前世の知識を活かして、怪物の養殖を始めました
「さてと────」
本日の仕事を確認する。
確保してる怪物の数を確認し、どれを処分していくかを。
「これと、これと、これ────と」
管理用紙に記録されてるものを見て、数を調整していく。
残す分と間引く分を。
それが終わると、作業場に向かう。
怪物を確保している柵へと。
剣と魔法のファンタジー世界である。
怪物と迷宮があらわれ、人々を襲ってる世界である。
人類は生存圏を確保するために、強力な怪物と戦うしかない。
そんな世界で、怪物は忌み嫌われている。
人類を殲滅する脅威だから当然だ。
そんな怪物を養殖する。
普通なら考えつかないだろう。
だが、養殖してる男は普通ではなかった。
養殖してる男は転生者である。
日本で生まれ育ち、アニメや漫画やゲームを楽しんでた。
ごく普通のオタクであり、ごく普通のオタクとして死んだ。
そんな彼が次に生まれたのが、地球では無い別世界だった。
「RPGみたいな世界だな」
おかれた状況をそのように解釈した。
ゲームみたいに怪物がいて、迷宮があって。
そして、レベルがある。
そこから転生者は考えた。
「これ、養殖が出来るんじゃないか?」
養殖。
経験値稼ぎの手段である。
RPGにおいて、仲間を呼ぶ敵がいる。
戦闘中に同じ種類の怪物を呼ぶ者達だ。
これが厄介で、倒しても倒しても敵が減らない事がある。
低レベルだとそこそこ厄介な特性だ。
しかし、プレイヤーが強ければ話は違う。
楽に相手を倒せるなら、都合が良くなる。
呼び出した分だけ、経験値や金が多くなるからだ。
なので、敵の数がある程度減ったら攻撃を控える。
仲間を呼ぶことで数が増えてきたら、一定の数になるまで減らす。
減らしたら攻撃を止めて、仲間を呼ぶのを待つ。
このくり返しで、経験値と金を稼いでいく。
こういった行為を養殖と呼んでいた。
他にも様々な表現があるかもしれないが、転生者はそう言っていた。
それを転生してきたこの世界でも出来るのでは、と考えた。
なにせゲームでは無い現実である。
出来るだけ安全に稼ぎたい。
死んだらそこで終わりなのだから。
そうでなくても、戦えば怪我は避けられない。
怪我をすれば痛い。
単にHPが減るだけでは済まない。
傷に流血は当たり前だ。
治療用の魔術もあるが、それでも怪我は避けたい。
瞬時に傷がふさがるが、痛いものは痛いのだ。
そんな痛みは可能な限り避けたい。
それに、ゲームと違って現実ならではの問題もある。
怪物に遭遇するかどうかという事だ。
ゲームでも、怪物との遭遇は運任せな所がある。
ゲームシステムによる、一定の時間が経過するか、ある程度歩き回らねば怪物に遭遇しない。
そうして遭遇した怪物がねらい通りである可能性もない。
現実だとこういった問題がより大きくなる。
歩き回り、動き回って怪物を探さねばならない。
その分、体力が減る、疲れがたまる。
それに、遭遇する怪物が自分に適した強さとも限らない。
現実ではゲームのように、「この場所にはこの怪物」と出現場所が決まってるわけではない。
自分より強い怪物と出会う可能性も高い。
その逆に、自分より弱く、稼ぎにもならないものと出会う事もある。
何よりも、そもそも怪物に遭遇するかどうかという問題がある。
確実に怪物が出て来る迷宮ならともかくだ。
野外にいる怪物との遭遇は完全に運任せになる。
もちろん、足跡をたどって居場所を見つける事も出来る。
だが、そうまでして怪物を探す労力に見合うかどうか。
野外の怪物の生息地を探し当て、そこを襲撃して怪物を倒してもだ。
費やした時間や能力に見合う実入りがあるとは限らない。
時給換算したら、とんでもなく低収入という事もある。
この為、野外で怪物を倒すよりも、迷宮に入った方が稼げるという事実がある。
そこには確実に怪物がいるからだ。
ただし、遭遇率・遭遇回数が増えるので、どうしても危険になる。
単独での行動はまず不可能だ。
だから養殖である。
怪我無く無理なく稼ぎたい。
経験値と金を。
そして、なるべく効率よく遭遇したい。
その為に何が必要なのか?
出て来た答えが養殖だった。
弱い怪物で良い。
経験値と金は少なくても良い。
ただし、仲間を呼び寄せる事。
そういう怪物を探して見つけて、捕獲する。
どこかに閉じ込めて、仲間を呼び込ませる。
呼び込んだ怪物を倒して経験値と金を稼ぐ。
それが出来る怪物をまず見定めた。
幸い、最弱の部類に属する怪物でも、仲間を呼ぶ習性があるものがいた。
それを閉じ込め、延々と稼げるようにした。
最初の仕掛けを作るまでは苦労した。
それなりの深さと広さを持つ穴を掘るだけであったが。
それを出来るだけ人目に付かない場所に作るのだ。
見つかったらどうなるか分からない。
それから、目的の怪物が入るのを待った。
おびき寄せる為の餌を用意したが、簡単には引っかかってくれない。
最初の一匹が引っかかるまで一か月かかった。
しかし、最初の一匹が来てからは楽だった。
次々に呼び寄せられる怪物達。
子犬程度の大きさの、怪物としては最弱に位置する獣型の存在。
それらが次々に集まってきた。
入れ食い状態になった。
穴の外から槍を突き刺す簡単な作業にだった。
それでそれなりの成果が出てくる。
安全に確実に怪物を仕留める事が出来る。
おびき寄せるための何匹かを残せば良いので苦労も少ない。
とはいえ面倒もある。
怪物を倒すとあらわれる魔力結晶。
これを回収するのが手間だった。
何せ、怪物は何匹か残さねばならないのだ。
回収するために穴の中に入ればならないので、この時だけは気をつけねばならなかった。
怪物は魔力の塊である結晶で生きている。
これを中心にして骨や血肉が出来上がってる。
死ねばこの魔力結晶を残して肉体は消える。
この魔力結晶が経験値や金になるのだ。
魔力を吸収すればレベルが上がる。
魔力で動く道具の燃料になるので、売り払う事も出来る。
だから怪物退治をもっぱらとする者達は、この魔力結晶で生計を立ててる。
これを手に入れねば、レベルの上昇も食いぶちも手に入らない。
なので、危険を承知で穴の中に入るしかない。
それもレベルが上がって、最弱の怪物をなんなの倒せるようになるまでだったが。
最弱の怪物が相手なのだ。
少しレベルが上がるだけで問題なく対処が出来るようになった。
更にレベルが上がり、魔術を身につけるともっと楽になった。
相手を状態異常にする魔術で怪物の動きを鈍らせれば良い。
それも、比較的軽度な魔術で充分だった。
動きが鈍くなる朦朧状態になればそれで問題はない。
楽に魔力結晶を回収する事が出来るようになった。
こうして安定した収入を確保する事が出来るようになった。
一晩あければ、それなりの数の怪物が集まってるのだ。
倒して魔力結晶を回収するのも難しくはない。
怪物の養殖は転生者に定期収入を与えてくれた。
レベルも順調に上がっていく。
最弱の怪物の魔力は少ない。
大量に集めねばレベルも上がらない。
その為の数を集める事が出来るのだから、レベルの上昇も簡単にできる。
程なく中堅程度の強さを身につけるようになった。
そして、中堅程度の強さがあればそれで充分だった。
別に迷宮を攻略したいわけではない。
名をはせたいわけではない。
転生者が求めてるのは、安定した収入だ。
危険を冒して戦うつもりはない。
そこそこの強さでそこそこの稼ぎを手に入れる。
それが出来るようになっただけで充分だった。
日当三万円程度。
これを確保出来れば良かった。
ただ、養殖の管理が面倒にはなってきてる。
今は各種の怪物を確保している。
それらを留めておくために、幾つかの穴や檻・柵を用意している。
それらを適切に間引く必要もある。
でないと、対処しきれないほど大量の怪物が集まってしまう。
そうならないように管理するのが面倒だった。
「でも、がんばるか」
全ては安定した稼ぎのためである。
ほどほどにレベルも上げておきたい。
その為にも、面倒な怪物の処理もしていく必要がある。
いっそ人を増やすべきかとも考える。
しかし、露見した場合にどうなるかを考えるとなかなか踏み切れない。
怪物の養殖など、この世界の人間からすれば狂気の沙汰だ。
下手すれば、怪物の味方をしてると考えられてしまう可能性もある。
ある意味、怪物を生かして確保してるのだから。
そうなった場合、人類の敵扱いされかねない。
それを考えると、下手に人を入れられない。
やむなく一人でやっている。
なんだかんだでこれが一番安全だった。
秘密が露見する事もないのだから。
そんな怪物養殖場はその後もそれなりに続いた。
場所を移し、人の目に見つからないように。
そのおかげか、転生者がやってる事は最後まで誰にも知られる事はなかった。
縁があって一緒になった女房と、その間に生まれた子供達にも。
「父ちゃん、いったいどうやって稼いでんだろ?」
そんな疑問は常につきまとったが。
そんな転生者はしっかりと天寿を全う。
穏便に生きて穏便に死ぬ事が出来た。
自宅で子供と孫に囲まれながら。
「まあ、悪い人生じゃなかったな」
そんな事を今際に思って二度目の人生を終了させていった。
先だった女房を追いかけるように。
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