19・わかんねーよ
「ごめん、俺には桜木さんみたいになったことがないからわからない。」
わかんねーよ。
わかるわけねーよ。
それでも俺は・・・・・・。
「それでも俺は・・・・・・桜木さんに生きててほしい。」
苦しいんだよ。
苦しすぎるくらい苦しいんだ。
桜木さんと過ごした時間も、離れてた時間も。
そんな長くないのに。
「一緒にいたいんだよっ・・・・・・!」
その瞬間に桜木さんが俺に抱きついてきた。
「人には・・・・・・言っちゃいけないことと・・・・・・言っていいことがあるわ・・・・・・」
そういいながら鼻をすすっている。
ああ、もうだめだ。
俺が懇親の力を振り絞って言った言葉も、拒否されてしまった。
そう思った。
「私は・・・・・・今から言ってはいけない言葉を言う・・・・・・私は・・・・・・あなたが好きなの・・・・・・好きなのよ!」
どうしていいかわからなくなった。
ただ、絶望が吹っ飛んで、梅原や菊谷に言われた言葉より嬉しく感じた。
意味は梅原も菊谷も桜木さんも同じはずなのに。
ただ、頭が真っ白になった。
空が曇りだして、雪が降り始めた。
そっと桜木さんは俺から離れて、俺に背を向けるとこう続けた。
「・・・・・・どう?私が・・・・・・あなたのこと、どんな目で見てたか・・・・・・やっと知った?・・・・・・あなたがいると迷惑なのよ。だから・・・・・・お願い・・・・・・中途半端にやさしくしないで・・・・・・生きていたくなってしまうから・・・・・・私のこと好きにならないことは、あなたの過去を聞いて知っているもの。もう好きにならない私のところになんて・・・・・・来ないで。」
桜木さんの足が震えている。
立っていることで一杯一杯みたいだ。
どうしよう。
どうしたらいいのか分からない。
人を好きになることが怖くて、誰も好きになんかなれずにいた。
誰も信じられずに居た。
また、裏切られて、俺の前から消えてしまいそうな気がした。
本当に過去の気持ち、そのまんま変わらずにいると思う。
初めて心を許せた相手が、自分の前から“消えて”といっている。
どうしてこうなるんだろう。
初めてどきどきした。いろんなこと、いろんなしぐさ。
でも、どれが恋と呼べるものなのか、俺には分からない。
近くに居ても彼女を苦しめるだけなら・・・・・・離れるのもまた一つの選択なのかもしれない。
離れてかまわない?
分からない。
でも、彼女を苦しめたくない。
「・・・・・・ごめん・・・・・・。」
それだけ小さくつぶやいて彼女に背を向けた。
数歩歩き出したらドサッという小さな音がして振り返ると彼女は座り込んでただ声を押し殺しながら肩を震わせていた。
・・・・・・だって、俺にはどうすることもできない。
好きだってちゃんといってあげられないから。
近くにいることでこんなに君を傷つけているなんて思いもしなくて。
ごめん・・・・・・それ以外の言葉が思いつかなかった。
「おーっす。滝野。」