夜の灯火
とある日、夕方。
まだ青と橙が空を共有し合っている時間帯。
ビルとビルの間、建物同士の僅かな隙間が道となっている場所に『何か』が蠢いている。
それは建物の影に溶け込み、暗い背景と同化して姿を隠す。
やがて徐々に日が傾き、帰路に就く小学生達のはしゃぎ声が聞こえ始め、夕焼けの朱にチャイムの音が鳴り響いた。
陰の獣は先程からその場に留まったまま、何かの機会を伺うように平和な光景を見つめている。
「……居た」
不意に、背後から無機質な声がした。
獣はそれに警戒し即座に振り向く。
そこには真っ赤な服を着た少女が立っていた。
光の当たらない場所だというのに、その鮮やかな色が目に焼き付く。
彼女はどこからか自分の身長の半分近くある二本の剣を取り出し、獣に斬り掛かった。
「真琴、居た。あそこ」
少女が呟いた。
その声に側にいた男が無言で小さなナイフを投げる。
投げた方向の十数メートル先で何かが蒸発する音がした。先程の獣とよく似たものがナイフに貫かれて消えていく。
今度は、不意打ちを仕掛けようとしたのか懐に入り込んできた別の獣を少女が一刀両断にした。
またもその場に死体は残らず、獣の残骸は跡形もなく消える。
二人の連携は凄まじいものだ。
呼吸のタイミングすら揃っている、文字通り息のあった攻撃で敵をなぎ倒していく。
暫く戦闘を続け、敵が現れなくなると少女は持っていた剣を男に渡しながら言った。
「……少ない」
それに男が応える。
「そうだね…………でも」
彼の表情が先程よりも僅かに険しくなった。それに伴い少女も軽くストレッチをする。
「うん、でも」
男と少女、身長差の大きい二人はある一方向を見つめていた。
やがてそこから、先程までとは比べ物にならないほどの威圧感を持つ獣──否、人の形をした魔人が二人の前に現れた。
「どうやら良い訓練になりそうだね、サイカ」
「……どれくらいまでなら耐えてくれるかな」
しかしこの謎の狩人たちが怯むことはなく、むしろ楽しげな笑みを浮かべているようにすら見える。
少女、サイカは彼女が真琴と呼んだ男に向かって手を差し出した。
すっかり日が暮れた街の中を彼らは歩いていた。
「……イマイチだった」
「それなりに耐えてはくれたけど、やっぱり炎を使うとすぐに消えちゃうね」
会話から察するに、どうやら軍配は二人に上がったようだ。
「殺陣ばかり上手くなる……能力の強化もしたいのに」
「うーん、炎で消滅しない心喰獣が居てくれたらいいんだけど……」
「でもそれ危ないよ」
「そうだよねー……」
夜闇の中を街頭に照らされ、とある食人族とその相棒は今日も日常を踏みしめてゆく。
この物語はいずれ産声をあげるだろう。
この作品は現在制作中の物語に登場する方々の日常を描いたものです。
とはいえ未だ大まかなストーリーすら決まっていないので完成は気長に待っていただけると幸いです。