11・ひでぇなぁ……。
今までこっちを向いていた梅原はいきなり後ろを向き、腕を組むと少し腕を強くつかんでいた。
「そんなんじゃねーよ。だから何回同じことを言わせるんだ!?」
少しいらいらしてきたので荒い口調で言ったら、梅原が振り返り、俺に詰め寄った。
「だから、あたしを利用しろといっている。」
さっきまでの決心した女剣士ではない別の駆け引きを知っているような女剣士みたいな表情が現れた。
胸を俺に押し付けてくる。
どっちかって言うと夜の女の戦場に咲き誇る王女・・・・・・みたいな?
俺はどうしたらいいのか分からずに突っ立っているしかできない状態だった。
「利用しろ。嫌われたいならあたしを抱け。」
シュッとネクタイに手が伸びてきた。
しばらく、突っ立ったままな状態が続いた。
「できないのか?あたしと付き合えといっているのに。」
「か、かんけーねーだろ。お前はなんでそんなに俺にかまうんだよ。」
ナイスバディーに言い寄られ、俺の理性もぎりぎりまで来ていた。
「あたしは、お前のしょぼい顔が見たくない。」
ひで・・・・・・ぐさっとちょーひでぇことを・・・・・・。
「何故だかわかるか?」
「分かるわけねーだろ。」
「あたしは、お前が好きだからだ。滝野。」
ぱっと離れた。
そして俺に背を向けるとこうとも言った。
「だからお前が落ち込んでる顔など見たくない。あたしは滝野が好きだが、滝野はあたしじゃ不満か?」
「不満じゃない。」
「なら、あたしと付き合えるよな?」
「全然かまわない。けど・・・・・・。」
俺はガッと梅原を壁に押し付けた。
「な、なにする?」
「慰めてくれるんだよな?」
「っ・・・・・・いいわよ。」
ふっと俺は梅原の首元に顔をうずめると何もしていないのに梅原がびくりと俺を拒絶したように見えて
真っ赤になった梅原から離れ、階段を降りた。
たった今から、俺の新しい彼女は梅原になった。
「じゃ、楽しみにしてるよ、梅原 美月さん?」
こんな気持ちのままで良いのかは、正直分からない。
「滝野、ちょっと来て。」
いきなり女子生徒に引っ張られたと思ったら菊谷がそこに居た。
「ま、まって!あれ?・・・・・・おーい?滝野ー?」
梅原が俺を探しているから出て行こうとしたら菊谷はそれを許してはくれなかった。
「滝野、あたし、勝手な女だと思われてもいい。でも、滝野が忘れられないの!さっきの会話、少し聞いてたの。梅原さんとつきあうのは本心じゃないんでしょ?ならやりなおそう?次こそあたし、ちゃんと我慢するわ、だから・・・・・・。」
「ごめん、俺、よくわかんない。だから少し整理できるまで考えさせてくれ。」
「わかった。突っ走ってごめん・・・・・・。」
本当にどうしたらいいのかわからなくなった。
桜木さんに聞けばわかる気がするのに、桜木さんは俺にくるなと言ったよな。
姿を見るだけでもいいや、近くまで行こう。
なぜそう思ったかはわからない。
でも、桜木さんに会えば何かがわかる気がした。
話さなくてもそれだけでいい気がした。
今は好きとか恋とかよくわからないし、振る内容が無いから付き合うだけって感じで。
木の下に言ったら桜木さんは空を見上げてボーッとしていた。
そしてつぶやいていた。
「切り取られた時間は流れゆく時間と共に生きることはできない。不安定な私はここにとどまることができないから、そうよ・・・・・・誰にも近寄られなくていいの、いずれ消えるとわかってて苦しくなるなんて嫌だもの。あぁ、今日も季節が分からないわね、外は暑いのかな、寒いのかな。はたまたちょうどいいのかな。」
どうしてかその呟きの一つ一つが胸に刺さって気付けば桜木さんを力一杯呼んでいた。
「桜木さんっ!!」
ビクリとして振り向いた桜木さんの顔には焦りや不安などたくさんの表情が浮かんでから消えた。
「またあなた?もうくるなと行ったのに。」
「どうしてあんたが人を寄せ付けないのかよくわかった。今までわからなかったけど!でも、桜木さんはもう一人じゃないんだ!」
桜木さんは一瞬泣きそうな顔をしてからすぐに俺から顔を反らして叫ぶようにして言い返してきた。
「一人よ!切り取られた時間にいるかぎり、ずっと一人なのっ!」
「一人なんかじゃない!方法を捜そう!?俺、たくさんたくさん本読むから!そっから出れる方法を捜そう!?」
「あるわけないでしょ!実験は失敗したの!人間はやっぱりタイムトラベルはできないんだよ!私自身がそれを実証する証なの!飛ぼうとして時間から、次元から切り離されたのっ!人間はどうあがいても空を飛べないのっ!飛べない・・・・・・から・・・・・・羽を作って・・・・・・作っては・・・・・・もぎ取られるんだよ。」
桜木さんの肩が震えていた。
「桜木さん、変われるよ。人間は確かに羽がないから飛べないかもしれない、だけど、人間は翼の代わりに物を使って空を飛んでる。ライト兄弟だって最初は変人呼ばわりされた。でも時間は進んでるんだ。桜木さんは変わってなくても、時間は着実に刻まれてるんだよ。だから変われる。方法だって試す前からあきらめてたんじゃ何にもならないよ。少なくとも今、俺たちは触れ合えるんだからさ。」
桜木さんの肩に手をおいた。
出会ったときとは違う冷たい風が吹く。
「・・・・・・冷たいわ。」
一瞬なんのことだったかわからなかったが、すぐに自分の手だと気が付いて離した。
「ああ、ごめん!」
すると桜木さんは泣きながら笑った顔でこう言った。
「もう、冬なのね。」
泣いたり笑ったり、忙しい人だなぁと感じながら俺も笑い返した。
「ああ、手先が赤くなって大変だよ。」
それから二人でボーッと空を眺めてから俺が口を開いた。
「桜木さん、俺、どーしたらいいかな?」
「何が?」
「菊谷と別れたんだ。そしたら、梅原って女子が自分を利用しろって言い出して、付き合う事になった?みたいなんだけど、そしたら菊谷がやり直そうって。俺もうどーしたらいいかわかんなくて。」
「菊谷さん?や梅原さんのこと、あなたは好きなの?」
「好きとかわからないんだ。ただ、振る理由がないから付き合うだけって感じで。」
「ならどちらも別れなさい。あなたが中途半端な限り、永遠に彼女達は傷つくから。そう、あなたがどちらを選択してもね。」
「さっすが桜木さん。」
すると桜木さんはため息を吐いた。
「あなた、すごく鈍いのね、その鈍さがいつか、いろんな人を傷つけるわ。ねぇ?どうして私のところにそれを聞きにきたの?どんな答えを望んでいるの?」
鋭い質問だと思った。
どうして俺は桜木さんに聞きにきたんだろう。
女子友達ならたくさんいるのに。
「どうしたらいいのか・・・・・・わかんなくて。桜木さんなら・・・・・・余計なこと・・・・・・言わないで、ずばっと・・・・・・結果を出してくれそうだったから・・・・・・。」
目が泳ぐ。
なのに桜木さんはまっすぐ俺を見ていた。