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7・なんで知ってるんだよ……?

「き・・・・・・くたに?」

「滝野、なんで毎日あんた、ここに来るの?まさか、ねえ、本当にあの人のこと・・・・・・桜木さんとかのこと、好きなの?なんで!?あの人は幽霊じゃない!」

涙目の菊谷が夕焼けに照らされながら俺を見ている。

「え?なんでここに毎日来てるって・・・・・・知って・・・・・・。」

そういえば菊谷は前々から言っていた。

桜木さんのこと、幽霊だって。頑なに人間だと認めようとしなかった。

「見えるのよ。図書室から毎日毎日中庭が。あんたは鼻の下のばしてヘラヘラ笑ってるのが。そして幽霊さえ笑ってるのが・・・・・・!」

強い口調で俺に言いよってくる。

「中庭が見えるから前々から幽霊のことは知ってたわ。でも彼女は一度だって誰にも笑顔を見せたことはなかった!」

その時にドクンっと木が動いたのを感じた。

「え?」

思わず木を振り替えるが何もない。

当たり前・・・・・・だよな。

現実は菊谷が俺を見ながら泣き出しそうだって事か。

「好きなの?桜木さんのこと。」

「ちょ、ちょ、ストップ!なんでそうなんだよ?」

好きなのかと聞かれれば嫌いじゃない。

嫌いじゃないから好きってわけでもないけど、俺にとって桜木さんは木の精霊のような人で、傍にいると安心できて、俺は、それを当たり前に感じてて・・・・・・。

好き・・・・・・なのかな。

顔がとたんに赤くなった。

でもきっと夕焼けに隠れてわからないだろう。

「その前に、菊谷はどうして桜木さんのこと知ってんの?どうして名前まで知ってんの?」

「え、あ・・・・・・そ、それは、聞いてたから。」

「盗み聞きしてたのか?」

すると菊谷の顔が歪んで真っ赤になったのを見た。

もう日が陰ってきてるからまるわかりなんだ!

「ち、ちがっ!ただあたしは毎日毎日滝野が熱心に何してるのかと思って・・・・・・。」

「毎日毎日、盗み聞きしてたと?」

「違うわよっ!た、滝野が悪いのよっ!」

ちょ、まて!何で俺が悪いんだよっ!?

「はっ!?」

「あ、あたしがどれだけ頑張っても滝野は気付いてくれないじゃない!いつもあたしを見てくれたと思ってもすぐに他の人の所に行くじゃない!」

「何言ってんだよ?わけわかんねーよ。はっきり言えよ。」

だんだん空は赤紫色から深い紺色へと変貌を遂げていく。

「はっきり言えるなら最初から言ってるわよっ!あ、あたしは・・・・・・あたしはぁ、あんたが・・・・・・滝野が・・・・・・滝野が好きなのよっ!」

「え・・・・・・?ま、菊谷が、俺を?」

「ぁ・・・・・・。」

俺の顔を見た菊谷の顔が一瞬にして真っ赤から凍りついた表情へ変わった。

「わ・・・・・・分かってた・・・・・・だから怖かった・・・・・・滝野と恋人じゃなくても良いから、そばにいたかったのよ・・・・・・滝野があたしを拒否るそんな顔が見たくなかったから・・・・・・言わなかったのよ・・・・・・!」

「ごめん・・・・・・ちょっと考えさせてくれないか・・・・・・?」

考え込んでしまった。

本当に。

俺は菊谷のこと怖いと思っても別に嫌いじゃなかった。

嫌いじゃないから、付き合ってといわれれば断る必要性もないわけだけど、こーゆー場合、どうしたら良いんだろう。

菊谷を困らせたいわけでも、からかってるわけでも、嫌いなわけでもない。

ただ単純に本当に率直に迷ってる。

「わか・・・・・・った。ねぇ滝野、時間をくれってことは・・・・・・あたしまだ、期待してても良いんだよね・・・・・・?」

そう振り返りざまに言い残して、その姿が妙に女の子らしくて可愛くてドキリとしたけど。

どうなんだろう、今まで友達としか思ってなかった奴とこんな気持ちのまま付き合ったりしていいものなのか・・・・・・。

そして月が中庭を照らし出した頃、うっすらと半透明な桜木の姿が現れた。

「そうか・・・・・・前々からそうだったけど、もう本当に限界なのかもしれないわね・・・・・・以前から切り取られた時間に存在する私は、時間の流れを止めたものとしてすでに時間は流れるという摂理に、理にかなっていない存在になってしまっていた。だから時折体が透けたりして、私はここにいるのに誰にも何も見えなくなって聞こえなくなったりする時があるんだ。でも連続で見えたり見えなかったりを最近は繰り返してる。それも・・・・・・長い時間。私はもう人間じゃないのかな。切り取られた時間の中にいるせいで温度はずっと変わらずに、そとの季節を見ることは出来ても感じることは出来ない。それに時間が止まったままなぶん、寝ることも、何かを食べることもない。だからすべての感覚を忘れてしまっていた・・・・・・滝野君、あなたに会うまでは・・・・・・でももうだめね。私、どうなっちゃうのかしら。完全に透明になってしまったら幽霊同然ね。触れることすら出来なくなるんだから。そして摂理を崩した私を失えば、時は私が居なくても進むのだから、いつかこの木もちゃんと時を刻み始めて、すべてがなかったことになる。その時が・・・・・・本当に私が死ぬ時。ああ、私にもあったんだ。死んでしまう時が・・・・・・ちゃんと誰にも崩せない摂理が・・・・・・。」

木と月に話しかけるように空を仰いだ。

昔は話しかければ嫌われた。

人形のような顔立ちで、外人みたいな体つきで、それでもみな、恐る恐る私に近寄ってきて、でも結局は気味悪がって逃げていくの。

男子は「動く人形、のろわれた人形」って叫びながら。

それはここの人も同じね。

人形とは言われなくなったけど、代わりに幽霊って名づけられて、私は生きているのに、“呪われた気が強くて一匹狼の幽霊”とされた。

だからみんな面白半分で私に近づいては怖がって逃げるの。

私は摂理をこれ以上崩さないために一人でいるだけなのに、それがむしろみんなを怖がらせて、いつの間にか嫌われることに慣れていた。

だから私もみんなに嫌われるような態度をとり続けた。

なのに、滝野君、あの男子だけは違ったからつい嬉しくて余計なことまで話しすぎてしまった。

“でも彼女は一度だって誰にも笑顔を見せたことはなかった”・・・・・・か。

これ以上テリトリーに彼を入らせるのは危険ね。

自分から嫌われて、自分から進んで一人でいたのはそのためだったのに、いつの間にか一線を踏み越えるところだったわ。

私はまだ踏み越えては居ない。線を踏み潰しているだけ。

今なら戻れる。

だから、戻ろう。

いつ私が居なくなってもいいように、そして彼にちゃんと摂理を無事に与え続けるために。

みんなを、危険にさらさないために・・・・・・。

もう犠牲になるのは私ひとりで十分だ。

光学で学んだことは後に論文となり発表されたわけだけど、やっぱり摂理を崩しちゃいけない。

あとは月がすべてを照らし出すばかり・・・・・・。


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