30・最終回!!
「あぁああああああ!!失敗したぁあああ!!」
頭を抱える俺に桜木さんはいつもと変わらぬ笑顔で、半分あきらめてそうに笑った。
「無理よ。あなたはあと半年もせずにここからいなくなる。そしたら私のことなんてきっと忘れてしまう。」
「何で決めつけんだよ!!」
「そうだったから。以前私と実験をやった先輩も必死で私をここから出す方法を考えてくれた。繰り返し、繰り返し。あなたみたいにあきらめずに。やさしくて、何よりお強い方だった。私は先輩をあこがれていたけど、先輩は大学へ行っていつの間にか私のところへは来なくなってしまった。そして何十年か後に先輩達が学校に来た時、私はちょうど消えていて、先輩は何一つ覚えていなかった。ここで頭をかしげてうなっていたけど結局、何一つ・・・・・・。あなたもそうなるのよ。社会に出て、そのうちこんな些細な一時的な記憶なんてすぐあいまいになって消えてしまう。どんなに今はすごいことだと思っても。」
「なんで決め付けるんだよ!?俺は絶対そうにはならない!それに、青春時代の思い出は一生ものだって誰かも言ってた!だから忘れない!その人がどうだったとか関係ない!俺は桜木さんを忘れたりしない!」
「・・・・・・確かにあなたは私の為にがんばってくれた。あんなに無知に等しかったのに今は学校の先生よりずっと知識があると思う。でも、いつの間にかがんばっている意味さえ忘れてしまうの。がんばった事実だけは覚えていても、思い出せなくなるのよ。あなたは小学校低学年のとこを覚えている?覚えてないでしょう?どうして大人が子供や学生に戻りたいなんていうか、知ってる?それは学生の苦労も辛さも、悲惨な過去もすべて忘れて過去を美化してるからよ。私はもう前の記憶を失ってしまったわ。いろんなことがあって、時が進んでく中で、過去はいつの間にかいらなくなって、ただ目の前のことに追いつくことで一杯一杯になってしまう。人の記憶なんてそんなもので、あいまいだし、何より感情に流されやすくなっているようなもの。そんな一時的な感情をいつまでも抱き続けていられる人間がいないとは言わないけど、そんなのはごく一部でしょ?やっぱり、恋なんてしても寂しいだけね。恋をしなければよかったかな・・・・・・ううん、ごめん、今のはなかったことにしてくれる?きっとあなたでなければ恋はできなかったものね。きっとあなたが忘れてしまっても、私は何度でも伝えましょう。あなたに“好き”って、“あなたに出会えてよかった”って。きっときっと何度あなたが忘れても。伝えましょう。私の中のときはあなたから進めない気がするから。私がここに居続ける限りずっと。」
複雑な心境になった。
思い出せなくなってしまう時が人にはあるという。
そんな時が俺にもくるのかもしれないと思うと苦しかったし、同時に俺は絶対平気だとどこかで反発もしていた。
でも、心のどこかでは俺は特別な人間なんかじゃないのかもしれないと思ってて、ただの人間だからもしかしたら・・・・・・ってその繰り返しが頭を巡る。
出口のない迷路に迷い込んでしまった気分だ。
出口がないなら自分で作ればいいんだろうけど、俺は出口の作りかも知らなければそんなに強くもない。
頭を抱え込んでその場にうずくまってしまった感じだ。
こんなときはいつも桜木さんが手を差し伸べてくれた。
力を貸してくれた。
それが当たり前だと思ってた。
いつも隣に居てくれるものだと思い込んで疑わなかった。
でも、今の俺は一人だ。
自分自身で決めなくてはならない時がきた。
俺は・・・・・・どうすればいい?
後ろから本が飛んできていることも気付かずに頭をかしげていると、後頭部に分厚い辞書があたった。
「きゃー!?」
桜木さんが驚いている。
俺にとってはなれた光景でも桜木さんはまだ2~3回しか見てないからそりゃ驚くか・・・・・・って、やべぇ、涙が出てきた・・・・・・。
「いっ・・・・・・てぇぇぇえええええええええ!!!菊谷!てめぇコノヤロウ!!」
「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!キモ滝野!!」
相変わらず図書室から体を乗り出してこちらを見下ろしている。
「そんなんに一度はほれたのはどこのどいつだぁあああああ!!」
「い、一度じゃないわよっ!勝手に過去形にしないでくれる!?」
「はぁ!?お前彼氏いんだろ!!」
「わ、別れたわよ!!もともと相手もあたしが滝野のことすきって知った上で付き合ってたんだし!!」
「・・・・・・振ったのか。」
「振られたのよっ!!こんなことまで言わせるな!ばかぁぁああああ!!」
本やらチョークやら黒板けしやらが大量に飛んでくるので桜木さんの腕をつかんで木の陰に隠れた。
「くそっ、あいつ、いまだに物投げる癖はかわんねーんだから。あとで掃除しろとか怒られるのは俺なんだぞっ!?」(※物を投げるのは癖じゃありません。)
「ちょ・・・・・・。」
赤面している桜木さんの顔がやけに近いと思ったら抱きしめていたので驚いて手を放す。
「うわぁ!!ごめん。」
「あ、あなたと居ると、ホント・・・・・・身が持たないわね。」
俺に背を向けてしまった桜木さんは耳まで真っ赤だった。
ふっと桜木さんの顔を覗き込む。
「な、何?」
「・・・・・・いや、可愛いな・・・・・・と思って。」
言ってからはっとした。
俺、しっかりとキザったらしい台詞がさきたんみたいに染み付いてる!?
まぁ、ウソじゃないけど。
「な・・・・・・何言ってるのよ!!」
りんごみたいな桜木さんを見て、思わず顔が緩んだ。
「か、からかったのね!?もう!からかわないでよ!」
俺を女の子らしくぽかぽかと叩く桜木さんについつい笑いもこらえきれなくなって笑ってしまった。
「もうっ!聞いてるの!?」
こんなとき、梅原や菊谷ならこんな反応はしないだろうと思うとなおさら桜木さんが可愛く思えて仕方なかった。
「実知瑠、そんな怒るなって!」
その瞬間、桜木さんの行動が止まった。
「今、なんて・・・・・・?」
「あ・・・・・・ごめん。」
なれなれしすぎたか。
「そうじゃなくて、覚えててくれたの・・・・・・?私の名前・・・・・・。」
「ああ、うん。」
ああ、そうだ、覚えてたんだ?自分でもびっくりだ。
一度しか聞いてない名前、それもこんな関係になるとは知るよしもなかった頃に聞いた名前を。
「嬉しいわ・・・・・・健一・・・・・・!」
桜木さんに抱きつかれて驚いたけどなんとなく考えなしに抱きしめていた。
やっぱり自分だけはこの人の特別でありたい。
こんな俺は、独占欲が強いですか?
独占欲の強い女にはたくさんあったけど、自分がそうなのかは分からない。
ただ、桜木さんは俺だけしか見てないって。そんなへんな自信があった。
そう、さっきの話を聞くまでは。
「そういえば、憧れの先輩とやらは男?」
「え?・・・・・・うん、そうよ?」
当然のように返す桜木さんを見て少しムカッとした。
「男ぉぉぉぉおお!?」
「な、何!?どうしたの!?」
「くそっ、男かよ!?憧れの先輩が男!?」
「もしかして・・・・・・ヤキモチ・・・・・・?」
ぽかんとしている桜木さんをよそに俺の顔はみるみる赤くなっていくのを感じる。
「そうみたいだけど・・・・・・なんだよ!ヤキモチ焼いちゃ悪いか!!」
「ぷ、あはははは!!ヤダ、もう!先輩は先輩よ!確かに男だったけど何もないわ!私が一方的にあこがれてただけよ!」
お腹を抱えて笑い出した桜木さん。
初めてこんなに笑ってる姿を見た。
てか、一方的じゃないから!絶対向こうは桜木さん・・・・・・いや、実知瑠のこと好きだから!じゃなきゃ危険だってわかってんのに桜木さんを救おうとなんかしねーよ!!
「あはは!!もうだめ・・・・・・嬉しすぎて・・・・・・笑いが止まらない!」
涙を拭きながらヒーヒー息をはいたり吸ったりを繰り返している実知瑠を見て余裕がある感じでむかつく。
「なんだよ、そんなに笑うなよ。」
「やめてよ、そんな顔しないで!?もっとヤキモチ焼かせたくなっちゃうわ。」
そう言って俺にキスをしてきたので頭が真っ白になった。
それからしばらくして卒業を本当にまじかに控えたころ、俺はついに・・・・・・。
「でぇきたぁぁあああああ!!できたぞ!!」
ついに空間を切り裂くものを開発し、こんどこそ・・・・・・。
成功させた。
もちろん、桜木さんの外見はまったく変わらずに。
「信じられない・・・・・・わ。スゴイ!空気を感じることができる!あなた、天才よ!」
それからどうなったかは・・・・・・皆さんのご想像にお任せします。
とりあえず俺は、やってやったぜ!!
END
最終回でした。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。