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12・多分、怖いんだ。

「そう・・・・・・それが二度と近づくなと言われた相手でも?」

違う。会いたかった。ただ、桜木さんに。でも、何故だかわからない。

「違う・・・・・・会いたかった・・・・・・だけだと思う。」

「何故?」

「わからない・・・・・・。」

桜木さんは顔を剃らした。

「あなた、罪作りにも程があるよ?」

「え?」

「あなたのその曖昧な態度がみんなを期待させるの!そしてあなたのその鈍さがみんなを傷つけるんだよっ!本気で誰かを好きになりなさい!」

胸の辺りをトントントンと突かれた。

「わからないんだ。好きとか嫌いとか。小さい頃から。少し感情がマヒしてるらしくて。」

「え?」

桜木さんの顔が歪んだ。

「多分、怖いんだ。人を仲間にしてないと嫌で、だけど誰か特定の人を好きになったら今度は裏切られるのが怖いんだ。」

「何・・・・・・それ。」

「俺、親がいないんだ。」

「え?」

桜木さんは戸惑いを隠せていない。

「俺の親、なんか騙されたとかで借金から何から背負いこんでたらしくて、一家心中したらしくて・・・・・・俺だけ生き残ったんだ。」

何故俺は赤の他人である桜木さんにこんな話をするのか自分でもわからなかった。

誰にも今まで言ったことのなかった俺の過去。

でも桜木さんに聞いてほしかった。

知ってほしかった。

桜木さんなら理解してくれるんじゃないかと勝手にどこかでそう思ってた。

案の定桜木さんはもう戸惑った顔はしてないなくて俺の話を聞いてくれた。

一家心中して、俺だけ助かったこと。

自分が笑えばどんな人もたいてい仲間になってくれたこと。

心理的に起こるトラウマのせいで無表情の人を笑わせようとしたり、仲良くしようとしたりする事。

全部それらが親の思い込み、張り詰めた表情からくるトラウマなこと。

そして愛する人に裏切られる意味を知ったこと。

全部全部トラウマで、そのせいで嫌われるのも裏切られるのも嫌なこと。

ただしゃべり続けた。

「・・・・・・から、人を好きになるのが怖いんだと思う・・・・・・はは。ダメだな俺、誰も信じてねーって事じゃん。」

笑ったら桜木は寂しそうに笑った。

そんな顔しないで・・・・・・“そんな顔しないで”

小さい頃のかすかな記憶とかぶる。

顔も覚えていないはずの両親の顔に似ていた気がして桜木さんの手をつかんだ。

「・・・・・・何?」

「あ、いや、何でも。」

「・・・・・・無理に笑わなくていいの。どうしてその話を私にしてくれたの?」

「わからない。ただ、なんか・・・・・・ゴメン・・・・・・うまく言えない。」

「なら、私を信じてくれたから話をしてくれたんじゃないの?少しでもそこに信頼はなかった?」

「あった・・・・・・と思う。」

桜木さんはニコリと笑うと言った。

「あなたは人を信じられないんじゃない。人を信じてるから裏切られるのが怖いのよ。私は・・・・・・人を信じることができないから誰も近付けなかった。それもすべてはこの容姿のせいだけど。」

「そうかな。」

「そう。だから気に病む必要なんてない。時間は進むと私に言ったのはあなたでしょ?なのにあなた自身が時間をその体に刻んでいても変われていないのね。変わればいいよ。きっと変われるから。人を信じて今を選択できるあなたなら。」

ポロリと涙がこぼれた。

視界がどんどん歪んでついには拭っても拭っても視界は歪みっぱなしでかっこ悪いくらい大泣きしてしまった。

ただ桜木さんは俺の手を握り、時折俺の頭を撫でてくれた。

それが嬉しくて、それが苦しくて・・・・・・なおさら涙が止まらなくなった。

しばらくして落ち着くと桜木さんはただだまって俺を見ていたのでつい恥ずかしくなって笑い飛ばした。

「かっこわりぃ・・・・・・。」

「いいんじゃない?たまには。」

さらに無性に恥ずかしくなって俺はその場を逃げ出した。

どうしてこんなに恥ずかしくなるのかがわからなかった。

誰かが男だって弱音を吐くと言っていて、俺もその通りだと思ったのに。

そして桜木さんはそんな俺を受け入れてくれて、嬉しかったことは確かなのに、すっげー苦しくて、すっげー恥ずかしくなって・・・・・・もう自分でもよくわかんなくなって逃げ出した。

違うんだ、本当は桜木さんに「ありがとう」って言いたかったのに。

なのに・・・・・・もう自分でも何が何だか・・・・・・。

「うぉぉぉおらぁぁぁぁああ!滝野ぉおお!!」

すっげーデカイ声とともに頭に激痛が走って俺は毎回の事ながらに床に倒れこんだ。

そんな俺をさらに仰向けにして俺の胸ぐらをつかみ、もう一度俺の頭を床に叩きつけた。

相手は梅原。

梅原は俺に馬乗りになっている。

「こらぁ!どぉこいってた!?探してたんだからねっ!」

「いってぇぇぇえ・・・・・・るっせーな。菊谷に言われたんだよ。やり直さねえかって。」

すると梅原はぴたりと止まった。

「へ・・・・・・へぇ?それであんたはどうしたんだよ?」

「よくわからねーから時間くれって言った。好きとかわかんねーから。こんな中途半端で付き合っていいのかって。振る理由がないから付き合ってんだ・・・・・・本音は。梅原も菊谷も。だけどある人に言われたんだよ。そんな中途半端な気持ちなら別れろって。どっちも傷つくって。だから・・・・・・梅原、別れよう。って、まだ付き合いだしてもねぇかな。」

そうすると梅原は一瞬無表情になって、それからうつむくと俺の胸ぐらをつかみなおして俺の上半身をいきなり起こした。

「うわっ!?」

俺の顔がいきなり梅原の顔の上に来て、梅原がよく見えるような体制になると梅原の目には涙がたまっていた。

「う?梅原?」

すると梅原はいきなり俺に抱きついてきた。

思わず上半身が大きくゆれる。

「嫌っ!やっとここまできたのにっ!滝野に一番近い女子はあたしだと思ってた!滝野を狙う女子が多いのは知ってた!あんたあんまりにも思わせ振りだから!だから誰も滝野に告白できないのをいいことにあたしはあんたにちょっかいを出してたの!少しでもあたしを見てほしくて!素直に好きなんて言えるわけない!利用でも何でもいいわよ!上等よっ!やっと・・・・・・やっと滝野があたしを見てくれるかもしれないところまで来たのに!どうして別れようなんて言うのっ!?」

泣きじゃくる梅原をどうしていいかわからずにただ胸にあたる柔らかい感触を感じていた。

時折桜木さんがしてくれたように梅原の頭を撫でてみたけど、俺の手はぎこちなくて桜木さんのように苦しくてでも嬉しくなるようなそんな撫で方はできなかった。

しばらくして梅原が俺から少し離れた。

「ゴメン・・・・・・滝野。滝野が決めたことなら仕方ないよね。けどあたしはやっぱり滝野が好きだからあきらめないと思う。それは菊谷さんも同じじゃないかな?でもあたしもたったの1日だけでも滝野の彼女になってみたいから、あと1日付き合って?それくらいいいよね?」

涙目で鼻をぐずらせながら笑う梅原を見て思わず抱き締めた。

傷つくのは辛い。

傷つくのは怖い。

何かを失って泣く姿は何故か見たくないと思った。

「ちょ!?滝野!?」

「泣くな。俺は泣く姿を見るのが・・・・・・なんでか・・・・・・凄く、嫌で。」

「ばか滝野・・・・・・こんなことされたらあたし・・・・・・絶対あきらめられなくなるじゃない。」

梅原が少し笑ったような気がして、我に返るとすごいことをしたと反省し、すぐに梅原から離れる。

「うわっ!?ゴメン。」

俺は本当に中途半端な人間なんだと今理解した。

好かれるのも好くのも、嫌われるのも怖い。

何かを決断しなくちゃならないときに傷つく顔を見たくないなんて無茶な話だ。

なのに・・・・・・決断できない。

誰も傷つけたくない一心でその人のためにならないとわかっているのに俺は悪役になれずにいる。

ある意味、最低ヤローか・・・・・・。

だからダメなのだろうか?だから・・・・・・泣かせてしまうのだろうか?

わからない。こんなことになったのが初めてだから。

1日だけ梅原に振り回され、覚悟を決めて菊谷にも梅原と同じことを言った。

菊谷は「わかった。」と言っただけだった。

これでよかったのか?

そうだ、桜木さんにお礼・・・・・・。

そして早朝、本当にめっちゃ早く学校に行った。


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