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5・セツリ?何それ、わかんねー。

「なんで出られないんだ?」

「この木を中心とした円の半径2メートルを切り取ったから。だから私はその先へは出られない。だけど、現代の人がこっちに入ってくることは出来る。木と本と私以外は通常通りの摂理を持ってちゃんと時を刻んでいるから。あ、でも、摂理って言っても、神様や宗教団体を信じてるわけじゃないんだけど。」

「はぁ?セツリ?よくわかんねーけど、こっから動けないだけで生きてるんだろ?俺たち、触れ合えるんだろ?」

「知らないよ。やったことないし、それにその摂理をあんまり壊さないようにわざわざ人近づけてこなかったんだから。あなただけだよ。こんなにここを土足で踏み込んでくるのは。」

少しふてくされた表情がいままで見たこともなく、俺の中にあったイメージと違ったため、少し笑ってしまった。

「人の顔見て笑うとか失礼な奴。」

「人の顔見て笑われるとか俺、それ日常茶飯事。しかも土足で踏み込んでくるって、ここ中庭だし、外だし、あたりまえじゃねえか?」

「そういう意味じゃない!やっぱバカ?」

「バカとか失礼な!!っと、それより、試してみない?」

ん、と手を差し出した。

桜木さんは少し戸惑ってからためらいがちに、俺の手をとった。

やわらかくて少し冷たかった。

「お、男の人と手をつないだのなんて・・・・・・初めて・・・・・・。」

少し赤くなってる桜木さんが今までに出会ったことのないタイプの女子で、少し可愛くてドキッとした。

「そう。」

「みんな、こうなのかな・・・・・・あったかくて、大きくて、少し、私よりごつごつしてる?」

「さぁ、どうだろう。たぶん男はそうじゃない?でも、温度は時と場合によってさまざまかな。」

「そ、そうなの。」

ぱっと桜木さんは俺から手を放した。

「久々・・・・・・本当に、人に触れたのなんて。それに男子と。」

顔が赤い。

「あれー?顔がトマトみたいですよ~?桜木さん~?」

「う、うるさいっ!!」

ぱっと俺から顔をそらしてしまった。

ポツリ・・・・・・。

俺に雫が当たった。

「あ、やべ。雨だ。じゃあ、またくるんで!!」

「こなくていい!!」

ニカッと笑ってから教室に駆け込んだ。

「たぁきぃのぉ―――!!!」

ドドドドドッというどこかでなだれが起きているような音が廊下に響き渡ると次の瞬間、俺は顔面とび蹴りをくらい、廊下に倒れこんだ。

「うぅっ・・・・・・今、かすかにピンク色の何かが見えたような気が・・・・・・じゃなくて!!梅原!何する!痛いじゃねぇか!!」

「ひ!人のスカートの中見るなバカ!!」

梅野はいまさらながらに慌てて顔を赤くして短いスカートを両手で押さえ込む。

「見たくて見たんじゃねぇよ!!大体誰が見たいか!!」

すると一言よけいだったらしく、首を腕で締め付けられた。

「あ、ウソです!!すんません!!ウソだから離してくれ―――っ!!」

うっ・・・・・・正直、頭の後ろがムニュってする!ムニュって!!うわぁぁああああ!!

「は・な・せぇぇぇぇえええ!!」

「離してくださいお願いします。だろう?」

「離してくださいお願いしますぅうう!!」

「よろしい。」

ドサッと俺は廊下に座り込むと息を落ち着かせようと必死だった。

「で?俺になんか用か?梅原。」

「あ、いや、さっきまでどこに居た!?探してたのに校舎に居なかったから。」

「中庭。」

「幽霊が出るって話じゃないか!!」

「で?俺になんか用があったのかよ?」

するととたんに梅原は真っ赤になってもじもじしだした。

うわ、いきなり女子モード?気持ちワリー(笑)って、絶対本人には言えないけどな!!

「よ、用がなくちゃ、一緒にいちゃいけないのかよ?」

「は?うんまぁ、そりゃ、一緒にいる理由がわかんないからな。用があったほうがいいと思うけど。」

「ああ、そうかよ・・・・・・滝野のばかぁぁぁぁああああ!!」

俺は何も悪いことしてないのに平手打ちされ、梅原は走り去り、みんな俺を哀れみの目で見ていく。

な、何がどうなってんだよ―――!?

しかも何でこーなるんだよー!?

「あーあ。鈍いな。俺、お前のそーゆーこと好きだぜ、滝野。」

ポンッと肩に手をおかれる。

「男に好かれてもうれしかねぇよ!」

ちょっとご機嫌ななめで言った。

「そーゆー意味じゃねえしー。」

ギャハハッと笑って俺の前から立ち去っていく。

「わけ・・・・・・わかんねーよ。」

立ち上がり、廊下をよろよろと歩きだすと後ろから本が飛んできてやっぱり俺に直撃して倒れこんだ。

「いったい俺が何したってんだ・・・・・・。」

涙目になりながら廊下に座り、本が飛んできた方向を睨む。

「何だよ!菊谷!いてえだろ!いい加減本投げんのやめろよな!」

よく見るとそれは本ではなくノートや教科書やら筆箱などの文具類。

「また、行ってたわね!鼻の下伸ばしてデレデレと!言ったじゃない!あの人は幽霊なのよ!?付き合えるわけないじゃない!なのに・・・・・・男ってみんなそう!そんなに美人が好き!?そんなにスタイルいい子が好き!?」

な、なんかヒステリー起こしてる・・・・・・?

「お、落ち着けよ。何言ってんだよ・・・・・・?」

今にも泣き出しそうな菊谷の周りで俺はオロオロするしか出来なかった。

「元彼もそうだった。ならはじめからあたしとなんか付き合わなきゃいいんだわ!でもあんたはあの時言ってくれた、無理して変わる必要なんかないって。だからあんただけは違うって信じてたのに!」

「な、何が!?」

「あたしが落ち込んでたあの日、あたしが彼氏に振られたのよ。本当はね。・・・・・・でもなんか悔しくて思わずあの時はあたしの友達がってことにしたの。」

「へ、へえ・・・・・・。」

「滝野!だからね、あたし・・・・・・あたしっ!」

いきなり俺を見上げる菊谷。

すると廊下なのでいろんな方向から野次が飛んできた。

「あついねえ、お二人さん!」

「みせつけんなや!」

ありえなさすぎる言葉に思わず笑ってしまう。

「っは。バッカじゃねぇの?俺と菊谷が?そーゆー関係!ありえねーって!俺、菊谷に奴隷にされんのがオチじゃん!」

ギャハハッと笑ったら菊谷が小刻みに震えだして教科書やノートを掻き集めると俺をにらんでシャーペンを何本か投げてきたのであわてて避けた。

「滝野死ねっ!!」

「あ、あっぶねー・・・・・・。」


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