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永遠の欠片  作者: 匹々
12/21

新緑に咬まれた直眼

すぐ後ろで足音がする。連中は追ってきている。

森の中は足場が不安定で走りづらい。後ろを振り向く余裕はない。

頭上から垂れた蔦をくぐって躓きかけたとき、追手の唸り声が耳障りな悲鳴に変わった。

思わず振り返ると、先頭のブクヘンが藻掻いている。細長い葉が顔に張り付いている。

そのほんの目と鼻の先にわたしがいる。

とにかく逃げようと体を起こしたとき、目の前を何かが横切った。後ろで足をとられたブクヘンの群れが地団駄を踏むのが見えた。

顔を上げると目が合った。

小さな二つの目が少し上から見下ろしていた。助けられたのだとわかった。

【あなたは?】

問うと、驚きを含んだ一瞬の沈黙の後、伝わってきた。

【こっち】

地面に飛び降り、さっき進もうとしていた方と逆側に駆けていく尻尾を、背後から唸り声が聞こえて慌てて追った。

夢中で走っているとそのうち後ろの声が遠ざかった。振り返ると、群れが少し後ろで立ち止まっている。威嚇してくるが、前に進もうとしない。

【...ここは?】

再び見つけた小さな目に向かって問う。リスに似ているが少し大きいし耳が長い。シロルだ。

【あいつらは黄色に近づけない】

見上げると大きなディナロの木が枝を広げていた。

【でもじきに別のやつらが来る。もっと安全なところに行かないと】

長い毛の生えた耳が動く。

【走れる?】

【うん】

【じゃあついてきて】

すぐに走り出したそのあとを、揺れる尻尾を目印に蹤いて行った。


先には小さな洞があった。周りはディナロに囲まれているうえ、入り口は葉で覆われている。

おかげで久しぶりに休むことができた。

【助かった】

【きみは誰?どうしてこんなところにいるの?】

明かりをつけると内側は意外と広いことが分かった。横で、その生き物は耳を揺らす。

【村が魔物に襲われて、逃げているうちに迷った】

【へえ。傷もそのときの?】

【うん】

背中と、顎の下にも新しい傷がある。かろうじて止血は済ませたがまだかなり痛む。

【その位置にそれだけ深い傷がつくような状況で、よく助かったね】

たしかに顎の傷は正面からつけられた。わかっていたのに体が動かなかった。

【運がよかった。あなたにも助けてもらえなかったら命はなかったと思う】

【だろうね】

【あなたは?どうして助けてくれたの?】

動きに合わせて尻尾も揺れる。

【ぼくのことはいいよ。最初はなんとなく助けて、そのあとは、なんだろう、知りたいと思ったからかな】

どうやらうまくはわかっていないらしい。最初は気まぐれで、そのあとは。

黒い瞳がこちらを向く。

【きみはどうして交わせるの?】

【...わたしもわからない。生まれたときからそう】

【へえ。ところで、お腹減ってる?】

【うん】

答えを思ったまま伝えると、外へ出て行こうとするのを呼び止める。

【ねえ】

【なに?】

【あなたのこと、クルタンって呼んでもいい?】

【いいよ好きにして】

彼らと違って人間は相手を認識するのに名前が必要だ。


しばらくして戻ってきたとき、木の実と、それから薬草を持ってきてくれた。

【...ありがとう】

【礼ならいいよ。ぼくにはぼくの考えがある。...それで、これからどうするの?】

これから。作業しながら考えて答える。

【この森を出たい。もう少し傷がよくなってからだけど】

この空森は大陸の北西。元居た場所に戻るのなら東だが逃げる間にずいぶん遠ざかってしまっただろう。今どこにいるのかもよくわからない。

【あなたは、ほかの人間に会ったことってある?】

【遠くから見たことはある。森に来ることはほとんどないし、入っても出られないけど。...そうだな。やっぱり出るまでは案内していこう】

【...どうしてそこまで?】

クルタンは首を傾げる。

【言ったでしょ。知りたいと思ったんだ。こんなこと二度とないだろうし】

シロルはたしか、決まった棲み処をもたず、森の中を移動しながら暮らす、この森では変わった生態の生き物だ。

【ここから向こうにまっすぐ進めたら人間の道に着く。楽ではないけど】

指したのは、おそらく南東。

【わかった】

ここまでするほど興味を持った理由は、やはりわたしの能力だろう。この生まれつきの不思議な力がなければ、まずクルタンと意志の疎通すらできなかった。


それから1日経った。

野生に生きる獣のほうが、当然人間より危険に敏い。

クルタンに助けられながら森の中を進んだ。

手の届く範囲から集めたほかにはろくな水も食料もなく、周りには魔物がうようよいる。クルタンは驚くほど魔物の忌を知っていた。

【動物は魔物に興味がないものだと思ってた】

魔物は人間にとっての脅威で、人間とその家畜以外の生き物は魔物と関わらない。

【ぼくが変わってるのかもね】

魔物を避けたり、たまに追われたりしたから、まっすぐは進めなかった。

【...今更だけど、そんなに目立って大丈夫なの?】

逆に彼らは生態系の中で生きている。シロルを狩る獣もいる。クルタンはわたしが進みやすいようにわざわざ隠れるところの少ない道を選んでいる。

目が少し細くなるのは、人間でいう笑顔なのかもしれない。

【人間が近くにいるとよってこないんだよ。それにぼくは足が速いし】

野生の動物のほうから人間に近づいて来ることはほとんどない。やはりクルタンは変わっているのかもしれない。

クルタン以外だったら助けなかったし、わたし以外だったら助けられなかった。


日が傾き始めたころ。

【たしかもうすぐ】

伝わったのはそれだけだった。

クルタンが動きを止めた。

その音はときどき聞こえていた。右左の両側に、わたしたちと同じ速さで進んでいた。

わざわざ選ばれた道だけあって、すぐ近くにディナロはあった。だからわたしにはクルタンが止まった理由がわからなかった。

【違う】

クルタンがこちらを向く。

【走って!】

問い返す前に駆け出した。背後から聞こえたのはおそらくアーデントの声だ。

【そのまままっすぐ!黄色のあるほう!】

ディナロはアーデントを退けないが、ディナロから離れればほかの魔物が集まってくるだろう。幸いアーデントはブクヘンほど速くない。だから獲物を群れで囲もうとする。まだ包囲が完成していなかった。

背後で耳障りな悲鳴が上がる。クルタンが足止めをしてくれている。だが長くは持たないだろう。

走っているうちに周りにディナロがなくなった。

【こっち!】

立ち止まったわたしを追い抜いてクルタンが走っていく。そのあとを必死で追う。

森の中で木々の連なりが途切れた箇所だった。ブクヘンが吠える声が加わる。頭上が開けると、空から羽ばたく音も聞こえた。

今までと違って全力で走るクルタンは、洞窟を見つけて向きを変える。彼が駆け込んだそこに後から転がり込むとすぐ後ろで勢い余って魔物どうしがぶつかる。近くの石でかろうじて侵入を阻止すると、まだしばらく唸り声がしていたが、しだいに遠ざかって行った。

そこでようやく息をつくことができた。鼓動は落ち着かない。

子供がようやく通れる程度の狭い入り口のわりに、洞窟の中は意外と広いらしかった。

【...タカに見つかるかと思った】

クルタンには無理をさせたことを謝った。

せきこんで、何度か深呼吸をした。

「だれかいるの?」

突然岩の向こうから声が聞こえた。人間の声だった。

【先客がいる】

「...はい」

答えて、岩の向こう側を見る。暗くて何も見えないが、どうやらさらに奥の空間があるらしい。

「こっちにきなよ。そこはこわいでしょ」

一瞬クルタンのほうを見て、岩の周りを探ると、確かに奥へと続く隙間があった。暗いそこを注意深く進むと、少し足音の響き方が変わったのがわかった。

クルタンはついてこなかった。

相手の声は足下から聞こえたので、寝そべっていることはわかった。

「...ところで、なにかたべるものもってない?」

「いえ」

「そう」

かすかに身動きする音が聞こえる。

「あのこはなに?」

声の向きからしておそらくクルタンのことだろうが、この暗い中で見えるものだろうか。

「...途中で会って助けてもらいました」

「たすけて?へえ。...ところでくらくないの?」

「...暗いですね」

「あかり、つけなよ」

自分でつければいいのに、と思いながら灯りをつける。

相手の様子はわたしとそう変わらなかった。治りかけの傷や痣が全身にあり、服もあちこちが破れている。

聞きたいことはいくつかあったが、その前に手を出された。受け取ると、小さな植物の根だった。名前は知らない。

「やっとみつけたんだ。これがあればしばらくそとにでられるはず。水と、ちかくに、きのみでもあったらとってきてくれない?」

わたしは入り口のそばで待っていたクルタンの助けも借りながら、言われた通りにした。


「おれはミヤ。おまえのことはなんてよべばいい?」

「メオです。いつからここにいるんですか?」

「わかんないけど、たぶんはんにちはいた」

「そのあいだは何も食べずに?」

「さいしょはいちおうとってきたものがあったんだけど、そとにでられなくて。だからこれがひさびさ」

「...今更ですけど洞窟の中で火って使ってもいいんですか」

「ここ、ずっとうえのほうだけど、あとここのいしのわきにも、ちいさいあながあるんだ。かぜもとおってはいるし、あまりはでにやらなければだいじょうぶだとおもう。けむりがあればドンデラはよってこないし」

天井は高いらしく、上にあるという穴は灯りをつけても見えなかった。

「...じゃあなんで半日暗いままでいたんですか」

「まあこっちにもいろいろあって」

ミヤは灯りをつけてからずっと目を逸らしている。

「眩しいのが苦手なんですか?」

「そんなところかな」

二人でとってきた木の実を食べながら話した。彼も村が襲われて、逃げているうちに迷ってしまったらしい。

「じゃあいっしょにこのもりをでようよ」


次の日も、クルタンは相変わらずミヤのそばに寄ろうとはしなかった。

【そのほうがいいんじゃない?二人で協力したほうが確実だよ】

不機嫌な時に瞬きを多くするのは、村にいたキツネもやっていた。

【あなたはあの人が嫌いなの?】

わたしが問うと、首を回してこちらを見る。

【...もともと人間はそんなに好きじゃないんだ】

野生の生き物で人間を好きな者のほうが珍しい。クルタンも好奇心が強いから興味を持つだけで、近寄りたいわけではないだろう。

【わたしは?】

【例外だよ。きみみたいな変わった人間には初めて会ったから。...それ毒あるよ】

わたしは花に伸ばしかけていた手を止める。

【...ケネラじゃないの?これ】

【よく知ってるね。似てるけど違うんだ。この森くらいしかないから人間は知らないかもだけど】

【花はやめておいた方がいいかもね。それにしても、やっぱり動物はそういうのわかるものなのかな】

【そりゃ命にかかわるからね。食べちゃいけないものっていうのは】

【人間にはない感覚だ】

【このあたりは下手したら毒のないやつのほうが少ないから、いやでも覚える。それにしてもきみたちは普段そんなもの食べてないだろうに、よく食べられるね】

【そうかな。こんな状況だから】

【きみと話しただけで、人間に対して今まで持っていた認識が結構変わったかもしれない】

【そう?】

助けたことを気にしていないならいいけど。

向こうで、ミヤが呼ぶのが聞こえた。


とりあえず主な脅威である足の速い魔物や空を飛ぶ魔物を退ける物を見つけておいたので洞窟の遠くまで歩けた。当分食料の心配はしなくてすみそうだった。

「おまえはその子とはなせるの?」

欠伸をしていたミヤは、わたしが近づくと少し後ろをついて来ているクルタンを見て訊いてきた。

「...まあそんなかんじですかね」

「なんで?」

「わからないんです。生まれたときからなので」

「うまれたときからか」

呟きながら顔を上げて、周囲を見回すような仕草をする。

「あなたは目がいいんですか?」

「めはそんなにかな。それでもまわりのことがわかるんだ。うまれたときからそう」


昼過ぎに洞窟へ帰ると、ミヤは早速横になって大きな欠伸をした。

「眠いですか」

「ねむい。きのうあんまりねれてなくて」

「そうですか?わたしは久しぶりによく眠れましたけど」

わたしが言うとなぜか背を向けて黙ってしまった。

「休みますか?」

「すこし。あしたのあさしゅっぱつでいいかな」

「はい」

寝不足では確かに危険だろう。できる準備はした。

【ぼくも休む】

【わかった】

クルタンも入り口のほうで小さく丸まった。


しばらく静かだったが、突然ミヤが呟いた。

「きょう、イタチをみた」

「?」

「ソレットがくわれてた」

なんとなく、ミヤが言いたいことがわかった。

「きみは、はなせるんでしょ?」

「...まあ」

「なかよくするっていうのは?」

「無理です」

「そう」

欠伸が聞こえて、また静かになる。


翌朝早く、メニューの変わらない朝食の途中で、突然ミヤが立ち上がって洞窟の入り口へ向かった。追って洞窟を出ると、木々のほうへ歩きながら、顔を上げて周りを見回すような仕草をしているのが見えた。

洞窟の入り口で耳を立てていたクルタンが追ってきた。

ミヤは一方を見る。そちらは木ばかりでなにも見えない。

【何かあるの?】

歩きながらクルタンに問う。

【わざわざ近づくってことはわかってるんだろうね】

ミヤはまだ何かを見ているように一方に顔を向けたまま。

目を瞑る。

「...いそごう」

ミヤがそう言ったときクルタンが走り寄って来た。

【行けばわかると思う】


わたしたちが洞窟に向かって走る途中で大きな音が聞こえた。

「なにかと...だれかが」

丘を下りながらミヤがそう言ったとき、もう一度音が聞こえて、横の大木に大きな何かがぶつかった。

甲高い悲鳴があがり、木の葉が舞う。たしか、ヴエスという魔物だった。

ふらつきながらも起き上がって忌々しげに頭を振ったヴエスと、目が合った。相当気が立っているのがわかった。

「!誰かいる!」

人間の声が聞こえた。

わたしたちに向かって突進してきたヴエスの顔に横から魔力の塊がぶつかった。悲鳴を上げて、ヴエスがすぐ横を滑って木にぶつかった。

「こっちへ!」

声のほうへミヤに続いて走った。

「ここにいろ」

そのまま近くの倒木の裏に回り込んだ。クルタンが足元に来たのを確認して振り向くと、一人がヴエスと対峙しているのが見えた。わたしたちのいる側からもう一人が回り込む。

二人に挟まれたヴエスは牽制を繰り返し、同時に間合いに踏み込まれる直前に突然羽を広げて飛び上がった。

二人はそのまま高く飛んだヴエスを見上げていたが、見失ったらしくさっきの一人がわたしたちのほうへ駆けよってきた。

「ここは危険だ。向こうに我々の車がある」

答えようとすると、踏み出そうとした足下にクルタンが回り込んだ。

【木の陰から出ないで】

理由を問おうとしたとき、上を見ていたミヤが言った。

「上からくる」

わたしが動くと、一人が木の下に隠れた。その合図を見てもう一人も慌てて陰に入る。

「くるまは」

ミヤはまだ上に顔を向けている。わたしたちが真似しても、頭上は葉で覆われている。

怪訝そうにしながらひとりが一方を指さす。

「じゃあそっちだ」

聞き返そうとしたとき、その方向から大きな音が聞こえた。

駆けて行く三人について行くと、少し離れたところに、半壊した車と、藻掻いているヴエスが見えた。


わたしの鼓動が落ち着いたころにはヴエスは色を失っていた。

「もう大丈夫だ」

駆け寄って来てそう言った相手をよく見れば、丁軍の帽子を被っていた。


他の一人が周りで働いている間に、わたしたちは車の屋根の下で話をした。

「君達はなぜこんなところにいるのか訊いてもいいか」

「迷いました」

「おなじく。このもりであって、2人ででようとしてた」

「そうか」

クルタンは少し離れたところから見ていた。

「...あなたがたは?」

「狩りに来た。二日間森を彷徨って、今日ようやく目標を見つけた」

「まよったの?」

「迷った」

「ここがどこだかは?」

「わからない」

その割にどこか態度が大きいのはなぜだろう。

「...どの方向に行けばいいのかはだいたいわかります」

わたしが言うと喜んだ顔になる。

「それはありがたい。準備ができしだい出発しよう」

嬉しそうに笑う。特にミヤとの温度差がひどい。

「私は外にいるから君達は休んでいていいぞ。なにか持っていくものがあればとって来るといい」

外に出て行こうとして、振り向く。

「ああそれと、私のことはマホと呼んでくれ」


一度ミヤと一緒に洞窟に戻って、わたしはクルタンと少し話してから車に戻った。まだ作業をしている二人を横目に屋根の下に入ると、ミヤが早くもくつろいでいた。横になった手元に木の実の殻がいくつかあった。

「もうすぐだってさ」

気力が感じられない。

「クルタンは?」

「人間がいるならもういいと」

「そう」

まあそんなものだろう。

また木の実の山に手を伸ばす。

「食べすぎです」

「あんしんしたらはらへってきた」

「まだ森の中です。というか出発してません」

「いや、きぼうがみえた」

こう見えて繊細なのか。

「...意外ときれいに食べますね」

「それはどうも」


「仲良くっていうのもよくわからないんですよね」

わたしが呟くとミヤは顔をこちらに向けてくれた。

「昨日の話なんですけど」

言いかけると、ミヤが今度は外に目を向ける。

いくつかの足音がして、マホが入って来る。

「車を置いていく。悪いが歩きだ」

「は?」

すぐに答えたのはミヤ。

「...え?」

わたしは少し遅れた。


「そもそもなんでくるまできたの」

「こんな森の中まで入るつもりはなかったんだ。気づいたら森の中だった」

「...そんなことあります?」

「それがどうもわからない。人が迷い込まないように、森との境界に塀があったんだが、それを見た覚えがない」

「...」

「車は仕方がないからあとで改めて取りに来ようということになった」

「ああそれで目印を」

「そういうことだ」

クルタンに教えてもらったところによると、道まではそう遠くないらしい。歩きでもまあなんとかなるか。

「君達は帰ったら傷の手当てが必要だな」

「まあ」

「そうですね。...あなたがたは?」

「軍に戻る」

「軍?」

「今回の任務もそれでだったんだ」

「大変でしたね」

マホはミトと名乗ったもう一人と話し始めた。

わたしは前を向いた。

【わかる?】

ミヤが驚いた顔で左右を見て、わたしを見る。

他の人にはどう認識されるのか、わたしは知らない。

ちらりと一瞬だけミヤのほうを見て続ける。

【わたし】

【...わかる。...こっちからの声も聞こえるの?これ】

【うん】

わたしには声ではない。意味がそのまま。誰からかは何故かわかる。

【そういえば話すの?このこと】

わたしは考えて答える。

【いずれ必要があれば】

【そう】

【さっきの話の続きをしていい?】

マホたちは少し前を歩きながら話をしている。

【うん。だけどおれの昨日の話はちょっと思っただけだよ】

【わたしは普段考えないから、あの話を聞いて思ったことがあるの】

【じゃあ聞く】

【ありがとう。あなたは動物を食べる?】

【うん。でも言葉は通じないよ】

当然だ。少し考える。

【わたしとあなたは仲良くしてる?】

【してるんじゃないの?】

【じゃあマホたちとわたしたちは今、仲良くしてる?】

【どうだろう。利害が一致してるだけかな。一時的に】

【わたしには仲良くってわからない。食べる食べられるが当たり前の関係で、意志の疎通ができたら仲良くできるのか】

「...なるほどね」

ミヤは呟いた。

「ああ、ひとりごと」

振り返った二人に言う。

【?】

【いや、メオはそんなこと考えてたんだ】

ミヤは伏せていた目を少し上げる。

【おれは、互いに言葉が通じるなら食べるってできるのかなって思ったんだ】

【考えたことなかった】

【そう?】

【わたし動物食べられないから】

【能力のせい?】

【...食べ物だと思えなかった。だからミヤの言うことも正しいかも】

【植物は?】

【食べてる。...最初から一切食べなかったら、もしかしたら交わせたのかな】

ミヤはごくわずかに口角を上げて前へ向き直る。

「ちかいよ」

その言葉の通り、少し進むと道が見えてきた。

森は突然途切れた。誰も塀を見なかった。


ボーアで傷の手当てをしてもらった。

数日後マホたちが車に乗せてくれた。

最初の目的地に着いたわたしに、誰も何も言わなかった。

わたしの村は魔物に荒されていた。誰もいなかった。

次の目的地に着いたわたしたちはしばらく呆然としていた。本当に言葉が出なかった。

「...ここのはずなんだけど」

しばらくしてミヤがごく小さく口を開いた。

間違いなくミヤの村があった場所のはずだった。

そこには何もなかった。村の残骸も何も。もとはなかったらしい小さな丘に、数日前にはなかったとは思えない大きな木があった。


さらに東で情報を集めた。

わたしの村は生存者は確認できず。ミヤの村は全て不明。

「きぼうをもってたつもりはないんだけどな」

あまりに現実離れした状態に、ミヤは実感が湧いていない様子で言った。

森の形が地図と違うとマホが言った。

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