悪夢は見ずに済んだ。ずっと昔の夢を見ていた気がする。

翌朝目覚めて辺りを見回して、メオのことを言えないなと思った。

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