4・今までの女がひどすぎるのか?
~昼休み~
「・・・・・・で?何をしにきたの、あなた。」
いた。いたよ!!
「質問に答えてもらう約束だったなぁっと。」
その人は額に手を当てため息をつくとつぶやいた。
「信じられない・・・・・・やっと人が来なくなったというのに。あなた、うわさ知らないの?」
「ああ、体調が悪くなるとかいうやつ?」
「それは迷信。私に怒鳴られて逃げたやつがたまたま次々に体調不良を訴えただけ。私は何もしてない。」
「へぇ?それで名前は?」
「はぁ!?なんであなたに教えなくちゃいけないの?」
「いや、だって俺、まだまだここに来る予定だし。呼び名があったほうがいいかなぁって。」
「はぁ・・・・・・あなた、相当な物好き?まぁいいか。私は桜木 実知瑠よ。」
「そう、桜木さん。」
初めて出会ったかもしれない。
名前とあんまギャップがないような、むしろ名前のほうがこの人を選んだかのようなぴったりくる名前の人に。
ってか、いままでの女がひどすぎるのか?
「それで、何かな?滝野君。」
桜木さんは半笑いをしていた。
「あ、いや、綺麗な名前だね。」
「それはどうも。で、あなたも私の姿が見てみたかったとかそれだけ?いたのよ。そーゆーの。」
「ちがう。俺は違う。」
「じゃぁなに?」
「桜木さんのことが知りたい。」
「私は知られたくない。」
きっぱりと拒否されてしまった。
「どうして!!」
「だって、知ってどうするの?時は流れていくのに私は変わらない姿でそこに存在して、あなたは大人になっていくんだよ。知ったって知られたってどうにもならないのに。」
「いつからここに?」
「しらない。数えてないから。両親が死んでしまってから、私はもう年月を数えるのはやめてしまったの。この学校は新しい校舎に改装されて、そして私は昔から人形みたいで怖いといわれ続けたこの容姿がいつの間にか見物者の人だかりを見せるようになった。」
「え?じゃあだいぶ前からここに・・・・・・。」
「いる。言葉も文化もすっかり変わってしまったけど、不思議、こんなにすぐに言葉遣いを覚えて現代を生きる若者と話をしているなんて。」
「その本は?」
「ああ、これ?これは光についての論文やその論文について書いた作者に関することが詳しく書いてある本。これも昔からあるし、もう何度も読み返してしまって中身を一句一字もらさず丸暗記しているもの。それでもこの本もこの木も、私も切り取られた時間に存在する別次元と捕らえたほうがいいものだから、年をとらないし、新品のまま、成長することを、時を刻むことを止めてしまった者達。」
「へぇ、みして?」
「いいけど、あなたにわかるかな。」
渡された瞬間、電気みたいな何かがはしって本が下に落ちた。
「え・・・・・・今の、何?」
俺が本を拾おうとしても拾えない。
「なんで・・・・・・どうなって・・・・・・。」
「ああ・・・・・・そっか・・・・・・たぶん、次元が違うから・・・・・。ダメなんだ。きっと、私のこの空間の中にあるものと外の今、この時を生きる時間とは別物だから。だからあなたは本に触れられない。私がこの本を持ってきていなかったら今頃はこの本も時を刻んでボロボロにすさみ、黄ばんで、捨てられているかも知れなかった物。私が持ってきてしまったから私と同じくここに時間をとどめてしまったも物。でも、でもね。生きてるの。私たち、年はとらないし、この格好のままだけど、それでも一応生きてはいるの。」
さみしそうに空を仰ぐ。
「私たちって・・・・・・?」
「時を止めたのは私だけじゃない。ずっと成長することのない木、そして傷が増えることもないこの本。場所と物体。この三つだけが時をあの時のままに止めてしまった。だからこの木が切り倒されようとした時さっきのような現象が起きたの。いくら電動のこぎりを木に当てても切れるはずないの。ここには存在するけど、そっちには存在しないから。」
そういいながら木に寄りかかり、自分を指差してから俺を指差した。
「わけ。わかんねー。」
「そうでしょうね。でも、時を止められたことでこの木は生長できなくなってしまった。もう花をつけることも身を結ぶことも、生き物がこの木に近づくことさえ・・・・・・そして私もその時のままの姿で時を止めて、大人にはれなくなって、この本も私が持っている限り、ここにある限りこれ以上誰かに読んでもらえなくなってしまった。」
「つまりなに・・・・・・永遠の命、みたいな?」
すると桜木さん?は笑った。
「そうなるかな。時をここだけ止めてしまえば、いくら生きていても成長できないんだから死んでいるのと同じで、私は生きているのに死んでいることになる。そうして切り取られた時間の中で生きていくの。流れる時間を流れない時間の中で見つめることしか出来ない傍観者として、触れることも、知ることも、成長することもままならず、未熟なままの不安定な存在で。もう死ぬとかいう感情も、人と触れ合った時の感覚も、何も思い出せない。それどころか、切り取られたまんま、暑さも寒さも感じないんだから本当に自分が生きてるのかさえわからないんだけどね。」
寂しそうではかなげな綺麗な笑顔だった。