20・おかげで死にかけたしな
崎田が俺のところに駆け寄ってきた。
「おす・・・・・・。」
「学校来て早々雪でイヤになるなー、な?滝野。」
「そ・・・・・・だな。」
そういえば崎田も結構早くにいつも学校来るんだっけか。
「お前がこんな早く学校にいるのもめずらしいな。」
「梅原も菊谷もいたぞ。」
一瞬キスとパンツがフラッシュバックして思いっきり頭を横に振った。
「おー、そりゃあいつらは部活とかの朝練で忙しいからだろ。」
「え?制服着てたぞ。」
「何言ってんの?だってまだ部活始まったばっかだぞ?」
ああ。そんなに早かったのか。
たしかにまだなんか眠い気がしなくもない。
「お前、大丈夫か?」
突拍子もない言葉に思わず顔を上げた。
「何が?」
「元気ないぞ。」
「ああ、うん・・・・・・いや。好き・・・・・・とか良くわかんなくて、俺、知らない間にいろんな人傷つけてて・・・・・・。」
「恋愛系まったく0だったお前が恋愛の話か?」
「怖かったんだ・・・・・・ずっと、誰か特定の人を信じるのも、好きになるのも。」
「ふーん。恋愛なんてよくわかんねーよ。俺だって、いまだによくわかんねーもんな。」
「おんなったらしのお前がぁ?」
俺が苦笑すると崎田も苦笑した。
「ばぁか、俺はたらしじゃねー。ただ、好きだなーって思うから付き合いだすのに、いつの間にか“あなたのことが理解できない”とか“私のこと愛してる!?”とかいわれて振られるんだよ。ただのかっこわりい男さ。」
「崎田はいいよ。すきとかちゃんとわかるんだから。俺、本当にわかんないんだ。すきってどんなことをいうのか。そしたら・・・・・・“中途半端にやさしくしないで”って言われた。」
菊谷に、梅原に・・・・・・桜木さんにまで・・・・・・。
「お前、ついに菊谷さんとか梅原さんに告白されたか?」
「ついにってなんだよ。ついにって。」
俺が苦笑しても崎田の顔は大真面目。
「痛いくらいだったもんな。あの二人のアピールは。まぁ、マジで途中お前痛そうだったけど・・・・・・。」
崎田が苦笑した。
「おかげで死にかけたしな。好きって、ただドキドキすること?誰かを思い続けること?なぁ、どんな気持ちだ?」
「お前、気になる子でもいるわけ?」
「え?」
一瞬思い浮かんだのが桜木さんの顔で、俺はそれをかき消した。
「別に。」
「思いついたろ、今。俺にも良くわかんない。特に女って良くわかんないし。ぎゃあぎゃあうるさいんだよな。“そこに本当のお前はいるのか”って、でも、本当ってわからなくね?好きな人にかっこよく思われたい、好きな人にかわいく見られたい。そうやって自分を偽るわけじゃん。でも、それってごく当たり前のことだろ?なのにどれ“が”なんて聞かれてもわかんねーよ。どれ“も”俺でどれがなんて決められない。だから俺に聞くな。自分が思ったように、したいように行動すればそれでいいだろ。」
崎田は頭の後ろで腕を組むとニッと笑った。