1年に1度、君に花束を贈るよ
1年に1度。
世界で一番大切な人から花束が届く。
花束には、花言葉が書かれた小さなメッセージカード付き。
「お届けにまいりました~」
今年も業者の方が届けにきてくれた。
「ありがとうございます。」私は笑顔で受け取る。
淡いピンクのイングリッシュローズ
ぎゅっと花束を抱きしめると、バラの甘い香りが広がった。
メッセージカードを見ると、
【花言葉:微笑み】 “君の笑顔が一番可愛い!ほら、笑って!”
「もう、ばかだなぁ…」呆れながらも、大切な人からの花束に笑顔がこぼれた。
「ねぇ、あなた。あの日から変わらず、ずっと、ずーとっ大好きよ。」
ベランダから雲一つない青い空を見上げて、私は言った。
きっと私の声はあなたに届かないけれど、私は想い続けているよ。
…5年前。
世界で一番大切な人がこの世界からいなくなった。
悲しくて、寂しく、辛くて。
”どうしようもなく、愛してる” ってきっとこういうことなんだって思った。
あなたに会いたい。
そう願ったとき、インターホンが鳴った。
「お届けものでーす!」
何も頼んでないのに..
実家からの送りものかと思い.玄関のドアを開いた。
すると、赤いバラの花束を抱えた宅配業者さんが立っていた。
宛先を聞くと、この世界にいないはずの彼の名前だった。
宅配業者さんは、メッセージカードがあることを教えてくれて去っていった。
バラの花束に付いていたカードを開くと、見覚えのある字がそこにあった。
【花言葉:あなたを愛しているよ】
“きっと僕のことが大好きな君は。僕のもとへ来ようとするから。
君が60歳になるまで花束を贈りつづけるよ。
毎年届く花束を楽しみの一つに、どうか生きてほしい。
しわくちゃになった君もきっと可愛いだろうな。
世界で一番君を愛しているよ。”
私は花束をぎゅっと抱きしめ、泣きながら床に崩れ落ちた。
もう二度と会えない、大切な人。
あなたの字をもう一度見ることができて、本当に嬉しかった。
―亡くなる前、病室にて―
「僕が死んだら、毎年花束とメッセージカードを彼女に送ってほしい」
花屋を営んでいる親友にお願いをした。
はじめは僕が死ぬことを受け入れられなくて、自分で生きて渡してくれと拒まれた。
だけど日に日に変わっていく姿に、最終的に協力してくれた。
「ごめんな、最後に我儘をいって。」書き終わったメッセージカードと代金を親友に渡した。
「いいんだ。きっと彼女は喜んでくれるよ。」
親友はベッドに横たわる僕の手をさすって、そう答えた。
30枚も書かれた小さなメッセージカード。
そこには花言葉と、その年ごとに彼女に届けたい言葉を綴った。
はじめは花言葉なんて分からなくて、ネットで調べた。
僕がいなくなった後、どうしたら彼女が幸せになれるか考えた。
どうか悲しみで溢れるのではなくて、少しずつでいいから…
僕にいつも見えてくれた優しい笑顔であってほしい。
ただただ…彼女の未来を想って。
私は彼が亡くなってから毎年届く花束とメッセージカードが楽しみになった。
2年目はカスミソウ
【花言葉:永遠の愛】“プロポーズで渡した花だね。あの時は本当に緊張したのを覚えている。僕を選んでくれてありがとう。愛しているよ。
3年目は白いダリア
【花言葉:感謝】“君が好きな花の一つだね。今年も大好きなフルーツタルトちゃんと食べた?”
ふふ!毎年私の誕生日には、白いダリアとフルーツタルトを買ってきてくれたね。
それからポピー、胡蝶蘭、フリージア、ガーベラ…など毎年届いた。
ピンクのユリ
【花言葉:優しさ】“君の名前の花だから僕も大好き。優しい君にぴったりの花言葉だ!”
向日葵
【花言葉:君だけを見つめる】“夏生まれで、太陽のような笑顔の君にぴったり!大きな笑い声、聞こえないぞ!”
すずらん
【花言葉:感謝】“大人で美しい女性に成長しているんだろうな。看板にぶつかる、おっちょこちょいなところは治ったかい?なんて、本当に言いたいことは…僕のことを想い続けてくれてありがとう。”
当初は悲しみや寂しさで辛い日々が続いた。
こんな気持ちになるなら、あなたに出会わなければよかった。
なんてね…
あなたを知らないままでいるなんて…
あなたと過ごした日々を、なかったことにできなくて。
それなら、あなたをずっと想って生きていきたい。
「今年はどんな花束かな!」
白いユリの花
【花言葉:純潔で誇り】
“世界で一番優しくて、可愛くて、おっちょこちょいで、誰よりも真面目な君が大好きだよ。
聖母のような君は、きっとこれからも出会う人を幸せにしていくだろう。
誰よりも君の幸せを世界で一番祈っているよ!幸せになっていいんだからね!”
ねぇ、あなた。
あなたと出会ってからも…
付き合って結婚してからも…
失った今でも…
ずっとあなたに恋をしているよ。