9・目がキラーン……恐怖の予感
「う、梅原?な、なんで怒ってんだよ!!」
目だけが光ってる感じだよ!赤くてキラーンみたいな!!ってか手ぇボキボキ鳴らしながら来るなよな!!こえーって鬼かっての!!
「てんめぇ!!あたしを差し置いて彼女とはどぉゆうことだと聞いてんだよ!!」
いきなりアッパーされそうな勢いで胸倉を摑まれた。
「ひぃぃぃぃいいい!!ど、どうでも良いだろ!!」
「どぉでも・・・・・・良いだとぉ・・・・・・?そんな中途半端な奴に彼女作る資格なんかねぇ!!」
するとビシバシッという音が往復何回も教室中に響き渡り、みんなその光景を見ながら引いていた。
何でてって?
それは、俺が往復ビンタを何回も繰り返し受けているからです!!
「滝野のぉ・・・・・・あほぉぉぉおおおおお!!!」
最後にきっつーい腹パンチをまともにくらい、倒れこんだ。
顔が真っ赤になって晴れ上がってる気がする・・・・・・。
「グ!!ゴホッ!ゲホッ!!」
倒れこんだ俺を見て菊谷が慌てて駆けよってくる。
「た、滝野!大丈夫!?しっかりして!!」
ああ、まともに人に心配されたのなんていつぶりだろう・・・・・・。
ふっと意識が遠くなった。
いろいろありすぎて、なんか、疲れて、眠くなった。
「ん・・・・・・ここは・・・・・・。」
「滝野!!」
「やった起きたか。」
そこにいたのは涙目の菊谷と崎田だった。
「ここは、保健室?どうして・・・・・・ああ、倒れて・・・・・・。」
「そ、俺が運んできた。菊谷さんなんか泣き出すし、大変だった。」
「わりぃ。菊谷も。」
「ほ・・・・・・んとだよぉ・・・・・・もう・・・・・・ほんとに心配した・・・・・・!」
俺の手を強く握りまだ鼻をすする菊谷、えっと、これ誰?
俺が知ってる菊谷じゃないんだけど。
「さ、てと。バイトに行こうかな・・・・・・。」
「滝野、大丈夫なの?」
「ああ。問題ねぇだろ。」
そして保健室から出ると、そこにはちょうど梅原が来ていた。
「う、梅原?」
「滝野・・・・・・?」
「な、何してんだよ、こんなとこで?」
「べ、別にあんたが心配だったわけじゃ・・・・・・ただ、悪かったなぁ・・・・・・とおも・・・・・・」
「滝野!あたしをおいてかないでよ!!」
梅原の話中に菊谷が走りよってきて梅原は話を止めた。
そしてきびすを返して去っていった。
「お、おい!」
梅原を追いかけようとする俺を菊谷は止めた。
「ダメ。」
「は?」
「行っちゃだめ。」
「なんで?」
「いいから、行かないで。」
俺は菊谷にたのまれて、菊谷は妙な顔をしながら俺の腕にくっついていた。
それから数日が過ぎ、俺たちは付き合って数ヶ月を迎えようとしていた。
桜木さんは図書室からたまに見るが、さらに消えそうではかなげな不確かな存在になっている気がする。
「ねぇ滝野?」
菊谷に話しかけられ、振り向いた。
「なんだよ?」
「あたしのこと、好き?」
「はぁ?」
嫌いじゃない、でも、好きって気持ちが分からない。
「ねぇ好き?」
「嫌いじゃないよ。」
「なにそれぇ。」
「好きとかよくわかんないんだ。」
「ふーん。そうなんだぁ。」
菊谷は小走りで俺の前に出ると振り返りざまに言った。
その顔は寂しそうで、廊下は淡い光をまとい、菊谷のうっすらと染めた髪の毛が光に反射するようになびいて、思わず綺麗だと思った。
どっかの一つの写真のように、はかなく、淡く、消えそうなもの。
「き・・・・・・くた・・・・・・」
「好きって言うのはね、その人のこと見てるとどきどきしたり、その人といることで嬉しくなったり、一緒にいたいと思うことなんだよ。」
俺が菊谷を呼び寄せようとしたら菊谷が口を開いて、菊谷は自分の手を後ろに回りこみ、俺の顔を覗き込んだ。
「あたしといて、滝田はドキドキする?」
「まぁ。」
ドキッとすることはウソじゃない。
でも、はかなさは桜木さんにはかなわない。
だけど、俺は菊谷をあんまり悲しませたくない。大事にしたいと思ってる。
「そう良かった。」
そう言って微笑んだ菊谷を抱き寄せていた。
「ばーか。」
「なっ、滝野?」
ぎゅっと抱きしめた。
どうしてかは分からない。
でも、今は勝手に体のおもむくままに。
「ちょ、滝野?い、息荒い。」
誰も居ない早朝の図書室に菊谷の声が響く。
「ちょっと!止めてってば!」
するりと俺から逃れて胸のあたりに手を当ててる菊谷。
なんでだろう。俺の頭には菊谷とやりたいなんて思考はないのに体は勝手に動いてる。
きっとそんなもんなんだ。
俺の本能はやっぱりどこかで“そーゆーこと”したいんだ。
でも、俺の頭ではしたい相手はコイツじゃないといってる。
でも、体は目の前の女だといってる。
もう、わかんねー。
「滝野はひどいよ・・・・・・あたしのこと、本当は好きじゃないんでしょ!?」
菊谷の目からボロボロと涙がこぼれる。
「は?なんで?」
「あ、あたし、本当は一杯一杯なんだよ。よ、余裕なんて全然っなくて、いつも梅原さんや桜木さんやいろんな女子に、滝野、取られちゃうんじゃないかって、心配で。」
しゃくりあげる菊谷。
「は?何で梅原?何で桜木さん?」
「滝野が、あたしを選んでくれた理由がわかんなかった。でも、やっぱりそうなんだね。た、滝野もそうなんだね。手軽な女がいたから、やっちゃおうって?ほんとはあたしのことすきでもなんでもないくせに、やり捨てしようって?」
「なんでそうなんだよ?」
女の思考が分からない。なんでそこでやり捨て?
「だって、滝野はあ、あたしを見てはくれないもの!!」
「み、みてるじゃんか!!今だって。」
「ウソよ!桜木さんを見る目とあたしを見る目は違うもの!なのに滝野は私に優しくしてくれたわ。あたしの願いをいくつか聞き入れてくれた。やさしいのは罪よ。それが本当にあたしに向いたものじゃなくてもあたしは滝野に甘えたくなるんだもの・・・・・・こんなのだったらあたしを突き放してくれたほうが良かったわ!届かない片思いでいたほうがこんなに心がえぐられずにすんだもの!結局、あたしはあんたの好みの女の子になろうと努力しても無駄だったのよ!!分かってはいたの!いたけど、それにかけるしかなかったのよ!」
「はぁ?何いってるんだよ?」
「滝野、あたし達、分かれましょう?」
「は!?なんで!!」
「滝野はあたしに縛られてないほうがいいわ。そして滝野、最後にあたしに嫌いだと言って。」
その瞳からは涙が流れていて、目をまともに開けることさえままならない状態だった。
「ちょ、何言ってんだよ?」
「言ってよ!!じゃなきゃ、あたし一生滝野のこと、忘れられないわ!最後くらいあんたを嫌いにさせてよ!あんたを最悪の男にさせてよ!」
泣きじゃくる菊谷をこれ以上見るのがつらくて、俺は菊谷に言った。
「嫌いだよ・・・・・・菊谷なんて、嫌いだ。」
菊谷は顔を上げ、それ以上ないほどにさらに大量な涙を流し始める。
もう涙にぬれて顔はぐしゃぐしゃだ。
でも、何でだろう、少し綺麗だった。
その涙が。
その思いが。
朝の光が菊谷を綺麗に演出してた気がする。