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10.手紙

 その手紙には、今すぐフィオナを連れて神聖国へ帰国するようにウィリアムに指示しろとの兄王太子からの指示が書かれていた。


 エドワードには初めから、フィオナを帝国に止まらせる気が無い事は、レオナルドにもわかっていた。いつまでもリュカのかわりにいられるものでもない。バレればその時に。バレなくとも、早々にフィオナを引き上げさせたがっている事はわかっていた。


 そもそも、帝国との結婚において、抜かりなく丁寧に進めたがったのは父王だった。

 原因は、レオナルドが生まれて7年経つまで帝国からの申し入れが無かった事に起因する。

 神聖国は、世界中に湧き出てくる魔物の討伐には力を有効に使えるが、特有の神聖力は人間相手にはあまり効力を発しない。そもそも小国で他国との戦争には向かない国であるからこそ、帝国の守護を必要とし、この縁戚関係を維持する事が重要であると。

----お父様はそう考えているけど……。

 兄には、昔からフィオナしか目に入っていないようだった。

 フィオナが必ず聖女に覚醒し、自分の側妃になると信じて疑わなかった。正妃となる婚約者、四大公爵家の一つエリクセン公爵家の嫡女カトリエンヌ嬢は毎日登城し、王妃教育も順調に進んでいると聞く。

 護衛騎士の選定の際、レオナルドとフィオナの希望を父王が退けたのは、未だに父王がフィオナが聖女に覚醒する可能性を疑っていたからだった。


『聖女は、神聖国から絶対に出してはならない』


 創国からの神との誓約に従って、ルグドゥル王国では、聖女が顕現すれば必ず国王の側妃とし、外交の際にも連れ出した事は無かった。

 2000年を超える王国の歴史の中で、類稀なる神聖力を持ち、聖女と呼ばれた女性は数多くいたが、その中に特筆すべき聖女が3人いた。3回と言うのが正しいのかも知れないが。

 彼女達は、歴代聖女達の中でも飛び抜けて強い神聖力を持ち、神聖国に居ながらに世界中に沸き出た魔物を滅する事が出来たという。


 そんな彼女達には、幾つかの共通点があった。


 ひとつは、男女の双子で生まれてくる事。


 ひとつは、生まれながらに類稀なる神聖力を持っている事。


 ひとつは、7歳になるまでに高熱を出し、聖女として覚醒すること。


 その後、男女の双子として生まれてきた男の子は、歴史上必ず聖女に仕える騎士となり、


----聖女と騎士は死ぬまで共にあったと。 


 今までに3組、そんな聖女と騎士となった男女の双子がいたと、記録にあった。


 王族だけが見る事のできる書庫で、レオナルドもこっそりと見た。


 本来、レオナルドはリドルグラシア帝国に娶られる皇子なので、あまり王国の中枢に関する記録は見せて貰えない。

だが、幼い頃のある日。


 フィオナに貸していた騎士と聖女の絵本をリュカが王宮に来たついでにと返してくれた時に。


『このような双子の女の子は、創国当時の乙女の生まれ変わりと言われるそうで、神聖国の歴史において、3回、生まれ変わられているそうですよ』


 ご存知でしたか? と、リュカに声を掛けられた。


 何故、リュカが知っていたのかは分からない。


 だが、侍従にお願いして書庫へ行って調べて、リュカが言った事が事実である事を知った。

 今代、男女の双子として生まれたから、父王からハドクリート伯爵に詳しく聖女についての打診があったのかも知れないし、その話をリュカが父伯爵から聞かされていたのかも知れない。


 だが、なんとなく。

 レオナルドは、この話をリュカが初めから知っていたような気がした。


 何故かはわからない。


 ただ。リュカはあの話をした時。


----『創国当時の乙女』と。


 皆が『初代聖女』と称する方の事を、そうは呼ばなかったから。



「昨日は、護衛騎士様をお借りしまして、ありがとうございました」


 朝食を共にした際、クロエ皇女がにこやかにお礼を言ってきた。


「……いえ」


 レオナルドの背後には、ウィリアム・キンバリー卿とフィオナ・ハドクリート卿が控えている。


 朝がた、皇城に着いて早々に受け取った兄からの手紙に、レオナルドは嘆息を禁じ得なかった。


 まだフィオナの覚醒を期待しているのか、エドワードはフィオナを諦めてはいない。

 父王は、その可能性を気にしながらも、表向き帝国に粗相をする訳に行かず、リュカの代わりにフィオナをレオナルドに付けた。


----僕は兄様の弟なのに。僕には一言も無いなんて。


 ただでさえ、昨夜は大事なフィオナを第一皇子にベタベタ触られて不愉快だったのに、兄まで執心していては。


----いずれ王国を背負う人として、あの人は大丈夫なの?


 ぷりぷりと不機嫌なレオナルドを微笑ましげに、静かに見つめるクロエに、レオナルドははたと気が付いて顔に笑みをのせた。


「答え合わせが十分に出来ていないのではないかと、ハドクリート卿も心配していました。わたくしでよければお伺いしますが」


 にこやかに言うレオナルドに、クロエは暫しその澄み渡った空色の瞳を見つめて。


「……ありがたいお申し出ですが……っ。……そうですね」


 はたと口に手を当てて、クロエは何かを思い付いた様子でレオナルドを見た。


「本日、この後のご予定は?」


「……? 城内を案内してもらう事になってはいますが、それ以外には特に」


「では、わたくしが案内役を務めましょう」


 にっこりと微笑む皇女に、レオナルドは恐縮する。


「皇太女様はお忙しいのでは。今日は簡単に侍女の方が後宮の案内をしてくれると聞いていますが」


「クロエと。夫婦になるのですから、わたくしのことはクロエとお呼び下さい。レオナルド様。……いえ、レオナルド」


 名前呼びに切り替えを要求されて、レオナルドはたじろいだ。


「……わかりました。クロエ」


「レオナルドはもう帝国に永住する事が決まっています。是非、ご案内したい場所……会わせたい方がいるのです。しかし、残念ながらキンバリー卿とハドクリート卿はその場には同席できません」


 神聖国に、帰る可能性があるからです。


 言外にそう仄めかされて、フィオナは眉根を寄せた。

 何故か、とても不愉快で。

 自分がその様に感じる事が意外だった。


----クロエ様は、何も間違った事は言っていない。私とウィリアムは帰るかもしれない人間だから、会わせられない人なのだと言っているだけだ。


 考えて、腑に落ちない。

 知られてはいけない事実というものは、幾つかあるのだろう。


 だが、『会ってはいけない人』とは?


----その人に会えば、神聖国に帰れなくなる……『人』?


「では、わたくしは先に用意をして参ります。部屋に人を寄越しますので、お食事を最後までお楽しみくださいませ」


 席を立ったクロエを見送った後、レオナルドは直ぐにナフキンを机に置いた。


「わたしも一度部屋に戻る」


 クロエと食事をした食堂には、レオナルド、ウィリアム、フィオナの他にも給仕をする者が何人かいた。

 一瞬ウィリアムとフィオナをちらりと振り返ったレオナルドは、立ち上がると自室へと向かった。







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