6・お、俺のファーストキスがぁ……!?
まだ震えが止まらん。
なんせ、壁(ってゆーか階段の柱?)にはシャーペンが何本か突き刺さってて、俺の顔や体から数センチずれた場所にあるから。
これ、ガチで刺さってたら相当痛いどころか真面目に死んでたかもしれねえよな・・・・・・。
「ん!?こぉらぁ!!滝野君!またあなたぁ!?壁ボロボロにしてー!!修理代どーすんのよー!!」
え!?またっすか先生!
「だーら、俺じゃねーすっよ!?先生!!」
「いいから片付けなさーい!」
しぶしぶシャーペンを壁からひっこぬく。
一本だけなかなか抜けなくて、一生懸命抜いたら柱がまるまる壊れてなくなった。
「う、ぇ?」
まあ、外側の壁じゃなかった分、青空は覗かなかったわけだが・・・・・・。
「こらー!!さらに散らかしちゃ・・・・・・」
先生が掃除道具をもって呆然と立っている俺を見て俺同様動きを止めた。
「あら?ここに・・・・・・何かなかったかしら?」
俺のところまで来て上下左右、さらには四方を見渡した。
そのすきに野次馬達は静かに退却していく。
俺の手には菊谷のシャーペンがしっかりと握られたままだ。
先生はバッと俺を見るとため息を吐いた。
「よかったね、校舎内で。先生、もうどうすることもできないわ。さ、はい。掃除してね。まかせたわよ。」
今、完璧先生の体と魂は分離した。
俺に掃除道具を押しつけ、フラフラと歩きだすと数歩歩いて倒れた。
「うわぁぁぁぁああ!!先生ー!死んじゃダメっすよー!!」
見れば有り得ないことに先生の魂は体から離れ、フラダンスを踊っている・・・・・・。
「だっ!誰か先生の魂を捕まえて先生の体に戻せー!!」
そしてとんでもない大騒動が納まった後、俺は菊谷にシャーペンを渡しに行った。
だいたいなんで俺のせいなんだよ。
すべては菊谷のせいだろ!本も壁もシャーペンもっ!
「きーくーたぁにぃ!!」
菊谷のクラスに行って菊谷を大声で呼び出した。
「な、何よ!なんか用!?」
「ああ、あるね!おおありだよ!お前のせいで朝から散々だっ!本事件は俺のせいにされるし!お前の投げたシャーペンのせいで壁は壊れるし!先生は倒れるし!」
「何よ。そんなこと言いにきたの?」
「そ、そんなことだとぅ!?あ、そだ、はい、シャーペン。後、お前、物投げんのやめろよ。せっかく外見悪くねーんだし、可愛くしてたらそれなりにもてんじゃね?」
「はっ?な、何言いだすのよっ!」
「いや、物投げ付けてくる女はただたんにこえーし。」
「あ、あんたはそーゆー子が好きなの?」
何もじもじしてんだ?こいつ。
「あーうん。まあ。そっちのが可愛いなーって思うけどね。俺は。」
「ふ、ふーん?そう?わかったわ。気を付けてみる。」
急いで俺からシャーペンを受け取ると教室に戻っていった。
何だ?ションベンでもしたかったのか?
まぁ、どーでもいーわ。
今日はバイトねーし、部活もねーし。
桜木さんと話でもしよーかな。
「桜木さーん。」
「またあなた?」
「あれ?雰囲気変わったね。」
「喜びなさい。私のテリトリーに入るのを私が許したのだから。」
真面目な顔で言ってから本に視線を落とした。
「新しい本もあるんだろうね・・・・・・読みたいな。」
「あ、じゃ読みます?」
ちゃっちゃと本を持ち出して桜木さんに持っていった。
「ダメ。読めない。」
「へ!なんで。」
「ありがとう。でも、読めるわけないの。現在にあって、それも時を刻める本は私が触れることができない。あなたがこの本に触れられなかったように。」
「ふーん?」
「あ、それ、光学関係の本じゃ!読みたいな。けど、無理か・・・・・・。私行けないから、返してきてくれる?」
一瞬、人形のような顔に人間味が見えた。
目が輝いたのに、すぐにクールで冷たい桜木さんの雰囲気に戻った。
「え?こんなん読んでんの!?」
それはいかにも分厚くて開く気すらしないような本だった。
一ページ目を開いて挫折した。
無理だった。
「あんた、本ダメなんだ?」
冷たい視線が俺をついた。
「なのに持ってくるなんて、バカじゃない・・・・・・?」
「なっ!」
桜木さんを見るとかすかに笑っていた。
桜木さんと話し終わったついでに先生のところへ行くとぼんやりと目を開いていた。
「センセー、大丈夫ですかー?」
先生の顔を覗き込むとぼんやりしたまま微笑んだ。
「あらぁ?イツキ、イツキじゃないの?心配してくれたの?」
うふふっと笑いながら俺の頭に手を回す先生。
「せ、先生!しっかり!俺、イツキって人じゃねーっすよ!!先生!!」
すると思いっきりブチューっと吸い付くようにキスをされ、すべてが真っ白になってしまった。
ああ・・・・・・奪われちゃった・・・・・・汚されちゃった・・・・・・お、俺のファーストキスがぁあああああ・・・・・・。
「ん?んん!!??イツキじゃない!!た、滝野君!」
真っ白になっていた俺の意識が戻って、先生を見た。
「そ、そうっすよ先生!俺は滝野で・・・・・・」
「きゃぁぁぁあああああ!!」
俺は滝野ですといいかけたとたん、俺の左頬に激痛が走った。
バッチーン!!
少し鈍い音がして俺は座っていた椅子から転げ落ち、頭を勢いよく打った。
「ちょ、俺・・・・・・何もしてねぇのに・・・・・・。」
そのあとは良く覚えてない。
ただ、先生が俺に謝ってた気がする。
そして後日、桜木さんに話して腫れ上がってしまった頬を見せたら「キレーな紅葉型だね」って感心された。
そんなふうに毎日、毎日、当たり前のように来て、しゃべって、次第に彼女も笑ってくれるようになって、まだ声をたてて笑っているのは見たことないけど、ああ、やっぱりこの人もいくら切り取られた時間の中に居て、それに縛られていても人間なのだと思った・・・・・・。
「こんにちわー!桜木さーん。」
あれ?いないな。
隠れてるとか?
ところが彼女はそのまま三日間姿を現さなかった。
何でいないんだろう。
今日も、か・・・・・・もう帰るか。
立ち上がって帰ろうと気に背を向けるとそこには菊谷がいた。