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永遠の欠片  作者: 匹々
11/21

宿幹と

丁の王というのは人の能力を見極めることに長けているものらしい。

その王が言うことには、わたしは浴氏、つまり生まれてくる子供を管理する仕事が向いているらしい。不服である。

「浴氏だって目立たないだけで重要な役目だぞ。これがしっかりしてないと国は続かないだろ」

そう言ったのは屋氏のヤカだった。

「わかってますよ。でもそれは浴氏だけじゃない。わたしは城で働きたかったんです」

「ああ」

「どうせ外職なら、司氏とか、それこそ屋氏とか」

「屋氏ってそんな楽な仕事じゃねえぞ」

「楽だからじゃないんですけど」

「そりゃ悪かった。お前は真面目だもんな。...あ。だからじゃね?だって屋氏って俺みたいなのでもちゃんとできるような仕事だもん」

ヤカがにやけた笑いを浮かべる。それに白けた目を向けてからわたしは口を開く。

「...どうして国官は王が決めるようになったんでしょう?」

「教わっただろ?」

「はい」

短い沈黙があった。

「...どうしてか。そうだな。お前テペ陛下と話はしただろ?官勤めが決まったときに」

「対跪式ですか。しましたね」

「どれくらい?」

「...時間でおよそ5分くらいでしょうか」

「短いなっ。だいたい20分かそこららしいぞ。俺は15分かからなかったが」

「...何をそんなに」

「人によって違うらしいが、俺は学生時代の思い出話とか。ちなみに俺の同期には好きな食べ物について30分以上話し合ったってやつがいる。嘘かほんとか知らんが」

「...」

「そうやって話して、そいつに一番相応しい職に任じる。そしてこれは後で変えることもできるらしいが、一度決まった職が変わることはほとんどないっていうな」

「人員の入れ替えが面倒だからでは?」

「それもあるのかもしれないけど、官から異動の要望が上がらないんだとさ」

「本当ですか?」

「聞いた話だからわからん」

「...ずっとそうだったんですか?この国は」

「丁王の家系はもともと商家から成りあがったっていうのは知ってるだろ?」

わたしは頷く。言い方もう少しどうにかならないものだろうか。

「どうやら歴代の丁王はみんな人を使うのが上手かったらしい」

「言い方」

「人を働かせるのがお家芸」

そこじゃない。

「まあ良くも悪くも人の上に立つのに向いた人たちなんだろうな」

わたしが黙っているとヤカが笑う。

「まあやってるうちに慣れるって」

「決まった以上はやらせてもらいますけど」

「偉い」

そう言って立ち上がる。

わたしも立ち上がろうとすると、歩きだしていたヤカが振り返る。

「そういえばお前、なりたくない職は聞かれたか?」

「はい」

「なんて答えた?」

「悩んだんですけど、輪氏にしました。車が少し苦手なので」

「俺はちゃんと答えたぞ、浴氏って」

「...」

「だってあいつら気味悪いんだもん」

「...それなら司氏とかも」

「言ったよ?あと駅氏、架氏、それから城勤め全般...あとなんだっけな」

逆になんで官吏になった。

「じゃあまた明日」

手を振ってヤカはすぐに見えなくなった。


翌朝、わたしは無言で書類を渡された。

「...ああ、ここですか?」

それに目を通して見つけた箇所を指さして質問をするが返事はない。

「官長に確認してきます」

そう言って向けた背に視線を感じる。やはり返事はない。

ヤカの言うこともわかる気がする。遐人は気味が悪い。

人と同じ形をしているが、本当に生き物なのかはわたしにはわからない。肌の色は薄く、瞬きもしない目からは感情が読み取れない。一言も発さず、毎日ほぼ同じ動きを続けるが、休憩をしているところを見たことがない。

浴氏は中央との関係が強いから、国官のなかでも特に遐人と接触する機会が多い。その点戸籍を管理する屋氏は浴氏からの報告を受けるときも仕事相手は人間だ。


官長のピディはゼマティの木に変色が見つかったと城に連絡をした。すぐに返答が来た。2002年6月。

その指示に従って書庫で記録を見ると、たしかに似たような事例があった。

それと同じように対処をする。そう時間はかからず、効果が見られた。

解決したとピディに報告する。

「よかった」

「テペ陛下は過去の事例を覚えているというのは本当ですか?」

ついでに気になっていたことを聞いてみた。

「そんなことがあったってだけね。どうやって解決したのかは、記録を見ればわかる。いつあったのかを覚えていれば、記録も探しやすい」

「なるほど」

それが、人の上に立つのに向いている、ということなのだろう。

「そうやって、過去に記録のあるものは対処できる。ただ、過去にあったことだけなんだよ」

説明によれば、過去になかった、まったく未知の出来事に対しては、何をすればいいのかわからない。その時は周りの官たちがどうにかするしかない。

実際、以前の事例では丁王自身は解決に貢献していない。

「当時の人たちは大変だったでしょうね」

思わず口にした言葉にピディは笑った。


仕事にも慣れてきたころ、わたしはイルテラの城にいた。

用事を終わらせたわたしは浴府からの連絡があったのを見つけて広間へ向かった。ゼマティの木の周囲にひび割れが見つかったらしい。昨日の地震が原因だろうか。いずれにせよ、ゼマティの木の異常は放置すれば大勢の命を危険に晒しかねない。下の民と、生まれてくるその子供たちと。

わたしの報告を受け取ったテペ陛下は少し机の上に目線を落とし、それから2018年7月と返事があった。何代も前のことまで、本当に頭に入っているらしい。

この頃にはわたしたちの役目はどちらかといえば正確に記録を残すことだとわかって来ていた。

そんなことを考えていると、駆け込んできた別の官がテペ陛下に火急の報告をした。地震で畑の水路が崩壊したらしい。

それを聞いたテペ陛下が首を捻って天井を見る。

しばらくその体勢でいたテペ陛下が目を閉じて首を振る。

黙って見守っていたその場の全員の顔がみるみるうちに青ざめた。

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