27・俺はバカなんだ
「え?」
「この手をとったら、あなたのモテ人生も終わりで、私はきっと女と遊ぶなというわ。絶対に。この手をとったら今までの生活に戻れなくなるのよ。昔のあなたに戻らなければいけなくなる。それでもこの手をとってくれる?取れないなら・・・・・・もうここにこないと約束してくれる?そしたら私は今度こそ忘れる。そしてあなたも、生活を失いたくないならここに来ないことが懸命ね。」
俺は桜木さんの手をとった。
何で俺は荒れたと思ってる?
誰のせいでこうなったと思ってる?
なのにうらめなかった。
ずっと・・・・・・ずっと。
桜木さんがいない生活が、辛かった。
「いいの?本当に?私・・・・・・こう見えて嫉妬深いかもしれないのよ?」
「いいんだ。だって俺、桜木さんが・・・・・・好きだから。」
顔を思い切ってあげた。
すると桜木さんの目には涙がたまっていた。
「え?」
桜木さんが抱きついてきた。
「聞けないんだと思ってた・・・・・・あんなひどい過去を聞いたからなおさら・・・・・・。」
「ごめん・・・・・・もっと早く、気持ちを言うべきだったかもしれない。」
それは初夏、じめじめとした気候がこれから始まるという頃だった。
「声・・・・・・少し低くなった・・・・・・それに背も、高くなった。まだそんなに経ってないはずなのに。」
「え?俺もうここしばらく背伸びてないよ。」
「それでも伸びてるのよ。」
桜木さんと再会してから俺は女遊びもやめ、図書館に閉じこもって本を読みあさる日が続いた。
スコーンと俺の頭に消しゴムが当たった。
これ、地味に痛いんだよ。みんな知らないだろうけど。
それでも相手は分かりきってたから無視した。
「あんたが本?本には女体のことなんて書いてないわよ。どっかの雑誌でも読みあされば?」
そう、相手は俺に愛想をつかしたと思われる菊谷。
「もうやめたから。女遊び。」
「ええ。うそぉ、なんで・・・・・・まさか・・・・・・桜木さん!?」
菊谷が外へ乗り出した。
そして俺の顔をじっと見る。
「桜木さんがいるわ。どういうこと?」
「・・・・・・どうもこうもそういうこと。俺、忙しいんだ。じゃ。」
「じゃ。じゃないわよ!あんた、そんなに桜木さんに惚れてるの!?おかしいんじゃない!?」
「それはお前達もだろ。」
「たち?」
「菊谷んとこ隠れてんじゃねーよ、梅原。この前、そこで寝てんの見ちゃったんだよな。あんなみっともねー俺見て愛想つかしたくせになんでお前らは俺にかまうの?俺の嫌なとこ十分見ただろ?」
本からまったく顔を上げずに言い切ったけど、目のはしにのこのこと顔を出す梅原がいた。
「だって・・・・・・あたしらには優しいじゃんか。一度は愛想もつかしたよ。とんでもねー野郎だって思ったけど、だけど知っちゃったんだよ。あたしも。知ったのはあんただけじゃない。あんたはあたしたちには絶対手を出そうとしなかった。理由も知ったし。何よりあたしに上着かけただろ。本当に鬱陶しいなら自分だって証拠残してんじゃねーよ。」
ああ、そういえば寒そうだと思ってかけた上着、俺の机の上にあったな。
そっか、気付いてたのか。
「仕方なくね?だって、寒そうだったし。まぁいいよ。俺はもう桜木さん一筋だしさ。急がなきゃいけないんだ。もっと勉強しないといけない。だから俺の邪魔はしないで。」
そう言って光に関係する本を手に桜木さんのもとへ向かった。
後ろのほうで「滝野のばかぁぁぁぁあああああ!!」という声を聞いた。
そうだよ。俺はバカなんだ。
だからみんなに言われなきゃ気付かない。
気付けない。
心の中はずっと一人だと思ってたから。